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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
21章
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21-6


 次の日、私達とキハラは宿を出た。

 キハラはデリン商会の同僚達とキャラバンを組んで西へ、王都方面へと旅立っていく。

 私達は北へ、自分達の村へと戻りたかったが、エドガーさんに呼ばれたので、一度領主邸に立ち寄る事になった。

 門番には顔パスで通してもらう。

 長年、二国の国境付近に位置するアルマヴァルトの領主邸だけあって、門はかなりごつい。

 馬車は中庭の一画に停めさせてもらって、お屋敷の中に入って行く。

 私達は一時期ここで事務仕事をしていた事が有るので慣れたものだが、クロイとリンは初めてだったから少し気後れしているみたいだ。

 知り合いのメイドさんに案内してもらって、応接室に通される。

 エドガーさんはもう少ししてから来るそうだ。

「私達まで良いのかな?」

 ゴテゴテと派手では無いが、綺麗に掃除された趣味の良い応接室を見回して、リンが少し所在無げにそう言う。

「良いんじゃない?領主様って言っても私達とそんなに歳も違わないし、結構気さくな人だよ」

 カレンがそう言う。

 その時、部屋の扉が開いてロリアーネさんが入って来た。

「そうですわ、どうぞくつろいで下さいませ」

 扉の外まで私達の話し声が聞こえていたのか、彼女がそう言う。

 その後に、お茶を持って来たメイドさん達が続いて入って来る。

 立ち上がって挨拶をした方が良いのか迷うクロイとリンに私達が目配せする。

 私達が立ち上がらないところを見て、二人も不要だと察する。

「どーも。お話って、アーネ先生も関係あるの?」

 ユキが気さくに手を振って、そう聞く。

「特にそう言う訳ではありませんが、少し挨拶をしようと思いまして・・・あら、まあ!赤ちゃんですか?」

 アーネさんがリンの腕の中のレンちゃんを見付けて、声をあげる。

「まあ、まあ、抱っこさせて貰ってもよろしいですか?」

 興味津々で、リンの所に迫る。

「・・・は、はい」

 リンからそっと赤ちゃんを差し出されて、アーネさんが大喜びで抱き抱える。

「可愛いですわね・・・私も早く欲しいですわ」

 レンちゃんは今、生後三ヶ月くらい。

 少し前までお猿さんみたいだったのが最近人間らしくなってきた顔を覗き込んで、アーネさんがそう言う。

「おや?」

 その様子に、私は何かピンと来るものがあった。

 良く見ると、アーネさんのドレスが少しゆったりした物なのに気付く。

「もしかして、アーネさんもおめでた?」

 私と同じ考えに至ったのか、カレンが聞く。

「ええ、そうですわ。それを皆さんにご報告しようと思っていましたの」

 知らない人に抱かれて少しぐずり出したレンちゃんを慌ててリンに返して、アーネさんがそう言う。

「え?え?オメデタ?妊娠?」

 リーナが理解できないのか、壊れたおもちゃみたいな声を出す。

 まあ、分からなくもない。

 アーネさんは身長が低い上に童顔なので、子供が出来たと言われても俄かには信じられない。

 私達より結構年上で、エドガーさんと結婚していると知っていてもだ。

「あんまり驚くのも失礼だよ」

 カレンがリーナをたしなめる。

「それでですね、出産の為に一度王都に戻る事になってしまいまして・・・」

 少し歯切れ悪くアーネさんがそう言う。

「ああ、ここら辺は今、山賊騒ぎで大変だからね。向こうの方が落ち着くだろうし」

 ユキが納得した様に言う。

「エドもそう言ってくれるのですけど、大変な時だからと言って領地を離れるのは領主夫人としてどうなのでしょう?」

 後ろ髪を引かれる思いが有るのか、アーネさんは憂いた表情を見せる。

 ただの奥さんではなく、ちゃんと領主夫人としての責任感を持っているのが彼女の良い所だ。

 そうでなければ、まだお腹も目立たないけど、自ら身重の状態で避難して来た領民のお世話をしないだろう。

「ええと・・・旦那さんの事を思うなら、安全な所に居て心配を掛けない方が良いじゃないですか?その方が男の人としては目の前の仕事に集中できますし」

 アーネさんが自分と同じ母親になると分かって、偉い人に対する警戒心が少し緩んだのか、リンがそうアドバイスをする。

「そうでしょうか?」

「そう、それだ。僕が言いたかったのは!」

 遅れて部屋に入って来たエドガーさんが、リンの意見に賛同する。

「別に君の事を足手纏いだと言っている訳じゃ無いんだ。領民の為にもそれが最善だと思うんだ。分かってくれ」

 エドガーさんはそう言って、椅子に座るアーネさんを軽く抱き締めキスをする。

 相変わらずラブラブっぷりを見せ付けて来る。

「王都の新しいお屋敷で出産するんですか?」

 ユキが聞く。

「いや、僕達の王都邸はまだ建設中だからアーネの実家の方に里帰りしてもらうつもりだ。僕の母親も近くに居るしね。それに、ファーレン伯爵婦人にとっては初孫になるから、楽しみにしているだろう」

 エドガーさんがそう答える。

 そう言えば向こうにはヴィクトリアさんも居るから、安心だろう。

「分かったわ。私の事は心配しないで、領主の責務を全うしてください」

 アーネさんはそう言って、キスを返す。

 私達は目のやり場に困る。

 この場で平然としているのは同じ新婚さんであるリンとクロイだけだった。

「さて、今日この場に君達を呼んだのは言わずもがなだが、例の山賊の件だ。あの後にも色々情報が入って来ているから、共有しておこうと思ってね」

 良いだけラブラブっぷりを見せ付けてから、急にエドガーさんが仕事の話を始める。

 そんな訳で、エドガーさんが掴んだと言う情報を聞かせて貰って、それに対して私達は自分の意見を述べていく。


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