18-3
私達はその日の夕食に試作した米料理を出した。
ステラさんとヴィクトリアさんにも試食してもらう。
「悪くは無いと思うけど、少し匂いがきついかしら?」
「そうですね。王族の方に出すには、何と言うか少し庶民的過ぎると言うか・・・」
二人の評価はあまり良くない。
でも、それは予想の範囲だ。
「分かっています。でもこれで行くつもりです」
私はそう言う。
「そう、何か勝算が有るのね」
ステラさんはそう言って、他の料理に手を付ける。
今回は試作なので米料理は一人当たり小皿に一杯程度しか作っていない。
ここのメイドさん達が作ってくれた夕食が他に有る。
「それにしても、勝負の相手がビルタン家のザビーネさんとはね。あのお嬢さん元は第一王子のアレックス様の婚約者候補だったのよ」
チキンソテーをナイフで切り分けながら、ステラさんはそう言う。
「そうだったんですか?」
私は聞き返した。
「ええ、かなりの接戦だったそうなんだけど、彼女の方がアレックス様より一つ年上だったのが、敗因になってしまったそうよ。それが納得できなかったみたいで、第二王子のブルーノ様の婚約者にも立候補したそうですけど、こちらも直ぐに別の方に決まってしまって、かなり悔しがったそうよ」
「それで、第三王子の婚約者に成ろうとしてたって事ですか?」
リーナがそう聞く。
「それは流石に歳の差が有り過ぎたからかしら、表立って立候補はしていなかったんですけど、どうやら諦めてはいなかったようですわね」
「それって、別にチャーリー王子が好きって事じゃなくて、王子様なら誰でも良いって事になるんじゃ?」
カレンがそう言う。
「そうね、他の歳の近い貴族の子息との縁談も有ったらしいんですけど、どれも断ったそうよ。何か意固地になっているらしいわね」
ステラさんは溜息をついて、そう答える。
私は王子様に憧れるのって小さい女の子の内だけだと思っていたけど、彼女みたいな人も居るんだと思った。
「まあ、それだけ王子様って肩書は魅力的なのかな?てんこちゃんは勝負に勝っても断るつもりみたいだけど、勿体なくない?」
ユキがそう聞いて来る。
「ええと、こう言っちゃ何だけど、これっぽちも勿体ないとは思わない。ユキにその気があるなら譲るけど?」
「私はパス!」
私の言葉に、ユキは即座に拒否する。
「人柄とか良く知らないから、私達も相手の事、王子って言う肩書でしか見てないけど、向こうも私の事フラウリーゼの魔女って言う肩書でしか見てないと思うんだ。だったら、私達は同格って言う事に成ってるから、四人の内誰が婚約者候補でも良いんじゃないかな?」
「私はそのフラウリーゼ川の戦いには参加してないから」
「でも、アルマヴァルトでのエドガーさんとアーネさんの結婚式では花嫁の身代わりで大活躍したじゃん」
カレンがそう言う。
「そうだけどさ・・・そう言うカレンはどう?王子様とか好きじゃない?」
ユキが彼女に話を投げた。
「・・・」
言われたカレンは無言になって、リーナの方を見る。
更にお鉢を回されそうになって、リーナは首をブンブン振る。
どうやら全員その気は無い様だ。
「昨日初めて会ったばっかりで、人柄とか分からないから仕方ないか」
「その辺どうなんです?」
私の言葉に、その辺の事を知っていそうなステラさんとヴィクトリアさんにユキが聞く。
今度はステラさんとヴィクトリアさんがお互いの顔を見合わせる。
ヴィクトリアさんは元はこのお屋敷のメイドさんで、主人であるステラさんと同じ席で食事をすることは無かったのだが、今は私達の代理人と言う事に成っているので、問題ない。
まあ、ステラさんは最初からそんな事気にしていない様だったが。
それでも、ヴィクトリアさんは遠慮して一番下座の方に座っている。
「ええと、その、他家に仕えているメイドのお友達の何人かから聞いた話ですけど、第三王子のチャーリー殿下は色々と奔放な方の様で、決まった婚約者を中々作らずに複数の令嬢様とお付き合いをしているとか・・・」
そのヴィクトリアさんが色々と言葉を選びながら言ってくる。
つまりは、王子の立場を利用してあちこちの令嬢の間で何股もしているって事か。
誰か一人に決めるとそれが出来なくなるから、婚約を先延ばしにしているのだろう。
「そう言う事ね。立場上、私はあまり表立っては言えませんけど、婚約を回避しようという貴女方の選択は正しいと思うわ」
ステラさんもそう言う。
「お兄さん達から優柔不断とか言われてたけど、そう言う事?」
カレンがそう言う。
まだ若いから将来の事なんか決められないとか言っていたのも、つまりはそう言う意味だったのだろう。
「王子様だからって、ホイホイなびかなかったてんこちゃんは見る目が有ったって事だ」
ユキがそう言う。
別にそう言う事を見透かしていた訳じゃないけど、昨日の何となくだけど『無いな』って言う印象はそのせいだったのだろう。
王様に婚約の無効をお願いしておいて良かった。
「それはそれとして、てんこさん以外の御三方は誰か良い殿方とお知り合いにはならなかったのかしら?」
ステラさんが改めてそう聞いて来る。
三人は顔を見合わせる。
「いえ、全く・・・」
リーナがそう答える。
ダンスとかそっちのけで、珍しい物を見に行ったり、色気より食い気で料理やお菓子を食べ回っていたのだから当たり前だろう。
三人で姦しく走り回っていては男性も声を掛け難い。
「そうなの?まだ、お友達同士で楽しく遊んでいたいお年頃なのかしら?」
少し残念そうに、ステラさんがそう言う。




