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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
19章
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19-2


「ところで、ベティさんの始めたアイスクリーム屋さんはどうなってる?もう秋だから、売り上げ落ちてない?」

 熱々のカレーうどんを食べ終わって、ユキが聞く。

 スパイスの香りが店中の充満して、他のお客さんがチラチラこちらを見て来るが、まだ試作品なので売れないと断って貰っている。

 昼食時ではないのでお客さんの数は少ないが、それでも結構な人数が反応している。

 ベティさんの所で安価なスパイスミックスが完成すれば、このお店の売り上げもまた上がるかもしれない。

「そうですわね、もう涼しくなってきましたので、メインは普通のお菓子とお茶に切り替えましたわ。氷菓はまだ出していますが、それ程売れない様になりました」

 ベティさんがそう答える。

「そっか、そっちのお店にも暇が有ったら行ってみたいな」

 カレンがそう言う。

「是非来てください。今の売れ筋はアルマヴァルト産のりんごを使ったアップルパイですわ。そちらでは食べ飽きた物かもしれませんが、腕の良い菓子職人を雇っていますから、悪くはないと思いまわよ」

「あ、そうだ。アップルパイにバニラのアイスクリームを添えて出したら良いんじゃない?」

 リーナがそう言った。

「あら?その組み合わせは知りませんわ。合いますの?」

「一度試してみると良いよ。熱々のアップルパイに冷たいアイスが意外と合うんだよ」

 そう言えば、元の世界では定番の組み合わせだった事を思い出す。

 この世界ではアイスクリームは作るのが大変だから、わざわざ他の物に添えるという使い方はあまり無いのだろう。

「想像して見ると悪くないかもしれませんわね。今度試してみましょう」

 ベティさんがそう言う。

 そこで私はある事を思い出した。

「そうそう、りんごと言えば、これも見て欲しいんだけど・・・」

 私はそう言いながら、自分のリュックから、自分達の村で作ったりんごを取り出す。

「あら、新しい品種ですか?見た目は綺麗ですわね」

 ベティさんがそれを手に取る。

「いえ、品種は前からあるものです。これは有袋栽培と言って、実が小さいうちに紙製の袋で覆って育てています。試験的に色んな品種の木で試してみました。まだ試験段階だから、数はそんなに無いんだけど」

 私はそう答える。

「もしかして、りんごの実一つ一つに袋を掛けたのですか?何故、その様な手間のかかる事を?」

 ベティさんがそう聞いて来る。

「もちろんそうする事によるメリットが有るからです。主に三つのメリットが有ります。一つは、ベティさんも言った様に見た目が良くなります」

 私はそう答える。

「春に摘果した後に袋を掛けて、実に光を当てないで秋まで育てた後に袋を外すと、一気に日焼けして綺麗に赤く色が着くんだよね」

 リーナが私に続いて説明してくれる。

「ベティさんも知ってる様に今年は私達、夏からちょっと外国に行ってたから、袋を外す作業は村の人達にやって貰ったけどね」

 ユキがそう補足する。

「それでも、袋を掛ける作業は大変だったわ。多少見た目が良くなるだけじゃ割りに合わないくらいだった」

 春のその作業を思い出して、カレンがそう言う。

「まあ、他にもメリットが有るからやるんだけどね。第二のメリットは虫や病気が着き難くなる事。育成中に物理的にガードされてるんだから当たり前だけど」

「それは納得ですわね。そうすると、農薬も少なくて済むのではなくて?」

 ベティさんが聞いて来る。

「そうですね。でも、実を食べる虫は防げても、葉っぱを食べられたら困るんで、農薬は普通に使ってました」

 私はそう答える。

 この世界にも農薬は存在する。

 お酢や、植物を発酵させたものにはある程度の殺菌効果がある。

 殺虫剤としては除虫菊の様な植物を原料にしたものが出回っていた。

 除虫菊にはピレスロイドと言う殺虫成分が含まれていて、これは人間を含む哺乳類には無害だけど、昆虫などの節足動物には神経毒として作用する。

 蚊取り線香とかに使われている成分だ。

「あら、農薬が減らせたら良かったんですけど・・・」

 ベティさんがそう言う。

 この世界でも農薬に対する忌避感はやっぱり有るみたいだ。

 私達の村でも、農薬は必要以上に使用はしていない。

 例えばピレスロイドは人間には無害だけど、昆虫全般に効いてしまう。

 害虫以外の虫も殺してしまうので、花粉を運ぶ蜂等が活動する時期には使用しない様に気を使っている。

「まあ、果実に付着する分は減らせるんで、その分は良いかも」

「第三のメリットは有袋栽培にすると、長期保存が出来る様になる事です」

「まあ、何故ですの?」

「ええと、私も良く分かってないんだけど、袋で覆って過保護にしていると、その分、果実にストレスが無いかららしいね」

 私はそう答える。

 果実に直射日光や雨風が当たるとその分ストレスが掛かる。

「そうなんですの?聞いた限りメリットしかありませんわね」

 ベティさんがそう言ってくれる。

「でも、袋を掛けない方が味は良いんじゃなかったっけ?」

 カレンが横からそう言ってきた。

「それは私も聞いた事が有るな」

 リーナもそう言う。

 確かに採れたての味を比べると、有袋栽培より、無体栽培の方が味は少しだけ良い。

 果実の表面に日光が当たる事で、色んな栄養素が作られるからだ。

 とは言え、葉っぱでも栄養は作られて、果実の方に運ばれるので、それほど違いはない。

「手間が掛かる上に味が落ちるとなると、先程言ったメリットと釣り合うのか微妙ですわね」

 ベティさんも首を傾げる。

「そこは考え方なんだよね。収穫直後は袋無しの方が美味しいんだけど、さっき言った様に、有袋の方は長持ちするんだ」

 私は追加の説明を始める。

「つまり、袋無しの方は最初は美味しいけど、時間が経つと、早く味が落ちてきて、収穫から数ヶ月もすると有袋のに美味しさで逆転されちゃう。りんごって長期保存が出来るのが売りの果物だから、この差が大きいんだよね」

 私の説明に、ベティさんが少しの間考え込む。

「メリットとデメリットは分かりましたわ。それで、てんこさん達はこの新しい栽培方法で作ったりんごを売り込みたいという事かしら?」

 彼女がそう聞いて来る。

「そうです。今年は少量しか作ってないけど、まずは一般のお客様に受け入れられるかの調査からお願いしたいんですけど・・・あと、りんごに掛ける紙の袋を作ってくれる所も探してくれると助かります」

 私はそう答える。

 袋は今回は村の人達に作って貰ったけど、りんごの木数本分だけでも結構な作業量だった。

 紙は村の学校で使った物を再利用した。

 この世界、紙もそれなりに生産されている。

 それでも、村のりんごの一割程度を有袋栽培にしたいが、それだけでも自分達だけでは無理だ。

「分かりましたわ。このりんご、見た目も綺麗ですし、他に商品が無い時期なら高く売れそうですわ。袋の費用と手間が掛かる分は値段に上乗せしたいですわよね?」

 ベティさんがそう言う。

 商人の娘だけあって、商機が有ると見れば躊躇わない。

「ありがとうございます。今のままでも、村の存続は出来るんだけど、なるべく付加価値を付けた物を売って豊かにしたいんです」

「貴女、良い領主ですわね。大抵の貴族は領地からの上りをただ漫然と待つだけですのに」

 私の言葉に、ベティさんは感心した様にそう言った。


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