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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
21章
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21-5


 リンとクロイの家の片付けは簡単に終わらせた。

 代わりに、農作物の収穫を手伝う。

 収穫物を入れる為の手籠や木箱は山賊に持って行かれなかったので、作業に問題は無かった。

 既に粗方の収穫は終わっていたので、残りを私達四人が手伝えば、すぐに終わってしまう。

 収穫したのは数十箱分のりんごと自分達で食べる為に栽培していた野菜が少々だ。

 ローゼス商会の人に来てもらって高く売れそうな見栄えの良いりんごを買ってもらう。

 野菜と安く買い叩かれる二級品のりんごは売らずに黒毛の(ブラック)マーサが引く荷馬車に積み込んだ。

 その後はみんなで村長の家に挨拶に行く。

 その村長は既に亡くなっているが。

「そうかい、村を離れるのかい。気を付けて行きな」

 未亡人となった村長の奥さんがそう言ってくれる。

「一時的に出て行くだけです。自分達の畑も有りますし、また、ここに戻って来るつもりです」

 少し申し訳なさそうに、クロイがそう言う。

 結局、クロイ達は一時的にだけど私達の村に身を寄せる事にした。

 生活に必要な道具を失ってしまっているから、それを取り戻すまで、私達のお世話になるという事だ。

 ユキが言った様な懸念も有るには有るが、それは取り敢えず無視する事にした。

『山賊の危険はこの辺りの村ならどこでもある訳だし、そっちの村に行っても襲われない可能性もあるじゃない。だったら行っても良いかなって。カレン達が迷惑じゃ無ければだけど・・・』

 良く考えてから、リンはそう結論を出した。

 私達としては、もし山賊が襲って来たら全力で撃退するつもりだ。

 まあ、私個人としてはそれは杞憂だと思うのだが。

「済みません。村がこんな状況なのに、私達だけ他所に行ってしまって・・・」

 村長の奥さんにリンが謝る。

「構わないさ。自分達の事が一番だ。頼れる所が有るなら頼れば良い」

 あくまでリン達を気遣う様に、奥さんが言う。

「あの、気落ちしない様に・・・」

 クロイが奥さんに向かってそう言う。

「別に、気落ちなんかしてないよ。元々敵国の土地に入植したんだ、こんな事になるのも覚悟の上さ。それでも小作じゃなくて、自分の畑が持てるだけマシさ」

 奥さんは無理矢理に笑顔を作って、クロイの言葉に返す。

 確かに、本国の方で新しく農家を始めようとすると、誰かの土地を借りるか、一から荒地なり森なりを手間をかけて切り開くしかない。

 この村は先の戦争で前の住人がワーリン王国に逃げて行ってほぼ廃村に成っていた。

 そのお陰で建物や畑が残っていたので、新しい開拓者を迎えるのには都合は良かったという事情はある。

 気丈な彼女の言葉に、私達は何と言って良いか分からなくなった。


「乗り心地悪くてゴメンね~」

 ガタゴトと道を進む荷馬車の御者台で手綱を握るカレンが後ろに向かってそう言う。

 荷物を運ぶ為の馬車なので、当然、乗り心地は良くない。

「自分の足で歩かなくて良いだけ、十分楽だよ」

 荷台の隅に座るクロイがそう応える。

 赤ん坊を含めて七人と満載では無いがそれなりの荷物も乗っているのに、マーサは力強くに馬車を引いて歩いて行く。

 私達はクロイ達の村を出て、もうすぐアルマヴァルト市に到着する処だ。

 夕方にはまだ少し早いが、私達の村に向かう前に、街で一泊するつもりでいる。

 山賊が出ている事を考えると、道中で夜になるのは避けたい。

 私達の村には先に知らせを出してもらって、山賊に対する注意喚起をしている。

 護衛と言うか、うちの村の領兵と言う事になるギリアムさん達四人は、戦闘の専門家だし、村の男の人も大半は従軍経験者だから警戒をして貰っていれば、山賊が襲って来ても何とかなるだろう。

「マーサちゃんが居るから、トレーダー用の宿にした方が良いよね?」

 街に入ってから、御者のカレンの隣に座っている私がそう言う。

 普通の宿でも馬を停める場所くらいは有るけど、専門の馬房を持つ宿の方が安心ではある。

 避難所になっていた公民館に泊まった時は、マーサだけトレーダー用の宿に入れさせてもらった。

 石畳で舗装された街中では彼女の巨体を維持するだけの道草が生えていないのだから仕方ない。

「そうだね、前の宿で良いかな?」

 荷台のリーナがそう言う。

 カレンが手綱を操り、その宿に向かう。


「あれ、キハラの馬車じゃない?」

 宿の広い駐車場に荷馬車を置きに行くと、見た事のある幌付き馬車を見付けた。

 先にみんなでチェックインをして、私とカレンだけが馬を預ける為に来ている。

 荷馬車から外したマーサを馬房に連れて行くと、そこにもキハラの馬が居る。

「まだ、こっちに居たんだ。うちの村での取引なんて直ぐに終わったはずだろ、もうここを発ってると思ってたんだけどな」

 カレンもそう言う。

「クロイ達の事が心配で残ってるのかな?まあ、宿の方に居るだろうから、聞いてみよう」

 馬の世話をする宿の小間使いの少年に多めにチップを渡して、マーサの飼葉を用意してもらってから、私はそう言った。


 宿の食堂に行くと、既にキハラを見付けた他のみんなが、彼と一緒に食事を取っていた。

「別にそう言う訳じゃ無いよ。いや、確かに心配だったけどさ、俺一人で出来る事はたかが知れてるし、仕事の方が優先だから」

 バターを塗った小麦のパンを齧りながら、キハラはそう言った。

 メニューはパンと数本のウインナーソーセージ、野菜のスープだ。

「じゃあ、何でまだアルマヴァルトに居るの?」

 ユキが聞く。

「山賊が出てるって話しだろ?なるべく沢山で集まってキャラバンを組みたいんだよ。他の村に行ってたデリン商会の仲間を待ってたんだ。明日の朝には出発する予定だ」

 キハラがそう答える。

「そうか、気を付けて行けよ」

 クロイがそう言う。

「ああ、そっちも無事で良かった」

 キハラもそう言う。

 久しぶりに会った元クラスメートの男子同士なのに、そこで会話は終わった。

 別に二人の仲は悪くなかったと思うけど、男子同士の会話なんてこんなもんだったっけ?

 リーナとカレンはレンちゃんを抱っこしたリンを挿んで、赤ちゃんをあやしながら際限なくお喋りを続けている。


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