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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
17章
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17-2


 時間は少し遡る。

 私達はワーリン王国からのアルフレッドさん脱出作戦を完遂させ、自分達の村に戻って来ていた。

 諸々のお祝いの会を行った後は、いつもの日常に戻っている。

 実りの秋だから、色々な収穫がある。

 早生種のりんごは私達が戻る前に既に収穫が終わっていた。

 事前に決めていた通り、ローゼス商会に買い取ってもらったそうだ。

 留守をお願いしていたギリアムさん達が必要以上の早もぎをしない様に監視し、金銭の受け渡し等の事務仕事はヴィクトリアさんがやってくれた。

 私達が居なくても上手く回る様だ。

 この後は、僅かばかりの麦の収穫があって、更には中生種以降の本格的なりんごの収穫がある予定だ。

 今年は去年と違い冷害は無かったので、麦の収穫も上々だろう。

 そんな訳で私は今、大量の書類と格闘している。

 今年はアルマヴァルト地方は税が免除されているが、来年以降は普通に収穫物に対して税が掛かる。

 来年以降の税収の試算の為に、今年の収穫量の報告を国から求められているのだ。

 各家のこれまでの収入とこれからの予想を聞いて回って集計している。

 エドガーさんはあくまで概算で良いと言ってくれていたが、私はそこはきっちりとしたい。

 何故ならこう言う事は、なあなあでやると必ず不公平感が出るからだ。

 調査が甘いと標準の課税率より高い人や低い人が出る。

 ある年は高くてある年は低いみたいに、平均して一定に成るのなら良いが、そう上手く行くとは思えない。

 だからどうしてもばらつきが出る。

 得をする人は良いが、損をする人は必ず不満を持つ。

 上手い為政者ならそう言う不満を別の所で解消させたりするのだろうけど、私はそう言う事は出来ないと思う。

 現代日本の知識が有り、転生時に幾つかのスキルを貰ったと言っても、私達はまだ女子高生だ。

 いや、この世界に来て、もう高校に通っている訳では無いから、女子高生ではないのだが、つまりそのくらいの人生経験しかないという事だ。

 そんな私達が偉い政治家の様な事が出来る訳も無い。(元の世界の政治家の全てが出来ているとは言わないけど)

 だから、私に出来るのは可能な限り厳密かつ公平にするしかない。

 国に報告するのはこの村の合計の収穫量だが、一軒一軒の収穫量を把握しておけば、後々の課税の時に楽になる。

 だから、面倒でもコツコツとやるしかない。

 この村では麦とりんご等の果実の収穫が有るので、両方計算しなければいけないのも面倒くさい。

 村長邸の机が四つある執務室で、私は一人だけで調査して来たメモの集計をしている。

 私以外の三人はそれぞれ別の仕事が有るので、ここには居ない。

 リーナは治癒魔法のスキルを活かして、村の診療所。

 カレンは村の巡回警備と言った主に外回りの仕事。

 ユキは村の子供達に読み書き計算と初歩の魔法を教える学校の先生。

 私も猟師として村周辺の害獣駆除とついでの食肉確保の仕事をしたいのだが、どう言う訳か私が村長に成ってしまっているので、事務仕事が回って来ている。

 みんなでやればこの集計もすぐに終わるのだろうが、みんなが他の仕事をやってくれているから、私が事務仕事に集中出来ているとも言える。

 難しいところだ。

「午後の授業終わりー」

 私が集計値の検算をしていると、ユキがやって来た。

「お疲れー」

 私は書類から顔を上げずにそう言う。

「集計終わった?手伝おうか?」

 ユキがそう言ってくれる。

「ありがとう。今検算してるところだから、ダブルチェックお願い」

「了解」

 ユキが私の向かいの机に座る。

 暫く、二人で黙々と計算をする。

「ところでさあ、てんこちゃんって子供に教えるの上手だよね」

 ユキが口を開いて、そう言ってくる。

「そうかな?」

 私はそう答えた。

 学校の仕事は主にユキが行っているが、私やリーナやカレンも手が空いていれば手伝う事が有る。

「そうだよ。子供達にはてんこちゃん人気だよ。学校は私の仕事なのにちょっと悔しいな」

「でも、ユキは全部の魔法が使えるし、知識量だって私より有るじゃない」

 ユキの言葉に、私も書類から顔を上げてそう言う。

「うーん。自分で知ってたり出来る事の量の問題じゃなくてさ、教え方の上手さの話。てんこちゃんて別に学校の先生目指してた訳じゃなかったよね?」

「ん~?まだ高一だったし、将来の事とかあんまり考えて無かったな」

 私はそう答える。

「そっかー。大学に行って先生の資格とか取る時にそう言うコツとか教えてもらえるのかなあ?」

 ユキがそう言う。

 私は少し考えた。

 つまり彼女は生徒に教える際のコツとかを知りたいという事なのだろう。

 とは言え、私自身も何か意識してやっている訳では無いし、ユキの教え方が下手だとは思わない。

「ええとね、私のお爺ちゃんに教えてもらった事だけどね、りんごの木の剪定は、まず木全体の形を見る事が大事なんだって」

 私のその言葉に、ユキは少し怪訝な顔をした。

 突然関係の無い話を始めたので、彼女が戸惑うのは当たり前の事だろう。

「うむ、てんこちゃんお得意のりんごを使った例え話ね。面白そうだ。続けて」

 ユキがそう言ってくれる。

 私の突拍子もない話も理解しようとしてくれるのが彼女の良い所だ。

 でも、いつもこれって思われるのも嫌だな。

「ええと、細かい所を丁寧に教えるのも大事だけど、それを覚える事でその先に出来る事を意識してもらうのも大事じゃないかって・・・」

「なるほど、そこを意識すれば良いのか」

「それとね、植えたばかりの若い苗木はまず自由に色んな方向に枝を出させて、木が大きくなるにつれて、その中から良い枝を選んで、他の枝を切っていくんだ。子供に色んな事に挑戦させて、見込みのある方向に集中させるみたいにね。で、良い枝の条件って知ってる?」

「太くて丈夫な枝?」

「それも有るけど、角度も大切なんだ」

「角度?」

「そう、上下の角度。上向きに急角度の枝は良くないの。そう言う枝は枝自身の成長に栄養が使われて、小さい実しか生らない。逆に下向きの枝は大きい実が生るけどその分枝の成長が弱い。そこで真横に伸びる枝が良い様に思うかもしれないけど、実はこれもちょっと違うの」

「どうゆう事?上も下も横もダメ?」

「一番良いのは水平より少し上向きの枝。毎年実が生る事によって枝はその重みで下にしなって行くから、それを見越して少し上向きが良いんだって。つまりさ、あんまり上を目指そうとするとその間は実入りが少ないのは人間でもそうじゃない?だから、ある程度収穫を得ながら少しずつ成長出来る角度を見付けるのが良いって事」

「なるほど、子供にいきなり難しいこと教えてもダメか。って言うか、この辺の田舎の子供は割りと現実的だから、実生活の役に立つことから教えた方が良いって事だ」

 ユキが膝を打つ。

 良かった、納得してくれたみたいだ。

「お疲れ~」「いや~、疲れた疲れた」

 そう言いながら、リーナとカレンが部屋に入って来る。

 どうやら彼女達の仕事も終わった様だ。

 窓の外の日は傾きかけているが、夕食まではまだ時間が有る。

 私の集計作業ももうすぐ終わる。

 忙しい忙しいと言いながらも、割と余裕が有る。

 田舎特有のこのゆったりとした時間の流れは嫌いではない。

「そうそう、手紙が来てたよ」

 カレンが私とユキに封筒を差し出してくる。

「なんと、舞踏会の招待状だって!」

 リーナが同じ封筒を見せてそう言う。

 どうやら四人に一通ずつ送られて来た様だ。

「舞踏会?」

 私とユキは怪訝な顔をした。


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