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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
16章
142/215

16-2


「アルマヴァルトのナントカの魔女の皆さんっすよね?」

 男はリーナ達にそう声を掛けてから、直ぐにハッとして周りを見回し小声になる。

 幸い誰かがこちらを気にしている様子はない。

「ええと、こっち側に居るって事は何か訳ありっすよね?秘密にしますんで、安心してください」

 そう言われて、リーナ達の緊張は少し緩む。

 それでも、マックスは剣の柄に手をかけ周囲を警戒している。

 ただ、リーナ達は戸惑った顔になった

「ええと、誰?」

 リーナがそう聞く。

 一応リーナ達の素性を知っていて、それでいて敵対はしない様だが、彼女達に男の心当たりがない。

 こちらの事情を汲んでくれている様だが、何故そうしてくれるのかも分からない。

 男は何処にでも居そうな一般庶民といった感じの格好で、顔も特に特徴が無い。

 歳はリーナ達よりは上、マックスと同じくらいに見える。

「誰って、元モーリス村のボブですよ。覚えてませんか?」

 彼がそう言うが、リーナ達は顔を見合わせる。

 顔もそうだが、名前にも特徴が無い。

「モーリス村?どっかで聞いたことは有るんだけど・・・」

 カレンがそう言う。

「ああ、今はカスカベ村になってる私達の村の事だ」

 ユキがそう言った。

「あ、なんか思い出した」

 リーナがパンと手を叩く。

 その時、食堂のおばちゃんが男の分の料理をカウンターに乗せる。

「おや、知り合いかい?それじゃあ、ちょっとおまけでも付けるかね」

 男が料理を取りに行くと、おばちゃんは何かの果物を数個、彼に持たせる。

「相席しても、良いっすかね?」

 それを持ってきたボブと名乗る男が、聞いてくる。

 ここで断るのも気まずいので、リーナ達は了承する。

「もしかして、ちょっと前にアルマヴァルトでテロを起こそうとしてた人?」

 ヒソヒソ声でリーナが彼に聞く。

 二か月ほど前、ワーリン王国から潜入して来て、アルマヴァルトの新領主夫妻の結婚式の際に市内で騒乱を起こそうとした一団がいた。

 その中にボブと名乗るこの男も居た事をリーナ達は思い出す。

 騒乱は事前に察知されほぼ被害無しに治められて、彼等は捕まったのだが、領主エドガーの恩情により下っ端の人達はほぼ無罪放免されている。

「ええ、まあ、そうっす」

 テロリスト扱いされて少し気を悪くするが、彼は曖昧に肯定した。

 ベルドナ王国側から見ればテロ行為だったが、彼等からすればそれなりに正当な理由のある行動だったのである。

「ああ、あの人か、そう言えば、こっちの方に戻るって言ってたっけ」

 ユキがそう言う。

 自分達の村の元村民という事で、アルマヴァルトに残るという選択肢も有ったのだが、彼は結局ワーリン王国に戻って行った。

 それはつまり、今もまだこの国の住人という事なので、敵方の人間と言う事になる。

 ユキは警戒した表情で彼を見る。

 そんな視線にも気付かないのか、ボブは自分の分の食事をテーブルに置く。

「これサービスだそうですよ。って言うか俺んとこで採れた桃ですけど、どうぞ」

 先程彼が納品したらしい果実をリーナ達に渡す。

「あら、美味しそう」

 受け取ったエラが、自前のナイフを取り出し皮を剝き、切り分け始める。

 リーナ達がベルドナ王国を出発したのは夏真っ盛りの頃だったが、今はもう秋になり始めていた。

 早めに収穫できる品種の桃なども出回り始めている様だった。

「それで、何でこっち側に居るっすか?あの時助けてもらった恩が有るんで、俺に出来る事が有るんなら手伝うっすよ」

 ボブがそう言う。

 リーナ達がまた顔を見合わせる。

 どうやら彼はアルフレッドの素性には気付いていない様だ。

 親切心で手助けを申し出ている様だが、全て教えて良いのか悩むところである。

 彼から情報が洩れる危険も有るし、巻き込むことで彼に迷惑をかける事も考えられる。

「どうする?」

 リーナが小声でカレンとユキに聞く。

「あんまり他の人と関わるのはマズいと思う」

 同じく小声で、カレンがそう答える。

「そうね、私達の事黙っててもらうだけで十分かな」

 リーナもそう言う。

 しかし、ユキは少し考え込んで、

「いや、例の作戦に協力してもらえるかも・・・」

 難しい顔で、そう言う。

「ええと、ボブさんは今はやっぱり元村長の所で働いているの?」

 リーナ達と同じ日替わり定食である蕎麦の実のカーシャを食べ始めている彼に向かって、ユキが聞く。

「はい、そうっす」

 ボブが答える。

 彼は元々前村長の所で下男として働いていて、前村長が村を捨てワーリン王国側に逃げるのに付いて行った人間だった。

 前村長はワーリン王国の貴族にコネがある人間で、アルマヴァルトの一つの村の領主として村人達から税を徴収してその一部で私腹を肥やしていた。

 一村長宅としては大きすぎる屋敷に、贅沢な家具などがそれである。

 アルマヴァルトの帰属がベルドナ王国に移った時に、それまでの所業から居辛くなって逃げて行ったのだ。

 屋敷は持って行けなかったが、現金と家財道具は粗方持って行った。

「村長はこっちでそこそこ大きい農場を買って、今はボチボチやってるっすよ」

 ボブがそう言う。

 その農場を買ったお金も、持ち出した財産から出ていると思われる。

「ふーん」

 その農場で作ったであろう桃を齧りながら、ユキは頷く。

 まだ少し時期が早いのか、桃の実は硬いが、それでも甘みは十分有る。

「じゃあ、私達をその元村長に会わせて貰えますか?」

 ユキがボブに向かって、そう聞く。

 リーナとカレンは少し驚いた表情になる。

 ボブと前村長の事を知らないアルフレッドやマックス兄妹は、良く分からない顔でそのやり取りを聞いていた。

「いいっすよ」

 ボブは軽くそう答える。


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