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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
18章
165/215

18-4


 夕食後はお屋敷のお風呂を借りた。

 この世界と言うか、この大陸のこの地方は割りと衛生観念がちゃんとしている。

 歴史トリビアで中世ヨーロッパの不潔ぶりが取り上げられることが有るが、ここがそうでなかったのは幸いだった。

 ベルサイユ宮殿にトイレが無かったとかの話は有名だし、月に一度お風呂に入るだけで綺麗好きを自称出来るとか、現代日本育ちの私達には気が遠くなる様な話だ。

 この世界では、貴族のお屋敷はもちろん、庶民の家にだって半数くらいはお風呂は有るし、無い家の人も銭湯に行ける。

 昨日行った王宮にはちゃんとトイレが有った。

 先月まで外国に行っていたが、バリス公国もワーリン王国でもそこで困る事が無かったのは良い事だった。

 私達の村に至っては温泉が湧いていて、何時でも入浴出来る。

 このお屋敷に温泉は無いが、薪でお湯を沸かすタイプのちゃんとした浴場は有った。

 外国の映画で見る様な陶器製で一人用のバスタブも有るが、それはステラさんとか偉い人が主に使う。

 私達はお客さんなので使わせて貰う事も出来るのだが、四人が順番で入るとなると、時間が掛かり過ぎる。

 複数の客室には一つずつバスタブは有るが、みんなで別々に入るとなると、そこにお湯を張るメイドさんに負担をかけてしまうので遠慮した。

 結局、使用人用の複数人で入れる浴場を使わせてもらった。

 泊まらせてもらっている部屋も使用人用の四人部屋だ。

「ふう、さっぱりした」

 タオルで髪の毛を拭きながら、自分達にあてがわれた部屋に戻って行く。

 流石にヘアドライヤーは無い。

「こう、火魔法と風魔法を組み合わせてドライヤー出来ないかな?」

 カレンがそんな事を言う。

「その時の体調とかで風量も火力も変わるって、怖くない?ギャグマンガみたいにチリチリパーマになりそうだ」

 ショートヘアでドライヤーをあんまり必要としないユキがそう言う。

「止めておこう。笑い話で済みそうにない」

 カレンが首を振る。

「あれ?エミリオ?」

 部屋に入り、ベッドの上を見たリーナが声をあげる。

 にゃーお。

 ベッドの上に居座っていた猫が鳴き声を上げる。

 このお屋敷で飼っている白黒まだらのオス猫だ。

 元はヴィクトリアさんがお世話していた猫だそうだ。

 アルマヴァルトに異動する時に他のメイドさんにお世話をお願いして置いて行ったけど、ここに戻って来たので、また彼女がお世話をする事に成っている。

 私達の村で半野良のタクアン二世とその子猫達を飼い慣らそうとしていたのは、猫ロスになっていたからだろう。

 ちなみに名前は昔亡くなったヴィクトリアさんの旦那さんの物だ。

「よーしよし」「ヴィクトリアさんの所から逃げて来たのかな?」「って言うか、割と自由にお屋敷の中を歩き回ってるじゃん」

 私達はみんなで抱き上げたり撫でたりして可愛がる。

 半野良のタクアン二世と違って、人間を警戒しないので割と自由に触らせてくれる。

「明日は早いから、早く寝たいんだけどな」

 リーナがエミリオを撫でながら、そう言う。

 試食はお昼からだけど、仕込みとかの準備は朝から始めないといけない。

「ゴメンね、みんなにも手伝って貰う事になっちゃって」

 私はそう言う。

「別に構わないよ。面白そうだし」

「そうだな。相手の伯爵令嬢は自分ちの料理人に作らせるんだろ?ルール的にも私等が手伝っても問題は無いみたいだし」

 カレンとユキがそう言う。

「ザビーネさんだっけ?あの人、結構なお嬢様みたいだから、自分で料理した事とか無いんじゃないかな?本人しか料理しちゃいけないルールだったらてんこちゃんの圧勝だったかもね」

 リーナもそう言う。

「別に私も料理が得意な訳じゃないんだけどね。自分達で食べる簡単な料理とかならともかく、偉い人に出すような手の込んだものは苦手だな」

「いや、十分上手いでしょ」

 カレンがそう答える。

「てんこちゃんの取った『器用さ』のスキルのお陰だよね。それって、結構チートだよね」

 リーナがそう言う。

「でも、『器用さ』って、どっちかと言うとスキルって言うよりパラメーターとかステータスだよね?」

「あの神様だか管理人だか、クラスの男子に言われて急遽作ったって感じだったし、割と適当に出来てるシステムなのかもね」

 ユキとカレンがそう言う。

「って言うかさ、元々この世界にそんなシステムとか組み込まれてないんだよ。言ってたでしょ、ここはゲームの世界とかじゃなくて、魔法が有る以外は私達の世界と変わらないって。世界にそんなシステムは無いから、疑似的に再現する為に、私達の頭の中にそのスキルみたいなものが書き込まれてるんだ」

 私は自分の見解を述べた。

「つまり、そのスキルって私達の頭の中にだけ有るって事か。知識や体の動かし方がレベルに合わせてインストールされてて、使える訳だ」

「そう。だから、効率的な指先の動かし方である『器用さ』がスキルとして有ったんだと思う。他の『力』とか『素早さ』みたいな筋肉を使うステータス的なものが無かったのもそのせいじゃないかな?」

 ユキの言葉に私が答える。

「戦闘系のスキルを取ってると、多少筋力も強化されてるみたいだけどね」

 カレンがそう言う。

 確かに元の世界に居た時より、私は筋肉質になっている。

 以前はもっとぽっちゃり気味だったのが、体重はそのままに脂肪が筋肉に変わった感じだ。

「もし、『力』のステータスが有って、それを取ってたら、筋肉モリモリマッチョに成ってたかもしれなかったってことか。女子としてそれは勘弁だね」

 リーナがそう言う。

「そうだね、でも、私は丁度良いくらいに筋肉が増えてて嬉しいけどね」

「まあ、それも体を動かしてないと直ぐに脂肪に成るんだけどね」

 カレンとユキがそう言って笑う。

 リーナの膝の上で丸くなっていたエミリオが顔を上げて、ドアの方を向いて一声鳴いた。

 次の瞬間、ドアがノックされる。

「あ、もしかしてヴィクトリアさん?」

 私は部屋の入口まで行って、扉を開ける。

「夜分に済みません。もしかしてこちらに・・・」

 ヴィクトリアさんが全部を言う前に、エミリオがリーナの膝から降りて、彼女の所まで歩いて行く。

「やっぱり、ここに居ましたか」

 ヴィクトリアさんが猫を抱き上げる。

 ここのお屋敷に初めて来た時から私達に懐いていたエミリオだが、やっぱり元の飼い主の方が良いらしい。

「失礼いたしました。では、お休みなさいませ」

 ヴィクトリアさんが猫を抱えたままお辞儀をする。

「あ、全然気にしないでください」

 私はそう言う。

「バイバーイ」「おやすみー」「またねー」

 リーナ達もエミリオに手を振った。

「明日は忙しくなるし、もう寝ようか?」

 ヴィクトリアさんとエミリオを見送って、私はベッドに戻る。


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