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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
20章
181/215

20-5


 私とザビーネさんの乗馬レースでのゴタゴタは有ったが、その日は概ね予定通りに終わった。

 剣術などの個人競技の優秀者は明日纏めて表彰が行われるそうだ。

 トーナメントみたいな感じで勝ち抜き戦が行われていたが、参加者が多い上に半日の時間しかなかったので、勝ち抜いた人でも二戦くらいしかしていない。

 最後の一人になるまでトーナメントをする訳では無く、審査員がそれぞれの技術を見て優秀者を数人選ぶらしい。

 日が暮れて、昨日の夜と同じ様にキャンプ地で食事の支度をしている。

「で?なんで、私達の所にこんなに人が集まってる訳?」

 ユキが周りを見回して、そう言う。

 昨日の夜と同じ様に、ヴェルガーさんとルカさん、それにマリーさんも来ている。

 その他に、マリーさんと言うかベルフォレスト家の従者のマックスさんとエラさん兄妹も居る。

 私達の捜索に来てくれたノアさんも居た。

 マリーさん達は私達の知り合いだから良いだろう。

 ノアさんのユーノ家はもヴェルガーさんのベリーフィールド家の遠縁で、これも分かる。

 ディアナさんが元はベリーフィールド家に仕えていたのもその縁が有ったからだ。

「そこまでは分かるよ・・・それで、何でザビたんまで居るの?」

 私達の作ったホットドッグを食べているザビーネさんを指差して、そう言う。

 ソーセージを挿むパンは主にユキが作った。

 昼頃からから彼女が一人で準備していた。

 パン生地を発酵させる時間が有ったので、ふわふわの柔らかいコッペパンに仕上がっている。

「ソーセージは私どもが持ってきましたが?」

 何食わぬ顔でザビーネさんがそう言う。

 いろんな人達が食材を持ち寄ってくれて、それを私達が調理していた。

「そう言う事ではありませんわ!あなたは敵でしょう!?」

 私の前に立ったマリーさんが、ザビーネさんを睨む。

 ホットドッグに使っている葉物野菜とトマトケチャップはマリーさんが持って来てくれた。

 ザビーネさんが持って来てくれた新鮮なソーセージとそれらが無ければ、私達は古い豚の血のソーセージだけを挟んだ侘しいホットドッグを食べる事になっていただろう。

「いや、例の婚約者の件ではライバルだけど、別に敵じゃないでしょ」

 私がそう言う。

「そうですわ。同じ国の貴族なのですから、仲間でしょう?」

 ザビーネさんもそう言う。

 この間までは私達に対して敵愾心を剥き出しにしていた彼女を知っていると、いきなり掌を返した様に見えるが、私は別にそれにはツッコまない。

 利害が対立していただけで、話してみるとそんなに悪い人でもなかったみたいだ。

 森の中で助けが来るまでの間、私とザビーネさんは少し話し合った。

「あ、明日の模擬戦ではてんこさんとは敵の組になりますし・・・」

「それを言ったら、貴女の家もこちらの組でしょう」

 マリーさんとザビーネさんが言い合う。

「マリーさん、新たなライバルが出来そうだから、慌ててるみたいね」

 私の分のキノコのスープを持って来てくれたリーナがそう言う。

 スープはエラさんが作ってくれた。

 みんな、色々と食材を持って来てくれたけど、私達だけじゃ調理しきれないから、エラさんや他の人達にも手伝ってもらっている。

「ライバル?チャーリー王子の件ではマリーさんは直接関係ないと思ってたけど?」

 私はそう言う。

「そうじゃないよ。ザビたんがてんこちゃんと仲良くしようとしているのが許せないんだよ」

 ユキがそう言う。

「?」

 良く分からなくて、私は首を傾げる。

「まあ、分からないならそれで良いんじゃないか?」

 ユキが有耶無耶にする感じで言う。

「それにしても、てんこちゃんがピンチを救ったと言っても、まだ婚約者の件には決着はついてないよね?何で仲良くしようとしてるんだろう?」

 リーナが疑問を口にする。

「何?勝負している内に友情が芽生えたって感じ?」

 カレンが聞いて来る。

「うーん?そう言うんじゃないよ。それに怪我したザビーネさんの応急処置はしたけど、ちゃんと治したのはリーナだし、最終的に熊を退治したのはアレックス王子達だし、私は別に大した事はしてないんだけどな」

 私はそう言った。

「結果じゃなくて、真っ先に助けに行ける処がてんこちゃんの良い所だと思うよ。それが伝わったんでしょう」

 リーナがそう言う。

 そうかな?あの時はジルヴァも居たし、なんとかなるって目算が立っていたから助けに行ったけど、そうじゃなかったら、私は一目散に逃げてたと思う。

 私はみんなが思っているより利己的な人間だ。

 出来る事はするけど、出来ない事を無理にやってみたりはしない。

「ところで、アレはどういう関係なんだろう?」

 ザビーネさんの方を指して、ユキがそう言う。

 私達が話し合っているのとは別に、ザビーネさんとマリーさんが言い合っていたが、そこに第三者がやって来て仲裁を始めていた。

「ザビーネ様、我が国に新しく入って来たお嬢様に辛く当たるのはどうかと思いますが」

「別にイジメたりはしていないわ、この娘が突っ掛かってきているのよ。私はどちらかと言えば仲良くしたいのですわよ」

 ザビーネさんに忠告しているのはノアさんだった。

「ノアさんて男爵だよね、伯爵令嬢がなんか、しおらしくなってない?」

 確かに、格下の相手にはいつも強気に出ていた彼女とは少し違う。

「もしかして、良い関係だったりする?」

 リーナが向こうをチラチラ見ながら、そう言った。

「え?王子様は?それにノアさん結婚してるよね?だから爵位を継いでるんだろ?」

 ユキがそう言う。

 確かそうだったと思う。

 年齢的にもノアさんはヴェルガーさんと同じくらいだったと聞いている。

「あの三人は同い年だからね。身分は違ってもなんだかんだ仲が良いんだよ」

 ホットドッグを齧りながらやって来たルカさんがそう言う。

 彼のはケチャップではなくマスタードがかけられている。

「三人?」

「ザビーネさんとノア殿、ヴェルガー殿の三人さ。恋愛感情とかは無かったみたいだけど、幼馴染みって感じかな」

 ルカさんがそう答える。

「・・・そうなんだ」

 私達は何となく納得した。

「ところで、チャーリー殿下の婚約者候補の件は結局有耶無耶に成ったのかい?」

 ルカさんが聞いて来る。

「そうですわ。それが分からないと、あの方に対する態度を決めかねますわ」

 マリーさんがこちらにやって来てそう言う。

 ザビーネさんはいつの間にかノアさんとヴェルガーさんと話をし始めている。

「それに関しては、明日の模擬戦が終わった後に私とザビーネさんから話すつもりです」

 私はそう答える。

「おや?アレックス殿下の預かりではなかったのかい?当事者だけで決めて良いのかな?」

 ルカさんが訝し気な顔をする。

 私はただ無言で頷いた。

 今ここで全部言っても良いのだが、もう一方の当事者であるザビーネさんが、その時まで秘密にしておきたいと言っていたので、私は曖昧にしておく。

「なるほど?根回しは出来ているみたいだね。ではその時まで楽しみにしておこうか」

 ルカさんはそう言った。

 ホットドッグを食べ終えて、エラさんが作っているスープを貰いに行く。


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