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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
18章
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18-2


 数種類の果樹が植えられている一画に着くと、それ専門の技官が居たので、その人とりんごの栽培に関して意見を交換する。

 アルマヴァルトを手に入れる前から、この国の他の地方でもりんごの栽培はある程度されていたので、栽培知識はちゃんと有った。

 こちらが教えられる事も多い。

 王様は果樹に関しては専門外の様で、技術的な話には口を挿んで来ない。

「それにしても、この農場は木に生る作物が少ないな。そう言うのは他に試験場が有るのかな?」

 ユキがそう聞く。

 確かにここは麦類や米などの穀物が主で、それ以外はおまけ程度にしか栽培されていない様だ。

「いや、国で運営している農業試験場はここだけだ。民を飢えさせない事が最重要事項だからな、その為に穀物の改良に主に力を注いでいる。だが、君達はりんごの改良にも予算を割くべきだと思うかな?」

 そう言われて、私は少し考える。

 ここは王立の農業試験場だから、その運営費は税金から出されているのだろう。

 であるならば、主食に成りえない果物の為にお金を使うのは無駄遣いと言われるかもしれない。

「去年の戦争の時、食料は小麦が十分な量、有りましたけど、それ以外が不足していて、単調な食事に不満を持っている人も居ました。贅沢な話と言えばそうなんですけど、やっぱり食事の質は士気に影響すると思います。それは平時の一般市民も同じじゃないでしょうか」

「ふむ、そう言えば、そんな報告も上がって来ていたな。結果として勝てたから、些事として読み流したが、気を付けるべきだったか。やはり現場に出ず、報告書を読むだけでは気付けない事もあるな」

 私の意見に王様が頷く。

「この国じゃ今の処、主食の生産は問題無いんですよね?だったら、りんごに限らないけど、何か他の作物も開発しても良いんじゃないかな?」

 ユキがそう言う。

「なるほど、何が良いと思う?」

「あの時、欲しかった食べ物だと、お肉と野菜かな。有ると嬉しいけど、果物までは贅沢かも」

 カレンがそう答える。

「畜産と野菜か。ここの農場だけでは収まらないな。別の場所にまた試験場を作るとなると金が掛かる。財務大臣が良い顔をしないだろうな」

 王様が困った顔をする。

 そう、やはり税金が沢山使われるのは問題ではある。

「全部王様がやる必要は無いんじゃないですか?大きな民間の牧場とかに補助金を出して研究してもらうとか、懸賞金を出して一般に広まっていない良い品種を発掘するとかすれば、お金は少なくて済むと思います」

 私はそう提案する。

 もうここまで来ると、王様が私達の事を過大評価してしまう事とか気にしなくなっている。

 さっきの借りの件も有るから、なるべく有用な事を言って、先に借りを返してしまいたい。

 と言っても、この程度の事なら私達が言わなくても、他の人でも思い付くだろう。

「なるほど、それが良いか。とすると、りんごに関しては本場であるアルマヴァルトで行った方が良いな」

 王様はそう言って、私達を見る。

 つまり私達がやれって事だろう。

 さっきの借りが有るから、やらない訳にはいかないと思う。

 面倒な話ではあるが、早めに借りを返せるのなら、その方が良いだろう。


 炊き上がったお米の良い匂いがする。

 ファーレン伯爵邸に戻って来た私達は直ぐに厨房を借りお米を使った料理の試作を始めた。

 まずはそのまま炊いてみた。

 もちろん炊飯器なんかは無いから、蓋付きの鍋で火にかけた。

 困ったのは水加減で、私も他のみんなも正しい水加減を覚えていなかった。

 新米だから普通よりも水は少なめにすると良いって言う知識は有るのだが、その普通が分からない。

 元の世界でお手伝いでご飯を炊いた事は有ったが、その時はお米の量に対する水の量は炊飯器の内釜に目盛りが付いていたので悩むことは無かった。

 お米より水面が少し上になるのは覚えていたので、何となくの感覚で水加減をして炊いてみた。

「ちょっと水が多かったかな?」

 炊き上がったお米を見て、リーナがそう言う。

「まあ、許容範囲じゃない?次からは少し少な目にしよう」

 カレンがそう言いながら、お茶碗代わりの小さめの木のボウルにご飯を盛り付ける。

「こっちも上がったよ」

 ユキがおかずを持って来た。

 魚の干物を焼いたものと葉野菜の浅漬けだ。

 なるべく和食に近い物を選んでいる。

 この近辺の国で良く作られているハーブ入り味噌を使ったお味噌汁もある。

「やっぱり、ハーブの香りが邪魔かな」

「なるべくハーブの量が少ない物を選んだんだけどね」

 私の言葉にユキが答える。

「取り敢えず食べてみようよ」

 リーナの言葉にみんなで厨房の料理用テーブルに着く。

 この世界と言うか、この大陸では主に食事にはスプーンやナイフ、フォークを使うが、一部では箸を使う場合もあるらしい。

 私達は普段マイ箸を持ち歩くことにしている。

「「いただきます」」

 誰ともなくそう言って、みんなでご飯を食べ始める。

「やっぱり日本人は白いご飯だね・・・でも・・・」

 リーナがそう言う。

 確かに久しぶりのお米のご飯に私も満足するが、

「これって、普通のお米だよね?何だっけ?外国の細長い奴じゃないよね?」

 カレンが何かに納得出来ないという感じで、そう聞いて来る。

「長粒種じゃないはず。形状的には短粒種で所謂ジャポニカ米に近いんだけどね、炊き方に問題は無かったと思うし、やっぱり品種改良された現代の日本のお米と比べると、味は確かにイマイチだな」

 ユキがそう言う。

 もっちりした食感は懐かしい日本のお米に近いけど、風味が明らかに劣る。

 期待していた分、がっかりはする。

「まあ、食べれないことは無いけど」

 そう言いながら私は、塩味の利いた焼き魚をおかずにモリモリ食べる。

「・・・」

 文句を言っていた他の三人も無言になって、食べ続けた。

 ご飯自体の味は少し口に合わないが、塩味の利いたおかずやお味噌汁と一緒に食べると、懐かしさも相まって幾らでも食べられそうだ。

 結局、全員完食する。


「ちょっとがっかりだったけど、満足はした。・・・したけど、これをそのまま料理勝負に出してもダメな気はするな」

 食べ終えた食器を洗いながら、私はそう言った。

「そうだね、おかずと合わせて一つの料理って言うのは日本食なら通じるけど、こっちの人にはどうかな?」

 ユキも同じ意見の様だ。

「お米を使った料理か。・・・おにぎりとか、お寿司とか、後は丼物?」

「カレーライスやオムライスってのもアリかな」

 リーナとカレンがそう言う。

 カレーは王都の香辛料専門店で外国から輸入されたターメリックを見付けたので、大分私達が知っている味に近い物が出来る様になった。

「王子様との婚約は関係なくなった訳だし、そうなると、勝負は勝ちに行きたいよね?」

 ユキがそう言う。

「うーん。別にそれはどうでも良いかな。勝負だから勝つ為に全力は出すけどさ、その結果は気にしないな」

 私はそう答えた。

 勝負ではあるけど、負けたとしても命にかかわる訳では無いのなら、気分は楽だ。

「で、メニューは何にする?ライスプディングみたいなの食べるから、この世界の人って私達とは味覚が違うんじゃないかな?」

 リーナが聞いて来る。

 確かにこの国では欧米寄りの味覚に近い料理が多いけど、お味噌が有ったり、うどんやそばを美味しいという人も居るから、日本風の味が受け入れられない訳でもないと思う。

「そうだな、勝ち負けは気にしないで良いんだから、ここはがっつり私達が食べたいものを作ろう!」

 私は、愛用の鍋を取り出して、そう言った。


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