17-7
三人の王子は当たり前だが、兄弟だけあって顔立ちが似ていた。
だが、似ているのは顔立ちだけで、他は大分違う。
長男のアレックス王子は、王様に似て体型が少し横に広い。
ただスポーツなのか武道なのか、身体は鍛えている様で、筋肉質でがっちりしている。
聞いた話では歳は二十三だそうだ。
まだ若いが、それなりに貫録がある。
それに対して、次男のブルーノ王子は細身だ。
理知的な瞳で、熱血系の兄に対してクール系に見える。
歳は二十一だったはず。
そして三男のチャーリー王子は、二人の中間位で、普通体型である。
一番丁度良い様に思えるが、その分特徴が無く、凡庸ともいえる。
顔も普通で、ブ男ではないが、特段かっこ良くも無い。
「何やら、チャーリーの嫁がどうとか言う話を聞いたが?」
アレックス王子がそう言う。
「ふむ、何時まで経っても相手が決まらない我が弟に、父上が業を煮やしましたかな?」
ブルーノ王子もそう言う。
二人とも何やら面白がっている様だ。
既に婚約者が居る彼等には、良い暇潰しを見付けたと言う事か。
二人ともそれぞれその婚約者と思われる綺麗なドレスを着た身分の高そうな女性を連れている。
「そんな、僕に黙って決めるとか、酷いですよ!」
チャーリー王子が、非難の声をあげる。
元から気弱そうな顔をしていると思ったが、どうやら、上の二人から良くいじられている様だった。
私の感想としては、上の二人もあまりタイプではないが、この三男は更に『無い』感じだ。
外見よりも優柔不断っぽい態度が良くない。
「チャーリー様、心配しなくても大丈夫ですわ。単なる冗談だったようですわ」
ザビーネさんがチャーリー王子に向かってそう言う。
もしかしてこの人、私に突っ掛かって来た事からして、第三王子に気が有るのだろうか?
それにしては年齢がちょっと気になる。
ザビーネさんは見た感じだが第一王子のアレックスさんと同じか少し上くらいに見える。
ディアナさん程ではないが、行き遅れと言っても良い気がしないでもない。
エドガーさんとアーネさんの例も有るから、姉さん女房でも問題は無いのだろうが、ちょっとアンバランスかもしれない。
「冗談?そうなんですか?」
チャーリー王子が聞く。
「ええ、そうでなければ、こんな素性の知れない女を王家に迎え入れようなど言い出すはずが有りませんわ」
ザビーネさんが私を指してそう言う。
「ふむ、こちらの女性はもしや、噂の新男爵のフラウリーゼの魔女殿かな?」
アレックス王子が聞いて来る。
「ええと、はい。テンコ・カスカベと申します」
私はぎこちなく挨拶をする。
「なるほど、女傑と言うだけは有るな」
無駄に高い私の身長を対してなのか、ブルーノ王子もそう言う。
いや、女性にしては高いだけであって、上の二人の王子よりは低いし、チャーリー王子とは同じくらいでしかない。
「先年のそなたの働き、感謝する。あの時、私は国外に視察に行っていてな、参陣できなかったのは不覚であった」
アレックス王子がそう言う。
「兄上が出られては、指揮系統が混乱したでしょう。あれは経験の豊富な諸将に任せて、我々は出しゃばらない方が良かった」
ブルーノ王子が反論した。
「お前は何時もそうやって、父上の様に言う。王族が先頭に立たなければ、兵に示しがつかないではないか?」
「大将であるならば、後方に居て全体を見通して指示を出す事も大事なのでは?」
アレックスとブルーノが言い合いを始める。
どうやら、長男は父親である現王と違い武闘派の様で、対して次男は父親と同じ慎重派の様だ。
「止めてくださいよ二人とも、今日は楽しい舞踏会ではないですか」
チャーリー王子が割って入る。
「おお、そうだったな。それで、チャーリーの嫁候補の話だったな。こちらの先の戦争での功労者、良いではないか?お前の様な優柔不断な奴は、こう言う頼りになる女性が良い」
アレックス王子がそう言いだす。
また、変な方向に話が行きだした。
「待ってください、アレックス様!その話は陛下が正式に撤回したそうです!」
ザビーネさんが慌てて否定する。
「正式かどうかで言えば、そもそも父上は仮面を着けていたのでしょう?身分を隠していたのなら、全てが非公式の話だ。という事は、父上の意向は無い事にして、改めて我々で推薦しても良いのでは?」
ブルーノ王子まで、そんな事を言い出した。
上の二人の王子、仲が悪いのか良いのか分からない。
「いや、あの・・・」
私はなんとか辞退したいのだが、何と言って良いか分からない。
せっかく無くなった話なのに、蒸し返されても困る。
「いけません!ですから、この女はついこの間まで貴族でもない下賤の者だったのです。その様な者にかかわってはいけません!」
ザビーネさんが金切り声を上げる。
ひどい言われ様だが、私としてはこの話を無い事にして貰う為には彼女に頑張って欲しい。
しかし、また別の方から横槍が入る。
「ちょっと、貴女!いくら伯爵令嬢だからと言って、てんこさんを下賤の者呼ばわりは許せませんわ!」
ザビーネさんにそう言い放ったのは、それまで私の後ろに居たマリーさんだ。
「私、ワーリン王国から亡命してきた身ですけど、位の低い相手だからと言って、そこまで暴言を吐く人はあちらの社交界にも居りませんでしたわ!」
そう言えば今までは大人しかったが、最初に会った時のマリーさんってこんな感じだったなと、思い出した。
「なんですって!私があの野蛮な国の人間以下ですって!?新参者の分際で!」
ザビーネさんも言い返す。
なんか当人を置いてけ堀にして、二人が睨み合う。
「まあ、落ち着き給え。どうやら、ザビーネ嬢はてんこ殿がチャーリーの婚約者になるのが気に入らないのだな?」
アレックス王子が、二人の間に入って来る。
「そ、そうですわ」
「では、こうしてはどうかな?何か平和的な方法で勝負をして、勝った方が婚約者の座を得ると言うのはどうかな?」
アレックス王子がそんな事を言い出した。
何でそんな話になる?
「え?よ、よろしいのですか?」
ザビーネさんが、思わぬ機会を得たと言う感じで喜びの声をあげる。
「待って下さいよ。当事者である僕の意見はどうなるんですか?」
チャーリー王子が異議を唱える。
「早く婚約者を決めないお前が悪い。それとも誰か他に居るのか?」
「え、ええと、そう言うのはまだ何と言うか・・・」
「煮え切らない奴め。良いではないか、余興だ。実際の結婚ではなく、あくまで婚約とすれば良い。そうだな何か良い勝負方法は有るかな?」
「それでしたら、今日はせっかくの舞踏会ですし、ダンスで決めてはどうでしょう?」
ザビーネさんがそう提案する。
どんどん変な方向に話が行くが、まあ、別に良いか。
私としては勝って婚約者の座を射止めたい訳ではない。
わざと負けても良いけど、付け焼刃の私のダンスではどうやっても本物の令嬢には勝てないだろう。
「お待ちください。てんこさんは最近貴族に成ったばかりです。幼少の頃から貴族として練習してきた人には勝てません。不公平な勝負を持ちかけるとは伯爵令嬢の品位が問われますわ」
マリーさんがそう意見する。
「くっ!」
「それもそうか・・・」
ザビーネさんが唇を噛み、王子達が納得しかける。
「いや、あの、私はそれで良いですよ・・・」
積極的に負けたい私はそう言った。
「ほら、当人が了承してますわ。ダンスは貴族の嗜みですわ。それが出来ないで王族の婚約者は務まりません」
再び、ザビーネさんとマリーさんが睨み合う。
「では、三本勝負にしたら良い。最初はダンスで、次に別の方法で勝負していくのはどうでしょう?」
ブルーノ王子がそう提案して来る。
「なるほど、面白いな」
アレックス王子が賛同する。
なんかもう、面倒臭い事になってしまった。




