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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
20章
177/215

20-1


 午前の集団訓練が終わると、午後からは個人の競技が行われる。

 剣や槍の試合だったり、弓矢や魔法の的当てだったりだ。

 その中の一つに馬術の競技もある。

 そんな訳で、私とザビーネさんの勝負もここで行われる事になっている。

 王子達も言っていたように比較的穏便な勝負方法だ。

 剣や槍の試合では真剣を使わないと言っても、木刀や先に布を巻いた木の棒を武器にガツンガツン打ち合っている。

 私はともかく、伯爵令嬢にそんな事をさせる訳にはいかないのだろう。

 だから、比較的危険の少ない馬術での勝負になったのだろう。

「丘の向こうの森の中に係の者が居る。そこまで行って印を受け取って先にここまで戻って来た者を勝者とする」

 アレックス王子がルールの説明をする。

 事前にも聞かされていたが、シンプルに駆けっこ勝負だ。

 障害物競走だとか、乗ってる姿の優雅さを競う面倒臭い馬術の審査とかではなかったのは助かる。

 勝敗が分かり易くて良い。

 アレックス王子の隣にはブルーノ王子とチャーリー王子も居た。

 アレックス王子とブルーノ王子は例の件で意見が対立しているはずだが、一見そんな素振りは見えない。

 どっちかと言うと、三男のチャーリー王子だけ少し距離が遠い。

 私達の勝負は貴族達の間でも噂になっている様で、見物人がたくさん集まっている。

 王様は色んな試合を観戦する為に、あちこちを見て回っているし、それぞれの試合に参加する人達はそれぞれで頑張っているが、それ以外の殆どが私達の勝負の野次馬に来ているみたいな感じだ。

「てんこさん、頑張って!」

 マリーさんが声援を掛けてくれる。

 彼女は騎士では無いが、この演習に参加している。

 他にも各貴族家からそれぞれ数人の女性達が王都からここまで付いて来ている。

 それは、普段は人が住んでいない王城の掃除をする為だ。

 いつもは近隣の街の人が掃除とかしてくれているが、演習のついでに年に一回の大掃除をするのだ。

 マリーさんはその大掃除をサボって応援に来ている様だった。

 まあ、貴族の御令嬢は実際の仕事はしないで配下に命令するだけらしいから、さほど問題は無いのかも知れない。

 彼女の代わりにベルフォレスト家のメイドさん達がお掃除を頑張っているのだろう。

 知り合いのエラさんも来ていて、今ここに居ないのは王城の掃除に駆り出されているからなのだろう。

 私は、スタート前の緊張の中、マリーさんやリーナ達に手を振る。

 他にも貴族の令嬢や男性の人も居る。

 一部には私達の勝負をネタに賭けをしている人達も居た。

 賭け事は少額であれば黙認されているらしい。

 伯爵や侯爵家の当主も居る。

 彼等の配下の騎士達も剣術や槍術の競技に参加しているはずだ。

 そっちの方の応援をしてやれよとは思う。

 この国には五つの侯爵家、十三の伯爵家、新しく加わったアルマヴァルト家とベルフォレスト家を含めた二十四の子爵家が有るそうだ。

 貴族の序列は公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順だが、この国には現在公爵家は存在しない。

 公爵は王様の近しい親族で特に功績が有った人だけが名乗れるらしい。

 それも一代だけで、代替わりすると侯爵に落とされると決まっている。

 今の王様には兄弟は居ないし、王子達はまだ独立もしていないので、公爵位は空席である。

 この国にとっての公爵位は滅多に存在しない特別な地位らしい。

「では両人、準備はよろしいか?」

 白いハンカチーフを手にしたブルーノ王子がスタートの合図の為に私達の前に出て来る。

「何時でも良いですわ」

 白い馬の背に乗ったザビーネさんが答える。

「はい」

 私もジルヴァの背で短く答えた。

 純白のハンカチを高く掲げてから、私達の意思を確認した王子はそれを振り下ろす。

 それを合図に、私達は馬を走らせた。

 見物人の貴族達が、歓声を上げる。


 スタートダッシュでザビーネさんの駆る白馬が前に出る。

 やっぱり、ザビーネさんの乗馬技術は高いし、乗っている馬も良い馬だ。

 あっという間に数馬身離されるが、私は慌てない。

 このレース、結構な長距離走である。

 午前中の練習でザビーネさんの乗馬が疲れているだろうと言う打算もある。

 それに私の乗っているこの子、ジルヴァも向こうに比べてそんなに遅い馬でもない。

 馬の本能で前を走る馬が居れば、こちらが命令しなくても自然にその後を追い掛ける。

 私は無理に鞭を入れる事はしないで、ジルヴァの走りたい様に走らせる。

 何度か乗馬の練習をして分かった事だが、こう言う人懐っこい馬はどういう風に乗っても乗り手に従ってくれるが、馬の好きな様にさせてやると特に喜んでくれる。

 私が進みたい方向をしっかり見て、最低限の命令をするだけで良い。

 こちらが身体の力を抜いても、乗り手を舐めることなく従ってくれる。

 リラックスして流れて行く周りの景色を見ることも出来た。

 吹き抜けていく高原の風が気持ち良い。

 早朝にかかっていた靄は既に晴れていて、牧草が茂る緑の丘が良く見える。


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