20-13
「この国では私共は新参者ですので、まだ分かっていない事も多いのも事実。古参の人達には周知の事柄を改めてを聞く事になるのかも知れませんが・・・」
アルフレッドさんはそう前置きをして、聞き始めた。
「沿岸諸国を併合しようと言う案ですが、実はアレックス殿下だけでなく、ブルーノ殿下も反対なのではないのですか?」
「ほう、何故そう思われます?」
ブルーノ王子が面白そうに聞き返す。
「今日の模擬戦で、戦線の一部が崩壊した程度であっさりと降伏を選択したからです」
確かにその事は私達も気になっていた。
白組総大将である彼がビルタン伯爵等と同じ沿岸諸国併合派であれば、王様に対する発言権アップの為にもっと粘っていたはずだ。
「あのまま粘った処で時間は稼げても勝てなかったでしょう。模擬戦はあくまで模擬戦ですよ。国の存亡にかかわる実戦でもないのにムキになってもしょうがない。双方とも訓練としては十分な経験が出来たのですから良いではないですか?それに時間が掛かり過ぎると、この宴会の準備の時間が押してしまっていたでしょう?」
ブルーノ王子が飄々と答える。
「確かにおっしゃる通りですが、それにしても、負けた事に対する悔しさが見えない。・・・もしかしてですが、ブルーノ殿下はビルタン伯爵等の派閥に取り込まれた振りをしながら、その実、彼等の意見には反対で、派閥の内部から邪魔をなさっているのでは?」
近くで焚かれている篝火が反射したのか、アルフレッドさんの瞳がきらりと光る。
ブルーノ王子は動じずに、フッと笑みをこぼす。
「なるほど流石、ワーリンの賢者殿。鋭い洞察です。しかし、外れです。私は海の無い我が国の現状を本気で憂いており、その打開策を常に模索しているのですよ」
「しかし、海外との交易ならば直接海に面した領土を得なくても、今でも可能で・・・いや、殿下の真意は理解いたしました。先程の邪推、お詫びいたします」
これ以上聞いてもブルーノ王子は認めないと思ったのか、アルフレッドさんは引き下がった。
「いや、アルフレッド殿の疑念はもっともだと思うよ。しかし、私は本当に沿岸諸国を手に入れるのが最善だと思っている。だが、ビルタン伯爵等ほど性急ではないと言うだけさ」
ブルーノ王子がそう言う。
「俺は父上と同じで併合には反対の立場だが、ブルーノが国の事を考えているのは分かっている」
アレックス王子がそう言う。
「では、バリス公国に圧力を掛ける件、了承していただきたいのですが?」
「それとこれは話は別だ」
ついでの様にブルーノ王子は言うが、アレックス王子はすっぱりと却下する。
その答えは予想できていたのだろう、第二王子はそれ以上は言わず、肩をすくめる。
「そう言えば、第一王子様は、戦争好きみたいな感じなのに、何で反対派なんだ?」
それまで話を聞いていたユキが横から口を挿んだ。
模擬戦ではアレックス王子の参謀みたいな感じで側に居たそうだけど、大分フランクな感じで話しかける。
「別に戦争は好きではない。実際の戦闘では少なからず犠牲者が出るからな。だが、一度戦端が開かれたのならば、王族として勇を示すのは当然であろう」
特にユキの言い方を咎めたりはせず、王子が答える。
「第一、ビルタン伯爵等の案はギリギリの所まで圧力を掛けて屈服させるか、さもなくば圧力に耐えきれず暴発したところを潰してしまおうと言うものだ、その様な卑怯な真似が出来るか。戦うのなら最初から正々堂々とすべきではないかね?」
アレックス王子がそう言う。
「兄上、言っている事が矛盾していますよ。正々堂々と戦っては犠牲が多いので、搦め手を使うのですよ」
ブルーノ王子がそう言う。
この二人の言い合いで、私は何となく分かった。
一つは長男のアレックス王子は、その言動は喧嘩っ早い様に見えて、実は割りと慎重派である事。
もう一つは、次男のブルーノ王子は兄とは違い、策を巡らすするタイプと見えて、実はなんだかんだ言っても自分の分をわきまえていて、無理に意見を押し通したりはしない事だ。
この二人ならば、この国も、将来上手くやって行けるのだろうと思える。
一連のやり取りで、私以外の人達にもそこら辺が伝わったと思う。
アルフレッドさんもそこが知りたかったのだろう。
いや、もしかしたら彼は既にそこまで察していて、私達、と言うか、甥のベルフォレストさんに気付かせる為に最初の質問をしたのかも知れない。
私達の作った色々な料理を食べてお腹いっぱいになったベルダ姫が、二人の兄に連れられて王城の方へ帰って行く。
「それで、第三王子との婚約を解消して、貴女はどうするの?」
マリーさんがザビーネさんに聞く。
二人はそれぞれのお付きのメイドさんが持って来てくれた折り畳みの椅子とテーブルに着いて食事をしている。
「そうね、ディアナさんのように仕事に生きると言うのも有りかも知れませんが、私には似合いませんわね。こんな年増でも良いと言う人を何処かで見付けて嫁に行きましょうかね」
ザビーネさんがそう答える。
「貴女もお相手は早く見つけた方が良いですわよ。良い男性から先に誰かに取られていくものですから」
年上の女性として、マリーさんにアドバイスをする。
確かに、ここに居る良い感じの男性、ヴェルガーさんやノアさん、ルカさんはみんな既婚者か婚約者が居たりする。
でも、私達の感覚からすればザビーネさんもまだ焦る歳なんかじゃないし、家柄とかの条件も良いんだし、直ぐに相手は見つかるんじゃないかと思う。
「ところで、ザビーネがチャーリー殿下の婚約者を辞退したのなら、てんこ殿がその座に就いたりはしないのかな?」
ヴェルガーさんが私に聞いて来る。
「ええと、あの王子様、背の高い女も嫌いみたいなんで、それは無いと思います」
私はそう答える。
ザビーネさん達は椅子に座って食事をしているが、私や男の人達は立ち食いだったり、地面に直接座っていたりする。
「だったら、僕の知り合いの男性を紹介しましょうか?あなたの歳と釣り合うくらいの人なら何人か心当たりが有ります」
ルカさんがそう言ってくれる。
「え?いえ、その・・・」
私は返答に詰まる。
親切心で言ってくれているのだろうけど、私には当分その気は無いのだから、困ってしまう。
「それだったら、俺と同じ男爵仲間でも、てんこ殿を紹介して欲しいと言う者が何人か居る」
ノアさんもそう言い出した。
「舞踏会の時に声をかけたかったらしいんだが、うちの姉が一緒でかけ辛かったそうなんだ。友達からでも良いからって話だが、どうかな?」
ええ?なんで、今更そんな話が出るの?
って思ったけど、チャーリー王子との話が無くなったからか。
「てんこちゃん、モテモテだね」「ちょっと羨ましいな」「この国の男は見る目が無いって思ってたけど、そんな事も無かったか」
リーナ達が囃し立てて来る。
「待って、待って、そんなの無し無し!チャーリー王子も言ってたけど、こんな無駄に背の高いジミ女、相手にされる訳ないって!」
私は慌てて、そう叫ぶ。
「それは、あの王子に見る目が無かっただけだろう?」
ユキがそう言う。
「謙遜し過ぎですわね。貴女は十分魅力的な女性ですわよ」
ザビーネさんまでもが、そんな事を言う。
この間までは私の事を田舎者だとか元庶民だとか貶していたのにだ。
隣のマリーさんも彼女を肯定する様に頷いている。
さっきまで喧嘩していたと思ったのに、いつの間にか仲良くなっているみたいだ。
「ともかくっ!当分の間、そう言う話は要らないです!!」
自分でも驚くくらいの大きな声で、もう一度叫んだ。
多分私は顔を真っ赤にしていたと思う。
ここまで読んで頂き有難うございます。
ここでまた一区切りです。
続きはもう少ししてからになると思います。
もしくは、別シリーズを始めるかも?
予定は未定。




