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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
21章
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21-3


 フライパンで挽き肉を炒め、みじん切りにしたタマネギとニンニクを加える。

 タマネギに火が通った頃にトマトケチャップとコショウなどの香辛料で味付けをする。

 ここまでは良く有るミートソースのレシピだが、そこにすりおろしたりんごを入れて、水っぽさが無くなるまで煮詰めていく。

 最後に塩で味を調整して、別に茹でておいたスパゲッティにかけると、『りんご入りミートソースのパスタ』の完成だ。

 りんごの甘酸っぱさと爽やかな香りが癖になるメニューだ。

 ここはアルマヴァルト市の公民館の様な施設。

 そこの厨房を借りて、私は料理を作っている。

 量はミートソースもスパゲッティも鍋いっぱいにだ。

 今ここは山賊に襲われた村から逃げて来た人達の避難所になっているから、その全員に行き渡るくらい必要だ。

 私達はキハラからの知らせを受けて、取るもの取り敢えずアルマヴァルト市までやって来ている。

「取り敢えず、これでも食べて元気出して」

 赤ん坊を抱えた女性の前に、パスタの皿を置いて、私はそう言う。

 彼女の名前は白鳥凛。

 彼女も私達と同じ転生者だ。

 赤ちゃんは同じく転生者の黒井誠と彼女の間の子供である。

 名前はレンちゃんと言う。

 リンが憔悴した顔で、私を見上げる。

 視線に少し非難の色が混じっている。

 彼女の気持ちも分かる。

 今ここに、赤ちゃんの父親であるクロイの姿はない。

 山賊に襲われた時、彼と村長他数人の村の男性が武器を取って、女性や子供達が逃げる時間を稼いだそうだ。

 不意打ちに加え、かなり大規模な山賊団の襲撃に、村を脱出する以外の選択肢は無かったらしい。

 リン達はなんとかこの街まで逃げて来れたが、クロイ達の安否はまだ分かっていない。

 そんな心配で食べ物ものどを通らない様な状況だろうけど、私は途中で食材を買い込んできて、料理を作った。

 まあ、無神経だと非難されても仕方ないかも知れないが、彼女にはリーナとカレンが付いていたし、それで十分だろう。

 そばに居てあげれば落ち着くのは分かる。

 人情的にそうするのが正しいのだろうけど、でも、四人が全員でそうしていなければいけない訳でもないだろう。

 だからメンタルケアはリーナとカレンに任せて、私とユキは手分けをして食事を作る事にした。

 こんな状況でも、いや、こんな状況だからこそ、ご飯を食べるのは大事な事だ。

 体だけじゃなく、精神までもデブだと言いたければ言え。

 それくらいタフじゃなきゃ、この世界でやって行けない。

 リンにだけではなく、他の人達に配る分も作った。

 ユキが他の村人達に配っている。

 講堂のような大部屋で、備え付けの幾つかの椅子に座っている人も居れば、床に直に座り込んでいる人も居る。

「有難いね。あんたもいただくと良いよ。心配なのは分かるけど、赤ちゃんの為にも今はしっかり食べて体力を付けなくちゃね」

 そう言ったのは、隣に座っていたリン達の村の村長の奥さんだった。

 少し前に、リンとクロイの所に鶏のつがいを持って行った時に会っている。

 彼女も三人の子供を連れていた。

 十歳前後の子供達は物凄い勢いで食べている。

「・・・分かったわ」

 リンもそう言って食べ始める。

 一度口を着けると、後は黙々と食べ続ける。

 りんごのさっぱりした味付けで、ミートソースがくどくならないから幾らでも食べられる。

 彼女達がここに避難して来たのが一昨日おととい

 ちょうどその日にキハラがアルマヴァルト市に到着して、山賊の襲撃の話を耳にして、私達の村にまで知らせに来たと言う事だ。

 市から私達の村までは馬車で急いでも半日以上かかるので、それだけ時間が経ってしまっている。

 キハラは持って来た荷物を馬車から降ろして、うちの村の収穫物を積み込む仕事が有るので、まだ村に居る。

 私達は黒毛の(ブラック)マーサの引く馬車に乗ってやって来た。

 収穫作業は遅れる事になるが仕方ない。

 オリビアさんとギリアムさん達に後をお願いして来ている。

 マーサが居なくても人力で荷物を運べる大八車的な物も有るから何とかなるだろう。

 昨日までは、領主の奥さんであるロリアーネさんと領主邸のメイドさん達がリンの村の人達のお世話をしていた。

 今は色々手続きある様で、領主邸の方に行っているらしい。

 領主であるエドガーさんは、逃げて来たリン達から山賊種撃の話を聞いてすぐに、領兵を伴って襲われた村に向かっている。

 リン達の村は私達の村よりアルマヴァルト市からは近いから、向こうで何だかんだ有っても、もう戻ってきて良い頃かもしれない。

 領内の治安維持に関しては彼等が本職だから、私達は彼等に任せて待つ以外の事は出来ない。

 クロイに関しても、彼も転生時に戦闘系のスキルを幾つか取っているし、この世界に来てからは何度か修羅場を潜り抜けている。

 だから信じて待つしかない。


 その日の夕方、エドガーさん達がクロイ達を連れて戻って来た。

「クロイ!無事で良かった!」

 リンが彼の元に駆け寄る。

「そっちも無事だったか」

 クロイが彼女が抱えてる赤ちゃんと一緒にリンを抱き締めるが、無事を確認して直ぐに離す。

 沈痛な面持ちで村長の奥さんに向き直る。

「村長が亡くなりました。他に三人も・・・」

 クロイの言葉に奥さんが息を飲む。

 辺りに重苦しい空気が満ちた。

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