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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
22章
199/215

22-2


 その日は一日中りんごの収穫をした。

 うちのメイドさんにも手伝ってもらって作業は大分進んだけど、流石に全部収穫しきるまではいかない。

 次の日も収穫作業を続けたかったが、朝から村の人達が村長邸に集まって来たので、収穫作業は翌日に回す。

 集まって来た人達、特に成人した男の人達が何故か嬉しそうにしている。

 何で嬉しそうにしているかと言うと、これからお酒造りを始めるからだ。

 みんなで持ち寄ったりんごからジュースを絞り、発酵させてりんご酒を造る。

 私達の畑はまだ収穫は終わっていないが、他は既に終わっている家が大半だ。

 村長と言っても村全体のスケジュールには逆らえない。

 村民達が原材料を持ち寄り、樽とかの道具は村長邸に有る物を提供する。

 私達は今年からこの村に来たので、道具類は前の村長が残して行った物だ。

 と言うか、これらの道具は村の共有財産なのかもしれない。

 使うりんごは傷付いたり形が悪かったりする二級品を使う。

 見た目は悪いが味は一級品と変わらないものだ。

 鳥がつついたり、落果して傷が付いた物も混じっているので、放っておくと腐り始めるので、なるべく早く処理したい。

 クロイとリンの畑で収穫して持って来たものも使う。

 村の人達は皆同じ量の果実を持ち寄って、出来たお酒は均等に分配する。

 ほぼ自家消費されるが、私達もクロイ達も飲まないから、その分は売ってお金にするつもりだ。

 果実は良く洗ってから、腐っている部分が有れば切り取るが、皮も芯も一緒に砕いてジュースを絞る。

「生搾りのジュースこんなに美味しいのに、無理にお酒にする事も無いんじゃない?」

 カレンがそう言う。

 私達は搾りたてを少しだけ飲ませて貰っている。

「搾っちゃうと直ぐに発酵が始まるからね。ちゃんと管理しないとお酢になるか最悪腐るからね」

 ユキがそう言う。

 それよりもお酒は村の大人にとっての数少ない娯楽である。

 山賊騒ぎで色々大変な時期だけど、お酒造りを止めると言う選択肢は無い。

 村では麦も作っているから、ビールと言う選択肢も有るけど、穀物は一度でんぷんを糖に分解しないとアルコール発酵が始まらないので手間が掛かる。

 その点、果実は最初から糖が有るのでひと手間減らせて良い。

 去年まで税は麦で納めていたそうだから、ビールにするだけの量が無かったと言う事も有る。

 搾った果汁は一度鍋で煮て雑菌を減らしてから、大きな樽で発酵させるらしい。

「搾りかすは家畜の餌?」

 リーナが聞いてくる。

 結構な量の搾りかすが出る。

 搾る段階で荒く濾すだけなので、幾らか果汁に繊維分とかが入るが、それはそのまま発酵させて、後で取り除くらしい。

 今、濾されて出て来るのは皮や芯の部分だ。

「そうだね。牛や馬は喜んで食べるはずだよ」

 私がそう言う。

「え?でも搾りかすだよ。そんなに喜ぶかな?」

 リーナが不思議そうに聞き返す。

「搾りかすって言うと聞こえは悪いけど、要は食物繊維だよ。人間は消化できないけど、牛とかはお腹の中の微生物の働きで消化できるから問題ないし。普段草ばっかり食べてる子らにはりんご味が付いてるだけでご馳走だよ」

「そう言うもの?」

「そう。それにりんごの芯には種が有るでしょ。植物の種には良質な不飽和脂肪酸が含まれてて良い栄養になるよ。鶏とかも良く食べるでしょ」

 鶏は小石を飲み込んで胃の中に貯めて、それにより食物をすり潰して消化するので、殻付きの種も問題なく食べる。

 牛は反芻する事によって何度も食物を噛み潰すので、種の中の栄養も取り込める。

「ふーん。無駄にならないなら良い事だね」

 みんな納得した様だ。

 村の人達がせっせとりんごを潰し、果汁を煮て倉庫の大樽に満たしていく。

 お酒造りの作業は夕方まで続いた。


 その日の夕食はパンと秋ナスの炒め物、茸と干しホタテのスープだ。

「この干しホタテはモモちゃんの村からの贈り物?」

 スープを一口飲んで、リンがそう聞く。

「そうだよ。キハラが運んで来てくれた。こっちからはりんごとかを送ってるよ」

 カレンがそう答える。

 モモこと桃山梓も私達と同じ転生者である。

 隣の国の海辺の村で暮らしていて、時々それぞれの村の特産品を交換している。

 送って貰った品物は自分達で食べたりもするけど、アルマヴァルト市で売ってお金にしたりもする。

 アルマヴァルトは海から遠い山脈の合間の地方なので、海産物は高く売れる。

 それでも、送料を考えるとそんなに儲けにはならないけど、お互いの近況を手紙で報告し合うついでの取引でもある。

「それにしても、この茸も旨いな。形は悪いけど、干し貝柱の旨味にも負けないくらいの旨味が有る」

 クロイがそう言う。

 今私たちが居るのは村長邸の厨房隣の狭い食堂だ。

 本来の大食堂は、村の学校の教室に転用しているので使えない。

 四人でもいっぱいだったのに、六人プラス赤ん坊が入るとかなり狭い。

「これ、この時期りんご畑に良く生えてる茸だよ」

 ユキがそう言う。

「え?そう言えば見た事ある様な・・・あの茸、食べられるの?」

 リンが驚く。

「食べられるよ。リンの村の人達は別の地方から来た人ばかりだから知らなかったと思うけど。この地方じゃ良く食べてるみたい」

 ユキが答える。

 茸は毒を持つ物も多いから、知らない物は食べないのが無難だ。

「ここの村の人は昔からここに住んでるからね。私達も教えて貰ったのよ」

 リーナがそう言う。

「じゃあ、畑の脇の方に生えてる、あのなめこみたいにヌルヌルした茸は?」

「ああ、アレは毒茸じゃないらしいけど、不味くて食べられないって」

 リンの問いに私達が答える。

「そっか、でも食べられる物一つ分かっただけでも良いや。うちの村の連中にも教えてやろう」

 クロイがそう言う。

 そうやって、みんなでワイワイ喋りながら食卓を囲む。

 山賊がこの村を狙っているかも知れないのに、あまり緊張感の無い夕食風景だ。


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リンゴが名産なら「純リンゴ酢」なんかも良さそう、手間がかかるけど…
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