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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
2章
15/215

2-5

 暫く行くと、大きな街道に出た。

 右に行くとトーラの町、左はエストの町に着くそうだ。

 雑貨屋のおばちゃんに教えてもらったのはトーラの町だ。こちらの方が近いらしい。

 右へ向かい、特に何の問題もなく、夕暮れ前には着いた。

 それなりに大きな街だったが、雑貨屋のおばちゃんから聞いていたので、革細工屋さんはすぐに見つかった。

「あ、あの~、革を買い取ってほしいんですけど~」

 おそるおそる中に入り、店番をしていた女将さんらしき人に声を掛ける。

「はいな、買い取りだね。裏の方に来ておくれ」

 革製品を陳列している店の中を通り、奥の方へ通される。

 店の奥は工房になっていて、何人かの職人さんが作業をしていた。

「あんた、買い取りだよ」

 旦那さんらしき一番年嵩の職人さんに声を掛ける。

 ジロリとこちらを見てきた。

 無言で、私が出した革を手に取る。

 そのまま何も話さず、一枚一枚品物を確認する。

 最後に、ぼそりと値段を言った。

 雑貨屋さんに卸した値段の倍くらいだった。

「え?そんなに?」

 私が驚くと、また無言でジロリとこちらを見る。

「この人が言うなら、それくらいの価値が有るって事さ。あたいから見てもなかなかいい革だよ」

 女将さんがそうフォローする。

「そ、それじゃ、その値段でお願いします」

「はいな、清算するから店の方に来ておくれ」

 女将さんに促されて、店の方に戻る。

 工房からお店への扉をくぐるとき、

「また持って来てくれ」

 ぼそりと、後ろからそう声を掛けられた。

 口下手だけど悪い人ではなさそうだ。


 革細工屋さんを出て、宿屋を探す。

 繁華街らしき一角に、宿屋の看板を見つけた。

 デフォルメされたベッドの絵と、『宿屋』の文字。

 言葉だけでなく、ちゃんとこの世界の文字も読めるようだ。

 一階が食堂、二階が宿屋になっている所だ。

 一階のカウンターで、受付をする。

 元の世界でも家族旅行でホテルに泊まるときは全部親がやってくれていたから、一人でこういう事をするのは初めてだ。

 それでも、さっきの買い取りで少しは自信が付いたし、一人で全部やらなきゃどうしようもないって思うと、覚悟も決まる。

 先払いで一泊分の料金を払い部屋番号の書かれた鍵を受け取る。

 すぐに部屋には行かず、先に食事をすることにした。

 食堂のテーブルに着き、今日のおまかせ定食を注文する。

 食事代は別料金でこれも先払いだそうなので、お金を払って少し待つ。

 出されたメニューは黒パンに茹でたソーセージが二本と野菜のスープという割とシンプルなものだった。

 パンは相変わらず固いが、ソーセージはスパイスが効いていて美味しい。

 スープの味付けは例のハーブ入り味噌だった。この辺一帯で流行っているのか?

 私が最初に買った奴ほどではないが、ハーブがきつくて少しむせる。

 黒パンを浸したりして何とか飲み切った。

 食事が終わったら、二階に上がり部屋に入る。

 広くはないがそんなに狭くもない部屋にはベッドとお湯を張ったタライが置いてあった。

 お湯はサービスだそうだ。

 部屋の鍵を掛け、窓のカーテンが閉まっていることを確認して、服を脱いでお湯で濡らしたタオルで体を拭く。

 お湯は大分温かったが、ただの水よりはマシだろう。

「あ~、ちゃんとしたお風呂に入りたいなあ」

 山小屋での生活でも沸かしたお湯で体を拭くか、冷たい川の水で水浴びするくらいだったから、ちゃんとした湯船のあるお風呂に入りたい。

 体を洗い終わったら、下着だけ付けてベッドにもぐりこんだ。

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