18-8
結局、ザビーネさんとの勝負は三回戦まできっちりやる事に成ってしまった。
その為に『王城』での演習と言うか軍事訓練に私達までついて行く事が決まった。
勝負の方法はまだ未定だが、当日までには王子達が何か考えるそうだ。
「それで、私が勝っても婚約は無しって約束は生きてますよね?」
カレー炒飯ではない普通の炒飯を作りながら、私は王様にそう聞く。
私達はまた王宮の厨房で料理を作っている。
王妃様の要望でここの料理人達にお米料理の作り方を教えている処だ。
今日は数種類のバリエーションの炒飯を教える事になっている。
明日以降も別のお米料理を教える約束をしてしまった。
今ここに居るのは料理人の人達以外には、王様と王妃様、王女様と私達だけだ。
ザビーネさんは既に帰ってしまっていて、王子達は演習の打ち合わせをしに行っているらしい。
「ああ、勿論だ。長々とつきあわせてしまって悪いな」
本来は王子達と一緒に打ち合わせに参加しなければいけないはずのだが、私との約束の確認の為に残っている王様が、そう応える。
「あら?勝ったらうちにお嫁に来てくれるんじゃないの?」
王妃様が、そう聞く。
「あ、ええと、その、済みません。やっぱり、新参者の男爵とかでは釣り合わないかなって・・・」
私はしどろもどろになりながら答える。
「私は別に気にしませんけど?」
「まあ、そう言うな。あいつの素行の悪さはお前も知っているだろう」
王妃様の言葉に王様がそうフォローしてくれる。
「そうね、あのチャランポランなチャーリーにこんな良い娘さんは勿体無いかしら」
溜息をついて王妃様も納得する。
どうやら、チャーリー王子の女癖の悪さは両親にも伝わっているらしい。
「ところで、てんこちゃんが勝った場合は婚約は無しにする約束ですけど、あのザビタン・・・じゃないや、ザビーネさんが勝った場合も婚約は無し?」
カレー炒飯用のスパイスミックスの配合比を料理人の一人に教えていたユキが王様に聞く。
「ああ、その場合は儂は関与しないつもりだ。婚約を無しにすると言ったらザビーネ嬢は相当ごねるだろうしな。リチャードの奴が彼女を敬遠しているのは知っているが、そうなら、あいつ自身が直接断るしかないな」
王様はニヤリと笑って答える。
「それはあの王子様、ちょっと可哀そうかも」
炒飯の具材を切っているカレンがそう言う。
「多分大丈夫だと思いますよ」
私達の料理している姿を感心したように見ながら、王妃様がそう言う。
「そうなのか?」
王様が聞き返すが、王妃様は意味深に笑うだけだった。
「それにしても、このチャーハンと言うお料理、手間が掛かりますね」
私に向かってそう言う。
「え、そうですか?鍋を振るのに少し力が要りますけど、割と手早く作れる料理だと思いますけど?」
私はそう答えた。
「でも、お米を一度煮てから、鍋で炒めるなんて、二度手間では無くて?」
王妃様の言葉に私は少し考える。
「ああ、先にご飯を炊く工程も入れると、そうか」
私は鍋で炒める工程だけを考えていた。
「それはですね、炒飯は残ったご飯を再利用する料理だからですよ」
新しく炊いたご飯を持って来たリーナがそう言う。
「この炊いた状態のご飯で、既に完成状態なんです。これにおかずを組み合わせて食べるのが普通で、炒飯とかは余ったご飯を次の日とかに美味しく食べる為の工夫って感じかな」
「ええと、つまり、パンで例えると、白いご飯は焼き立てのパンで、炒飯は古いパンを味付けして焼き直したものって感じになるのかな?」
リーナの説明に私が補足する。
「パンを二度焼きして砂糖をまぶしたラスクの様な物ですか。そう考えると納得できます。クルトンなどもそうですね」
王妃様が頷く。
「なるほど、米が日常的に食べられている場所ならば、こちらのパンの様に余った物を工夫して食べるのも道理か」
王様も納得した様だ。
中々察しの良い王様だ。
「ええと、王様でも古いパンとか食べるんですか?」
ユキがそう聞く。
「ああ、王宮に居る時には滅多に食べないが、地方へ視察に行くときなどは良く食べる。今度の演習でも食べる事に成るだろうな」
「あら、でも、専属の料理人が付いて行くから、そんなに美味しくない物が出される事も無いでしょう?」
「まあ、そうだな」
「ベルダ、ラスク好きだよ」
王様と王妃様の会話に、王女様が加わって来る。
「ところで、君達は遠くの国からやって来たと聞いているが、米の事を知っていると言う事はやはり東大陸から来たのかね?」
私の作った普通の炒飯を味見しながら、王様が聞いて来る。
毒見役が手を付ける前にそれを制して直接食べるし、厨房の中で立ったままだし、かなり大胆だ。
礼儀作法を気にしていないと言うか、それくらい私達にフランクに接してくれているという事なのかも知れない。
「ええと、はい・・・」
私は少し口籠りながら、王様の質問に肯定の返事をする。
私達が転生者だと言う事は多分信じて貰えないと思うので、秘密にしている。
「東大陸と言うか、大陸の近くにある島国から来ました」
「あの島は地震とか火山の噴火とかが良く有る所で、住めなくなって逃げて来たんですよ」
「一口に東大陸と言っても広いし、周りの島まで含めると沢山の国が有るんで、こっちの人達に私達の故郷の事を知っている人は居ないでしょうね」
リーナ達が、そう説明する。
元の世界の日本をモチーフにしているが、もちろん100%嘘である。
転生時にこの世界と言うか、この国近辺の文化風習は教えてもらっているが、それとは別に私達には元の世界の常識も有るので、時々、他の人達に不審に思われる事は有る。
なので、出身地について聞かれた時にはみんなで考えて口裏を合わせているこの設定を話すことにしている。
「まあ、遠い所から大変だったでしょうね」
王妃様がそう言ってくれる。
この世界の航海技術は元の世界の大航海時代ほどでは無いが、それなりに発達しているので、東大陸出身者も少なからずこの大陸にも移住して来ているそうだ。
その人達に会う事も有るかもしれないが、ユキが言った様にあちらの大陸も広いので、別の地方だという事で言い逃れするつもりだ。
「ふむ、米を入手した時にあちらの商人に会ったが、確かに少し雰囲気が違うな」
王様がそう言う。
「ともかく、儂は有能な者であれば外国の人間でも分け隔てなく登用する方針だ」
そう言いながら、炒飯をモリモリ食べる。
「お父様!ベルダにも味見させてください!」
王女様が父親に向かって手を伸ばす。
「貴女、先程もいっぱい食べましたでしょう?お腹は大丈夫なの?」
王妃様が、王女様の胃袋を心配する。
「大丈夫です。一口ずつ頂きますから!」
普通の炒飯をスプーンで一掬いした王女様は、次の餡掛け炒飯の完成を待っている。
子供だけど育ち盛りだからなのだろう、まだまだ食べられそうだ。




