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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
16章
152/215

16-12


 ワーリン王国王太子、ミハイル・フォン・ワーリンは王城の自分にあてがわれた屋敷で昼食をとっていた。

 第一王子ともなると、特別な日でもないのにかなり豪華な料理がテーブルに並んでいる。

 そこに来客がやって来る。

「殿下、少しばかりよろしいでしょうか?」

 食堂の入り口に、貴族らしい上等な身なりの長身の男が立つ。

「おう、従兄弟殿。今、昼食の最中だがそれで良ければ聞くぞ」

 料理を食べながら、王子が喋る。

「では、失礼いたします」

 男が食堂に入って来る。

「おい、ペールン侯にも食事を出して差し上げろ」

 王子が、傍で控える給仕に命令する。

 だが、ペールン侯と呼ばれた彼はそれを遮る。

「いえ、態々それには及びません。これ一つくらいで十分でございます」

 そう言って、テーブルの上に並ぶサンドイッチの一つを手に取る。

「従兄弟殿。それは私の分だぞ」

 王子が眉を顰める。

 だが、ペールン侯も同じ様に眉を顰めた。

「殿下、もしかしてこの料理を全部一人で食べるつもりでしたか?お体に障りますぞ。いや、それ以前に国民が食糧難に喘いでいる中、王族だからと言って食に贅を尽くすのはどうかと思いますね」

「口煩いな。父上やその取り巻きの様な事を言うな。従兄弟殿は私の味方ではないのか?」

 王子は不機嫌そうにそう言うが、それでもテーブルの上の物を口に運ぶのを止めない。

 その食い意地の悪さからも分かる様に、ミハイル王子はでっぷりと太っている。

 それに反して、ペールン侯、ジェラルド・ペールンは細身の若い男だった。

 王子から従兄弟殿と呼ばれているが、彼の母親は王子の父親である現王の長姉であった。

 先代の王の娘として王国の有力貴族であるペールン侯爵家に嫁入りし、彼を生んでいる。

 侯の方が王子より少しだけ年上だった。

「それで?今日は何の話だ?」

 改めて、王子がジェラルドにそう聞く。

「例のアルフレッド卿の件です」

 席に着きサンドイッチ一つと紅茶を頂きながら、ジェラルドがそう言う。

「ふむ、人払いした方が良いか?」

 一瞬だけ食事の手を止めた王子が聞く。

「いえ、既に国王陛下や関係各所にも書簡で知らせております。聞かれて困る事も有りません」

 ジェラルドがそう答える。

 現国王はまだまだ現役であるが、将来の為に一部の仕事は王太子であるミハイルにも係わらせている。

「一度は行方を捕捉した元王国軍事顧問アルフレッド卿ですが、残念ながら、ベルドナ王国への亡命を許してしまいました」

 沈痛な面持ちで、ジェラルドはそう報告する。

「そうか。別に構わんだろう。あんな棺桶に片足突っ込んだ様な老害ジジイ。最近はまともな策も出していなかったではないか?」

 王子はあまり気にした風も無く、そう言う。

「そうかもしれませんが、こちらの情報が漏れてしまうのは痛手です」

「それも、甥のロナルドが出奔した時点で今更だろう。対策は既に命じてある。第一、ベルドナ王国など一度まぐれで勝っただけだ。恐れる事など無い」

 王子はなおもそう言う。

 その勝たれた戦いで自軍を指揮していたのは、当のミハイル王子であるが、ジェラルドは敢えてそれを指摘はしない。

「それともう一つ、殿下の後任でベルドナ王国との国境の警備をしていたポルテ侯爵殿が、敵の再侵攻の兆候を察知して、逆に敵兵糧の奪取を成功させました。これにより敵軍の大半は国境より撤退する見込みです。ついては自軍の守備隊も帰還の願いを出しているそうです」

 更にジェラルドが、そう報告する。

「なに?敵の出鼻を挫いたのなら、そのまま攻勢に転じればよいではないか?ポルテ侯は何をしているのだ?」

 王子は口から食べかすを飛ばしながら、怒り出す。

「あくまでも食料を奪っただけです。戦力的に削った訳ではないので、敵を押し返すのは無理でしょう。それに、もうすぐ小麦の収穫時期になります。農民兵を戻さないと、今年も税が減る恐れがあります。今年は凶作だった去年と違い平年作ですので、収穫にも人手が要ります」

 ジェラルドは冷静に王子を諫める。

 それにしても、人的被害無しに兵糧だけを奪わせて撤兵する敵の動きに何かの作為を感じない訳ではない。

 ただ、それを王子に言っても話がややこしくなりそうな予感しかしないので、彼は黙っている。

「む、むう。それもそうか・・・」

 王子は渋々と言った感じで納得する。

 席に再び着いて、食後のワインを飲みだした。

 沢山あったテーブルの上の料理は粗方王子の腹に収まってしまっている。

 それを見て、ジェラルドは内心溜息をつく。

 彼の必要以上に太った体形に、苦言を呈する臣下が居る事も事実だ。

 王族がこれでは下々の者に示しがつかない。

 王太子と従兄弟であり、年の近い友人でもある事で、王国内での立場を固めつつあるペールン侯ジェラルドであるが、考えを改める事も必要かと考える。


 私達が戻った数日後、村でお祭りが開かれた。

 私達が無事に戻った事と、私の男爵就任を祝うものだ。

 アルフレッドさんとマックスさんエラさんは迎えに来たベルフォレスト卿と共に王都ベルドナードに向かっている。

 私達はそのまま自分達の村に帰って来た。

 村長宅の前庭に村人が集まり、皆で料理を作っている。

「やっぱり自分達の村が落ち着くね」

 私の隣に座るユキがそう言う。

「ライ麦や蕎麦も悪くないけど、小麦のパンが食べられるのは有難いね」

 カレンが切れ込みを入れたパンにソーセージを挿んでホットドックを作っている。

「マスタードとトマトソース、どっちが良い?」

 リーナが調味料の入ったボールを持って仕上げをしている。

 私以外の三人は綺麗なドレスを着ている。

 アルマヴァルトの領主邸に寄った時に、ロリアーネさんが今回のご褒美としてくれたものだ。

 そして何故か、私には昔エドガーさんが着ていたと言う貴族の礼装が送られた。

 私の背丈はエドガーさんより少し低いくらいなのでそのままでも着れるが、一応私の体形に合わせて直してある。

「似合ってますよ、村長」

 野外に据えられたテーブルに別の料理を持ってきたメイドのオリビアさんが私の格好を褒めてくれる。

「あ、ありがと」

 腰に男爵の地位を示す剣を佩いてほぼ男装なので、褒められても女子としては喜んで良いのか分からない。

 突然のお祭りにはしゃいでいる子供達がやって来て、剣を見せてくれとせがみだす。

 私は立ち上がって腰から鞘ごと剣を抜いて、それを椅子の上に置いた。

「危ないから触っちゃダメよ」

 剣を鞘から抜いて、良く見える様にする。

 綺麗に装飾された剣と鞘を、子供達、特に男の子達がキラキラした目で見る。

 私はオリビアさんに子供達が触らない様に見張るのを頼み、ホットドックを片手に他の村人達の方に歩き出す。

 ホットドックは荒めに切った玉ねぎ入りのトマトソースだ。

 トマトの甘酸っぱさと玉ねぎのピリッとした辛み、焼き立てジューシーなソーセージと、そして小麦の香りが広がるパンが美味しい。

 焚火で料理を作りながら酒盛りを始めている村の人達に挨拶をして回る。

 お祭りの最初に一応挨拶をしたが、個別に村の人達と話すのも大事だと、リーナが教えてくれた。

 リーナ達も私のあとについて来る。

 村人達がそれぞれで作っている料理を勧めてくる。

 全部は食べきれそうにないので、四人で少しずつ受け取って行く。

 食材は村人達の持ち寄りだ。

 香辛料とお酒は私達がアルマヴァルト市で買って来た。

 お金はベルフォレストさんが出してくれた。

 聞いた処によると、ようやく領地が決まったと言う話だった。

 暫くは王都と領地を行ったり来たりして大変だと言っていた。

 村人達の間を歩き回っていると、屋敷の陰に小さな影が幾つか見えた。

「あ、ミーちゃんだ」

 カレンが声をあげる。

 それは村長邸の離れの床下に住み着いて居た半野良の猫だった。

 だが、その後ろにさらに小さい影が四つくらい在る。

「わあ、子猫ちゃんだ!」

 ユキが大きな声をあげるが、親猫も子猫も逃げ出さない。

「ずいぶん人慣れしたね」

 リーナがしゃがみ込んで、おいでおいでする。

 きっと私達が居ない間にも、ヴィクトリアさんが餌付けしていたのだろう。

 私は手に持った村の人達から貰った料理を見るが、どれも味付けが濃すぎて猫には向かない様に思われる。

「こちらをどうぞ」

 いつの間にか私達の後ろに居たうちのメイド長のヴィクトリアさんが、味付けしていない鳥のささみ肉が乗った皿と山羊ミルクの入ったお椀を差し出してくる。

 地面に置いたそれに猫たちが寄って来て、食べ始める。

「皆さんがお仕事に出られて少ししてから、子猫を連れて出てくる様になりましたわ」

 ヴィクトリアさんがそう教えてくれる。

 私達が旅に出る前には、子猫達はまだ床下から出て来れるほど大きくは成ってはいなかった。

「名前は付けましたか?」

 私がそう聞く。

「いえ、特には付けておりません」

 ヴィクトリアさんが答える。

「じゃあ、君はタマだ」

 リーナが三毛の子猫の頭を撫でながら、そう言う。

「いや、それはあんたが親猫に付けた名前じゃないか?」

 カレンがそう言う。

「良いじゃない。親猫はみんな別の名前で呼んでたし。四匹居るんだから、それぞれ一匹ずつ付ければ」

 リーナはそう言う。

「じゃあ、この子はチャーコね」

 ユキが茶虎の子猫を抱き上げる。

「あ、男の子だ。まあ、良いか」

「それじゃ、母親似のこの子はタクアン・・・タクアン三世にしよう」

 私はチャーコより毛色の薄い子を撫でる。

「むう、そうなると残ったこの子がミーちゃんか」

 黒猫だけど足先だけ白い子の名付けをカレンがした。

「では、親猫はタクアン二世で宜しいですか?」

 ヴィクトリアさんがそう聞く。

「良いんじゃない」

 リーナがそう言う。

 みんな子猫に夢中で、もう親猫の事はそれほど気にしていない様だ。

 お腹いっぱいになった猫の親子が帰って行く。

 私達も色んな料理を食べてお腹がきつくなる。

 食べ過ぎて太るかもとは思うが、明日からまた仕事が有るから摂取したカロリーは直ぐに消費されるし、多分大丈夫だろう。

 村の人達も満足している様だ。

 単純な事だけど、お腹いっぱい食べれるって幸せな事だと私は思った。


ここまで読んで頂き有難うございます。

ここで16章の終わりです。

続きは考えていますが、まだプロットが固まっていない感じです。

取り敢えず、次回は『軽トラ転生』の続きを投稿しようかと思います。


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