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アルフレッドさんの言葉に、私達はすぐに動き出した。
服はもしもの事を考えて外出する時と同じものを着て寝るつもりだったのでそのままで良い。
それぞれの荷物を持って、部屋の外へ出る。
衛兵たちはいきなり大勢でやって来たので、驚いた宿の人と入り口の辺りで騒ぎになっている。
先に少人数が静かにやって来て宿の人と交渉するとかしていたら、私達に気付かれず急襲出来ただろうが、そこまでの考えが無かったみたいで、こちらとしては助かった。
私達は急いで宿の裏口へ向かう。
「マックスさんはどうしました?」
廊下を走りながら、私がアルフレッドさんに聞く。
もう一人、コウガも居ないが取り敢えず彼の事は置いておく。
「彼なら、儂らが逃げる時間を稼ぐと言って出て行ったよ。止めたのだが聞かなくてな。もう一人の彼はいつの間にか居なくなっていた」
アルフレッドさんがそう答える。
その言葉にエラさんの顔が青くなる。
私達は宿の裏口に着き、ドアを開け、周囲を警戒する。
幸い人影はない。
宿の人も正面の入り口に集まっているので、誰にも見咎められず外に出られる。
夜の街道を行くのは危険なので、取り敢えずは何処かに隠れて朝を待ってから街を出たい。
この街も貴族街などの中心部は区画を区切る壁と門が有るが、周辺の一般区域にはそんな物は無いので、幾らでも脱出方法はある。
私達は暗い裏路地を走って行く。
先頭をカレンが行き、リーナ、アルフレッドさん、ユキ、エラさんが続き、私が一番後ろを行く。
不意に、私の前を走るエラさんが足を止めた。
「済みません、やっぱり私、兄さんを助けに行きます!」
私に向かってそう言いだす。
確かに、単独行動をしているマックスさんの事は心配である。
エラさんは思い詰めた顔で、私の横を通って、元来た方に戻ろうとする。
しかし私はその彼女の腕を掴んで止めた。
前を走っていたみんなも足を止めている。
「離してください!皆さんはアルフレッド様をお願いします!」
エラさんが叫ぶ。
私は静かに首を振る。
「エラさんが行っても無駄だと思う」
私はそう言う。
どう見ても彼女は荒事向きには見えない。
「でも、兄さんが・・・」
彼女が声を詰まらせる。
「最後に見たマックス君の目は確かに自分の身を投げ出してでも儂を助けようと言うものだったな」
アルフレッドさんがそう言う。
「お爺ちゃんは、それで良いの?」
ユキが彼に聞く。
「良い訳はない。儂の様な老いぼれの為に若者が犠牲になる等、我慢ならないな。しかし、だからと言って、彼を助ける為に君等に危険を冒してくれとも言えん」
アルフレッドさんがそう言う。
その声には自身の無力さに対する苛立ちが感じられた。
私は考える。
この先この国の中を移動するのに、土地勘のあるマックスさんは必要だろう。
彼を助けに行く選択は有りだと思う。
では誰が行くべきか?
荒事向きではないエラさんは論外だ。
この中で戦闘力が一番高いのはカレンである。
だが、だからこそ、彼女はアルフレッドさんの護衛にしておきたい。
その次となると、やっぱり私だ。
リーダーの私が抜けるのはマズいのかもしれないが、そこは名前だけのリーダーなのだから問題は無いと思う。
「私がマックスさんを助けに行く」
私はそう言った。
「一人で大丈夫?」
ユキが聞いてくる。
彼女も荒事向きではないので、このままアルフレッドさんと一緒に行って欲しい。
「大丈夫!前に言った様にみんなはプランCでお願い。後で合流しましょう!」
私はそう言って、一人で走り出した。
長々と話している暇はないので、有無を言わさず行動で示す。
納得していない人も居るが、それでも他のみんなは宿から離れる方向に移動を始めた。
私は走りながらも考える。
マックスさんのこれまでの態度についてだ。
私達に憎まれ口を叩いたり、無駄に厳しい言動をしていた。
今回の事で、それに納得がいった。
つまりは、彼はいざとなったら自分が捨て駒になる事を覚悟していたのだ。
そうなった時に私達が気に病まない様に必要以上に親密になる事を避けていたのだと思う。
「まったく・・・」
私はそう呟く。
それともう一つ、居なくなったコウガの事も気になった。
臆病風に吹かれて一人で逃げ出したのなら、それでも良いと思うが、多分そうではないと思う。
今まで誰にも見咎められなかったのに、いきなり王都の衛兵がやって来たことから、誰かが密告したのだろう。
それが彼である確率は低くは無い。
だからと言って、彼を責めるつもりは私にはない。
私達が正義だと言うつもりは無いし、私達がしているのはこの国の人にしてみれば明らかに不利益になる事だ。
コウガにしても、密告によってお金が手に入るなら、私達の事を売っても不思議ではない。
ただ一つ気になるには、そうだとして、最終的に密告するなら何故私達の前に現れて途中まで一緒に行動していたのかが分からない。
宿の近くに戻ると、少し離れた所で騒ぎが起こっているのが分かる。
槍を持った数人の衛兵に囲まれているマックスさんが見えた。
剣を構えて周りを威嚇しているが、既に左肩から血が流れている。
宿の中から、別の兵士達が出てくる。
「例の連中はもう逃げたみたいだ。中には居ない!」
一人がそう叫ぶ。
「お前!何処に行ったか知っているな!?」「剣を捨てろ!」「大人しく捕まれ!」
マックスさんを囲んでいる衛兵が口々にそう言う。
アルフレッドさんがもう逃げたと知って、彼はニヤリと笑った。
あれは捕まるつもりなんかなく、最後の抵抗をする気だと分かる。
「消灯連打!」
私は魔法を放つ。
光魔法の反対の性質を持つ闇魔法だ。
槍を構えている衛兵達の後ろに居た別の衛兵達の持つ光魔法が込められた懐中電灯の様な魔法具に当たり、その光を奪う。
周囲に闇が訪れる。
「こっちです!」
私がマックスさんに声を掛ける。
一瞬驚くが、彼はこちらに向かって走って来る。
「何故戻って来た!」
マックスさんが私に向かって、そう言う。
私は無視して、彼の肩に治癒魔法を掛ける。
レベルが低いので完全には治らないが、応急処置にはなる。
更に後ろに向かって魔法を放つ。
「土ボコ!」
こちらを追いかけて来た衛兵達の足元に土魔法でデコボコを作る。
足を取られて先頭の一人が転び、後続がたたらを踏む。
これで少しだけだが時間が稼げる。
私達は暗い裏路地に入り逃げ出した。




