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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
18章
167/215

18-6


 お昼になり、私とザビーネさんの作った料理の試食が王宮の食堂で始まる。

 審査員は三人の王子。

 それと、審査とは関係ないが、昨日会った王様も料理を食べに来ている。

 今日は仮面を着けていないし、昨日の農夫のような格好ではないし、普通に王様っぽい格好だ。

 そして、更に試食をする人が二人も居た。

 シックなドレスを身に纏った妙齢の女性と、十歳くらいの女の子だ。

 予め聞かされていたし、王様の隣に座っていることから、お妃様と王子様達の妹なんだと思う。

 妹さん、王女様は先日の舞踏会には出席していなかったと思うが、多分、まだそう言う年齢ではない為だったからなのだろう。

 マリーさんの弟のアンドリュー君も貴族の子弟ではあるが、同じくらいの歳なので出席していなかった。

 家族の婚約者を選ぶ催しなのだから、お母さんも妹さんも気になるのは当たり前だが、偉い人が一堂に会しているのは緊張する。

 私達は、王様一家の前に作った料理を運んでいく。

「君達は初対面だったな、妻のエレナと末の子のベルダだ」

 私が炒飯を盛った皿ををテーブル置いた時に、王様が紹介してくれる。

 王妃様は軽く目礼するので、私も礼を返す。

 王女様は見慣れない料理に興味津々の様だ。

 私達の料理の他にもザビーネさんの料理も運ばれる。

 彼女が、と言うか彼女の家の料理人が作ったのは、ライス・プディングだった。

 先日の舞踏会の時にも王宮の料理人が作っていたが、今回のはあれよりも色とりどりのドライフルーツが散りばめられていて見た目が豪華になっている。

 私達の炒飯がメインで、ライス・プディングはデザートぽいので、先に私達の料理を食べる事に成った。

 ニンニクとスパイスの匂いが食欲をそそる、名付けて『ニンニクたっぷり、スタミナカレー炒飯』だ。

「では、頂こうか」

 アレックス王子の言葉に、王族の皆さんがスプーンでターメリックで黄色い色が付いた炒飯を掬って口に運ぶ。

 一応、王宮の毒見役が先に食べているので、みんな遠慮なく食べてくれる。

 ニンニクの匂いが気になるのか、王妃様は少し眉を顰める。

 王妃様と王女様の分はニンニクを控え目にしてあるが、やはり、ステラさんやヴィクトリアさんと同じ様に、年配の女性には少しきついのかも知れない。

 だが、審査員の三人の王子はまだ若い男性だ。

 油をたくさん使った料理でもあるが、食べ盛りの人には却ってお腹に溜まって良いかも知れない。

 もちろん食べる人の事を考えてこの料理をチョイスしている。

 武人タイプの第一王子はこう言うのが好きだろうという計算通り、食欲を誘うニンニクの香りに夢中になってスプーンを動かしている。

 細身の第二王子はこう言うのは苦手かもと思うかもしれないが、意外に彼も上品な仕草ながら良く食べていた。

 先日会った時、少し観察していたが、彼も頭脳労働オンリーの様に見えて、実はそれなりに体を鍛えているのが分かっていた。

 真面目そうな性格らしいから、王族として国民の規範になる様に己を律しているのだろうと思う。

 細マッチョでも筋肉を付けているなら、それを維持する為に食事はちゃんと取っているはずだ。

 スタミナの付くニンニクの利いた料理でも問題ないと、私は踏んでいた。

 最後に第三王子のチャーリーさんだが、彼はこちらに味方してくれる約束なので、好みはどうでも良い。

 実質的に、第一王子か第二王子のどちらかに刺さる料理が作れれば勝ちは決まった様なモノだから、気は楽だった。

 ユキの作ったスープも炒飯に良く合う。

 炒飯に使ったのと同じホタテの干し貝柱を出汁にしているので、味のバランスはばっちりだ。

 お酢を少し入れて酸味を足して、さっぱりと飲める様になっている。

 三人の王子と王様は私達の作ったカレー炒飯を完食してくれる。

 王妃様は少し残した様だが、これはしょうがない。

 このこってりした料理を半分以上食べて貰えただけでも十分である。

 意外だったのは王女のベルダ様も、ほとんど残さずに食べてくれた。

 子供にも食べやすい様にニンニクと辛みのあるスパイスを減らしておいたが、まさかここまで気に入って貰えるとは思っていなかった。

「では、次にザビーネ殿の料理を頂こうか」

 一息ついた処で、王子様達は次に伯爵令嬢の料理に手を付ける。

「どうぞ、お召し上がりください。飾りつけは私がしましたのよ」

 ザビーネさんがそう言う。

 彼女の料理は、牛乳と砂糖で煮たご飯にたくさんのドライフルーツがのせられている。

 私達の感覚では、あまり美味しそうには思えないそれだが、王家の人達は躊躇無くスプーンを入れる。

 やっぱり慣れの問題なのだろうか?

 考えてみれば、チーズドリアの様にお米と乳製品を使った料理も有るのだから、そんなにダメって事も無いはずなのだが、どうしても納得できない。

「やっぱり、甘い上に生の牛乳は無いだろう?」

 私の隣で、ユキがぼそりとそう言う。

 確かにそうだ、その上ドライフルーツまで入れる感性は私達には理解できない。

 それでも、王子達は問題なく食べている。

 塩気と辛みのあるカレー炒飯の後に甘いデザートは合うのかも知れない。

 ただ、ベルダ王女だけは少し口を付けただけで、食べるのを止めた。

 子供なら甘いものは喜ぶ筈だが、少し不思議に思う。

「もしかして、あのドライフルーツってお酒に漬けた奴じゃないかな?」

 また、ユキが小声で言う。

 なるほど、それなら子供の口に合わないのは道理だ。

 それでも、王子達と王様は完食する。

 王妃様は小食なのか、これも半分くらいでスプーンを置いた。

「さて、判定はどうかね?」

 口元をナプキンで拭いた王様が、三人の息子達に問いかける。

 王子達は三人とも、空に成ったカレー炒飯の器にスプーンを置いた。

 美味しいと思った方の器にスプーンを置くことで一票を投じたらしい。

 三対零で、私の勝ちだ。

「納得できませんわ!」

 ザビーネさんが立ち上がって、抗議の声をあげる。


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