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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
19章
174/215

19-5


 私達は広い草原で、野営の準備をしている。

 テントの設営と、野外炊事等だ。

 見回すと、たくさんの兵隊さん風の人達も同じ事をしている。

 ここは所謂『王城』と呼ばれる所だ。

 王都に在る王宮ではない。

 ここベルドナ王国では王宮と王城は別のモノである。

 王都は豊かな穀倉地帯である平野の真ん中に在り、人口も多く、広い。

 この世界は中世ヨーロッパ風の世界ではあるが、実は人口はその頃のヨーロッパと比べて数倍はあるらしい。

 なので、中世の城郭都市の様に街の全てを高い壁で囲うのは難しい。

 どちらかと言うと、江戸時代の日本の都市に近い感じだ。

 当時の江戸は世界一の人口を誇る大都市だったそうだ。

 当然、その中心となる江戸城は平城となってしまう。

 平城は地形による防御効果が薄いのが難点だ。

 そこで、この国の初代の王様は思い切った施策を行った。

 つまりは、王都に初めから城は造らずに、別の立地の良い所に城を造る事にしたのだ。

 有事の場合は王都を脱出して、この王城に立て籠もるそうだ。

 王都からここまでは、朝に出発して夕方になるくらいの距離がある。

 まずは、ここまで行軍する事が『演習』である。

 王城は山城ではあるが、それなりの広さがあり、今ここに居る数千人程度の人員は収容できる。

 それでも、私達は王城近くの普段は牧草地にしていると言う草原で野営の準備をしている。

 これももまた訓練の一つだそうだ。

 王城前には小さな街が有り、そこに住む人達は普段は牧畜や王城の管理を生業にしている。

 その街にも宿泊はしない。

 私も一度戦争に参加したことが有るから知っているけど、実際の戦争ではこう言う移動や野宿をする時間の方が多い。

 本格的な戦闘訓練は明日から始まるが、既に諸々の訓練は始まっていた。

「やあ、美味しそうな匂いだね」

 私が鍋で麦粥を煮ていると、ヴェルガーさんがやって来た。

 麦と塩は支給されるが、その他の具材は各自で用意する必要がある。

 今回はいつもの干し肉と乾燥させた野菜を入れている。

 カレー粉は使い切ってしまっているので、味付けは生姜とニンニクを刻んだものを使った。

 シンプルだが、主食の麦と肉、野菜がバランスよく取れる様に配慮している。

「本当だ、ビルタン家の料理人に勝ったってのは本当みたいだ」

 そう言ったのは私達と同じくらいの年齢の男性だ。

 彼はロリアーネさんの弟のルカ・ファーレンさんだ。

 ベリーフィールド家でヴェルガーさんがお父さんの代理で演習に参加している様に、ファーレン家でも彼が出て来ている。

「ルカさんも一緒に食べますか?」

 テントの設営を終えたカレンがやって来てそう言う。

 テント等の備品はファーレン家とベリーフィールド家から借りている。

「こちらの方でも食事は用意はしているんだが、せっかくだから少し頂こうか?」

「そうですね」

 ヴェルガーさんと、ルカさんがそう言う。

 最近親戚に成ったばかりの二人だが、随分仲が良さそうだ。

 当たり前だが、この演習には貴族本人の他にそれぞれの従者の人も付いて来ている。

 伯爵家や子爵家になるとそれなりの数だ。

 本当なら私達のところもギリアムさん達を連れて来るべきなのだが、今回の参加は突発的なものだったので、彼等は村で留守番をしている。

 女騎士風の参加者も幾らかは居るが、女の子四人だけのグループは珍しい。

「どうぞ」

 カレンが器に盛った食事をルカさんに渡す。

「ありがとう」

 彼はにこりと笑ってそれを受け取った。

 ルカさんはアーネさんとは違って身長は高いが、それ以外はお姉さん似の金髪のイケメンである。

「そう言えば、ルカさんは舞踏会には出てませんでしたね?」

 リーナが聞く。

 確かに既婚者のヴェルガーさんが出ていなかったのは当たり前だが、ルカさんもあの会場では見かけていない。

「ああ、婚約者が居るからね。未婚なら出ても良いんだけど、彼女の方の都合が付かなくてね。一人で出る訳にもいかなかったんだ」

 彼がそう答える。

 チラリと見ると、カレンが一人ショックを受けた様な顔をしている。

 惚れっぽい彼女の事だから、今朝会ったばかりのルカさんに一目ぼれしていた様だ。

 そこから、丸一日も経たないうちに失恋したと言った処か?

 と言うか、失恋ですらないみたいだ。

「ところで、ザビーネさんとの勝負方法、乗馬に決まったそうですね」

 カレンの様子に気付きもしないで、ルカさんが私にそう言ってくる。

「あ、はい。昨日、報せがありました」

「見たところ、馬を連れて来ていない様ですが、良かったら我が家のものを貸しましょうか?」

 ルカさんがそう提案してくれる。

 私達や貴族の従者とかは歩きでここまで来たが、貴族本人やその代理みたいな偉い人達は騎乗して移動して来ている。

「最悪、アレックス王子が馬を貸してくれる事に成ってますけど、王族の人から借りるのは正直恐れ多いので、貸してくれると助かります」

 私はそう答えた。

 王子との婚約を賭けた勝負で、私だけ王族からの援助を受けるのは少し具合が悪かったので、本当に助かる。

「そうだね、何頭か連れて来ているから、明日の朝に好きなのを選んでください」

 ルカさんが爽やかな笑顔でそう言ってくれる。

 自動車とかが存在しないこの世界では、徒歩以外では馬が陸上で最もポピュラーな移動手段だ。

 庶民には乗合馬車や荷馬車しか馴染みが無いが、貴族にとっては乗馬は必須の技能である。

 戦場に於いては騎馬部隊は花型の兵科だ。

 もちろん今回の演習にも多くの人達が連れて来ている。

「有難うございます」

 私はルカさんにお礼を言う。

「良いんだ。君達には姉上の命を救ってもらった借りがある。これくらいで返せるとは思っていないから、必要な物が有ったら何でも言ってくれ」

 彼はイケメン顔に更にキラキラを纏ってそう言う。

 本当に有難い。

 ただ困った事に、私は乗馬があまり上手くない。

 この世界に転生する際のスキル選択の時に、『乗馬』のスキルも有った様な気がするが、私達の誰も選択はしなかった。

 元の世界で馬なんて観光牧場にでも行かないと見ないような生物だったから、それに乗るスキルが必要になるなんて思いもしなかったのだ。

 こっちに来てから機会がある時に練習をしているが、あんまり上達はしていない。

 対するザビーネさんは生まれついての貴族だから子供の頃から乗馬もしているだろう。

「勝てそうか?」

 ユキが聞いて来る。

「分かんない。でもなんとかするよ」

 自分で作った麦粥を食べながら、私はそう答える。

 正直、婚約者の座を巡る勝負とかはもはやどうでも良いのだが、なんかいろんな人達に注目されてしまっているので、投げ出す事出来ない感じだ。

 実際に今も、ルカさんにも馬を貸してもらったりと、応援をしてもらっている。

「てんこさん!申し訳ありません!」

 焚火を囲んで私達が食事をしていると、いきなり私達と同い年位の女性がやって来て叫んだ。

 見ると、ベルフォレストさんの娘のマリーさんだった。


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