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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
19章
170/215

19-1


「やっぱり汁が飛び跳ねちゃうね」

「ナプキンは必須かな」

 カレーうどんを食べながら、リーナとカレンがそう言う。

 ここは王都のとある食堂。

 ユキが以前働いていた所だ。

 料理勝負の翌日、せっかく王都に来たのだから、立ち寄って食事をしている。

 次の勝負と言うか、『演習』の日程はまだ数日先だ。

 ここはユキが働き出す前は普通の食堂だったのだが、彼女が作ったうどんが好評だったので、今はうどんの専門店になっている。

 今回は新しいレシピとしてカレーうどんを作り方を教えて、その試食をしている処だ。

「流石ユキさんですわ!こんな美味しいスープパスタは初めてですわ!」

 何故か一緒に居るエリザベート・ローズさんが感激の声をあげている。

 箸ではなくフォークとスプーンで食べている。

 きっちり胸元にナプキンを付けているが、育ちが良いからなのか少しもカレーの染みはついていない。

 実はファーレン伯爵邸に彼女が訪ねて来たので、商談も兼ねてここに来ている。

 エリザーベート・ローズ、通称ベティさんはこの国で一二を争うローゼス商会の会長の末娘である。

 今は王立魔法学院の生徒でありながら、自分でも幾つかのお店を経営している。

「で、これが、このうどんにも使われているカレー粉のレシピなんだけど、これを貴女の商会で改良して売って欲しいんだ・・・」

 お店の一番奥のテーブルで、ユキがスパイスミックスの現物とメモを渡す。

「良いんですの?聞いた話では王宮で行われたビルタン伯爵令嬢との料理勝負で見事に勝った料理に使われていたと言うモノでしょう?」

 ベティさんはレシピのメモを見ながら、そう聞いて来る。

 私とザビーネさんの勝負は、舞踏会に来ていた貴族達の噂から、一般の人達にまで知れ渡っている。

 それはそれとして料理勝負はまだ昨日の事なのに、その結果を知っているとは、やはり情報に敏感な商人の娘だからなのだろうか。

「良いんだ。見れば分かるけど、輸入品の高い香辛料を沢山使っている。王様や王子様達に振舞う為だから採算度外視になっているんだ。一般の料理屋じゃ赤字に成るから普通使えない。だから、その内の幾つかを安価に手に入るもので代替して庶民でも買える様にして欲しい」

 ユキが説明する。

 この国では輸入された香辛料は総じて高い。

 それでも、トウガラシの様にこの辺の地方でも栽培出来ている物は有るし、元からこの大陸で自生しているハーブ的な物も存在している。

 それらを組み合わせて、カレー粉に似た物が出来ればすごく売れると思う。

「で、上手く出来たら、この店にも卸して欲しいんだ」

 ユキがそう言う。

「まあ、流石ユキさん。お世話になったお店に恩返しをしたいと言う事なのですね」

 ベティさんは更に感激してそう言う。

「本当は特許料みたいに売れた量に応じて数パーセントで良いからマージンが欲しいんだけど、そう言うのってやってないんだよね?」

 カレンがそう聞く。

「そうですわね。余程の信頼関係が無い限り、そう言うのは一般的ではないですわね。両者の力関係によって幾らでも誤魔化せますし、レシピを売る方も買う方も、一度きりの買い切りで取引するのが普通ですわ」

 ベティさんがそう言う。

 以前にも調べた事が有るが、この世界にはまだ特許庁の様な知的財産を管理する機関は存在していない。

「私はユキさん達の事を信頼していますし、私の事も信頼してもらって構わないのですが、流石に商会の取引を私の一存だけでは決められないですわね」

 申し訳なさそうにベティさんはそう言うが、流石に商人だけあって、商談に関してはキッチリしている。

「分かってる。王宮で作ったカレー炒飯はお米がまだ普及していないし、スパイスも高いから、それでお金を稼ごうと思っても、私達だけじゃ上手く行かないんだ。ベティさんに頼めば、少しでもお金になると思ってね」

 ユキがそう言う。

「私達の方でも、安い材料で試してみたんだけど、中々上手く行かないんだよね」

 自分の分のカレーうどんを食べ終えて、リーナもそう言う。

「そうですわね、こうして見てみても、替えの利かなそうな材料ばかりですわ」

 レシピを見ながら、ベティさんも唸る。

「この味をそのまま再現しなくても良いと思うんだ。多種類のスパイスを使った料理ってこの辺じゃあんまり無いから、それだけでも、珍しいと思う」

 私がそう言うと、ベティさんは少し考えた。

「そうですわね。一般に外国産のスパイスがあまり普及していないのは、高価なのも有りますけど、使い方が良く分からないからなのも原因なのでしょうね。こうやって、丁度良い配合のミックスを売ると言うのは理に適っていますわ」

「あと、お金持ち相手にはオリジナルのレシピに近い物を売って、庶民には安いけど簡単に使えるスパイス・ミックスって感じで差別化をしても良いかも」

 続けて私はそう提案する。

「なるほど、幾つかのバリエーションを売り出すのですね。つまり、この『カレー粉』でしたっけ、確かにこれは美味ですけど、この味だけではなく、スパイスをあらかじめ配合したものを売るというアイデアも私共に売りたいのですね?」

 ベティさんがそう聞き返してくる。

「うーん、あれ?そう言う事に成るのかな?」

 私は曖昧に返事をする。

 最初はそんなつもりじゃなかったけど、ベティさんに言われてそんな気になってきた。

「流石、ユキさんの上司ですわね。貴女、商売人の才能が有りますわ」

 ベティさんが私を褒める。

「ええと、私は別にユキの上司じゃないよ。一応みんなのリーダーだけど、それは形だけって言うか・・・」

 私は色んな人に過去何回かした説明をする。

「『友達』でしょ」

 リーナが面倒な説明を一言で置き換えてくれる。

 ユキとカレンも同意する様に頷く。

「分かりましたわ。取り敢えず、この商談は父様の方に口利きしておきますわ」

 クスリと笑って、ベティさんがそう言った。


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