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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
21章
191/215

21-2


 この世界の普通の農民は三度の食事以外におやつを食べたりは普通しない。

 私達がこうしておやつを食べる事が出来ているのは結構恵まれた事だ。

 一応男爵の爵位持ちだからそれくらいしても良いと思うけど、ちょっと後ろめたいから、たまに村の子供達にも振舞ったりもする。

 今は秋の収穫の最盛期なので、村の学校は休校にしている。

 この世界では子供も貴重な労働力だからだ。

 ただ、学校が有った日には給食を出していて、子供達はそれを楽しみにしていた。

 村には給食を頼みにする程困窮している家は無いが、それでも無いとなると、可哀そうなので、授業がある曜日に子供達の分のおやつも出す事にしている。

 今日がその日なので、自分の家の仕事を少し休んで来てもらって、子供達をおやつを食べさせている。

 うちのメイドさん達が作ったチーズケーキをみんなに分けている。

 週に数度だけでもおやつが有るのは贅沢な事らしい。

 その分の費用は領主である私達からの持ち出しである。

 アルマヴァルト地方では今年は税を課さない事になっているので、収支的にマイナスになるけど、その点も問題は無い。

 今年の夏頃にベルフォレスト子爵の叔父さんの救出作戦をした事に対する報酬が分割で支払われているからだ。

 ベルフォレスト家は最近王国から領地を貰ったらしく、そこでもちゃんと秋の収穫による実入りが有る。

 ベルフォレストさんの領地はこことは違うので、今年からちゃんと税を徴収出来る。

 後はローゼス商会にカレー粉のレシピを売ったお金も有るので、私達のお財布はそこそこ潤っている。

 そんな訳で、私達の食料事情はこの世界基準でも中の上くらいは有るかもしれない。

 私はマーサのそばを離れ、みんなの所に戻って行く。

 おやつを食べ終わった子供達も自分達の家の畑に戻り始めていた。

「でも、ちゃんと毎日仕事してるから、そんな太る訳ないじゃない・・・」

 りんご箱の椅子にもう一度座り、自分の身体を見下ろして、私は震える声でそう言った。

 長袖長ズボンの農作業用の服だから、直接太ももや二の腕は見えない。

 動きやすいゆったりした服だが、最近少しパツパツになって来たような気もするけど、多分気のせいだと思う。

 ・・・多分。

「確かに今日は畑仕事だけど、昨日は家でデスクワークだったじゃない?」

 リーナがそう聞いて来る。

「う、確かに・・・」

 ここのところ、王様だったり、エドガーさんやベルフォレストさんだったり、あちこちの商会だったりと手紙でやり取りをしているので、書類仕事が山ほどある。

 一日デスクワークをして、次の日に畑仕事をしての繰り返しだった。

 それでもなるべく毎日体を動かすようにはしているのだが、運動量は確実に落ちている。

「で、でも、体が重い感じはしないから、筋肉は落ちてないと思うんだけど・・・」

 私はなんとかそう言う。

「そうだね、筋肉はそのままで、その上に脂肪がついてる感じか」

 私の身体をまじまじと見ながら、カレンがそう言う。

「つまり、お相撲さん体質になってるんだ」

 ユキもそう言う。

「うぐっ!」

 言葉の暴力が私に突き刺さる。

「ま、まあ、少しムチムチになってるけど、男性的にはその方が良いって人も居ない訳じゃ無いんじゃないかな?」

 リーナがあんまりフォローになってないフォローをしてくれる。

「みんなだってデスクワークもしてるし、同じモノ食べてるはずなのに何で太らないの?」

 一応私がリーダーになってるけど、他三人も私と同格という事にしてもらっている。

 仕事も似た様なことをしているし、食事内容にも差はない。

 みんなの体形を見返すけど、私以外の誰も大きな変化は見えない。

「それは、まあ、同じ料理でも、食べたいだけ食べてる訳じゃないからね」

 相変わらずスマートな体系のカレンがそう言う。

「てんこちゃんは背が高い分多く食べてる必要が有るかもしれないけど、それにしても食べ過ぎな気がする」

 続けて、容赦ないコメントをする。

「そ、それは、最近は色々と美味しい秋の味覚が・・・」

「天高く馬肥ゆる秋かぁ」

 ユキがまた同じことを言う。

 もういいや、元々私はポッチャリぎみだったし、運動しても疲れないくらいの筋肉量に成れたのはこの世界に来た際の転生特典みたいなものだったし。

「そう言えば、ユキちゃんもなんか大きくなってない?」

 そのユキを見て、カレンがそう言う。

 しかし、彼女が太っている感じはしない。

「え?そうは見えないけど?」

 私はそう言う。

 相変わらず、スレンダーを通り越して少年の様な体形だ。

「そうだね、少し大きくなったかも」

 意外な事にユキはあっさりと認めた。

「そうだよね。確かに背が伸びてる」

 リーナもそう言う。

「ああ、身長の話か。私みたいに太ったのかと思った」

「その話はもう終わりなのに自分で蒸し返すんだ?」

 リーナが私にツッコミを入れる。

 ユキは私達の中では一番身長が低い。

 伸びたと言っても、誰かの背を追い越した程ではないので、イマイチ分かりにくかった。

「女子の身長の伸びは普通中学生くらいで止まるらしいんだけど、そこはある程度個人差はあって、それ以降でも伸びる可能性は有るんだって」

 ユキがそう言う。

「へえ、そうなんだ。って言うか詳しいね」

「そりゃあ、背が低いのは気にしてたからね。それなりに調べてたりはしたよ」

 リーナの言葉にユキが答える。

「じゃあ、私達もまだ大きくなる可能性はあるのかな?」

 カレンが聞く。

「そうだね。てんこちゃんも更に伸びるかも?」

「止めて、これ以上縦にも横にも大きくなりたくない」

 私がうんざりとそう言うと、みんなが笑った。

「さて、そろそろお仕事に戻るか」

 カレンがアップルティーを飲み干して、休憩の終わりを告げる。

 みんなが椅子にしていたりんご箱から立ち上がる。

 それぞれの作業に戻ろうとしていると、りんご畑の脇の道を一台の馬車がやって来るのが見えた。

 黒毛の(ブラック)マーサが引く私達の馬車とは別の馬車だ。

 幌付きの馬車で、幌には以前少しかかわった事のあるデリン商会のマークが描かれている。

 うちの村の農産物の出荷は主にローゼス商会にお願いしているが、他の商会との付き合いも無い訳では無い。

「あれ?キハラじゃん」

 御者台に座る男の人を見て、リーナがそう言う。

 私達の元クラスメイトで、同じく転生者の黄原駿だ。

 彼は私達の姿を見付けると馬車を停め、御者台から飛び降りてこちらに走って来る。

 彼は今デリン商会に勤めていて、たまに私達の村との交易をしている。

 今日もその為にやって来たのだと思うのだが、何故かその表情に焦りみたいなモノが見えた。

「大変だ!クロイの村が山賊に襲われた!!」

 キハラが挨拶も省いて、いきなりそう叫んだ。


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