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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
14章
129/215

14-4


 街道を歩いて進むが、昨日会った野盗などは出て来なかった。

 昨日私達が追い散らしたし、今はそれなりの大人数なので襲われることも無いだろう。

 人目を避けるためとは言え、昨日は少人数に分かれたのが失敗だったかもしれないと思う。

 特に何事も無く、夕方頃、私達はこの国の王都ワーリンベルグに着いた。

 わざわざここに来たのは、何処へ行くにしてもこの街を経由しないといけないからだ。

 街は大きいので、王城から離れた郊外の下町ならアルフレッドさんの顔を知っている貴族や役人も居ないだろうという事で、そこに宿を取る。

 食堂が併設されている宿だったので、そこで食事をすることにした。

 人数が多いので、二つのテーブルに分かれる。

 アルフレッドさんとエラさん、それに私とユキで一つのテーブル、リーナ、カレンとマックスさん、コウガが別のテーブルだ。

「お爺ちゃんさ、賢者って呼ばれてたそうだけど、どのくらい凄いの?」

 ユキがアルフレッドさんに向かって馴れ馴れしくそう聞いた。

 名前を出さないのは、身元がバレないようにする気遣いだろう。

 私達のテーブルは食堂の隅で、聞かれる心配も少ないと思うが、念の為なのか声も潜めている。

「ふむ、例えば君等の生まれる前の事だが、二十年前にアルマヴァルトを君等の国から奪った戦いでは軍の参謀をして居った。あの時の奇襲攻撃は我ながら会心の出来だったな。わずか三日で全てを掌握できた」

 アルフレッドさんも小声でそう答える。

「まあ、あの時のベルドナ軍は弱すぎて、儂の策などなくても十日もあれば十分だったろうがな」

 聞いた話によると、その時のベルドナ軍の総大将は当時王太子だった現国王のジャック三世だったそうだ。

「そんな弱い相手に勝っても自慢にならないんじゃ?」

 固くて酸っぱいライ麦パンを齧りながら、ユキはそう言う。

 少し意地悪な顔だ。

「そうだな、だが問題だったのはその後だ・・・」

 アルフレッドさんがそう言う。

「その後?」

「そう、負けたベルドナ側はフラウ領に防衛線を築き、それ以上侵攻されない様に引き籠った。その上、奪われたと土地を取り返そうともせず、内政に力を入れ始めた」

 当時はその弱腰な対応にワーリンからは馬鹿にされ、国内からも不満が出たらしい。

「その時、儂は当時王子だったジャック三世の危険性を指摘して、無理をしてでも攻め込んで打ち滅ぼすか、それが出来ないのなら、可能な限り彼の国の力を削ぐことを進言した」

「そこまでする必要有ったの?」

 ユキが疑問を口にする。

「有ったのだよ。現に今、アルマヴァルトは取り戻され、彼の国はその有り余る食料を武器に、沿岸諸国と同盟を結ぼうとしている。もう十年もすればワーリンとの力関係は完全に逆転するだろう。一度の敗北に逆上せず、先を見据えて深謀遠慮が出来る、あの王は恐ろしいと思った。だが、この国の者はあの様な王など何時でも倒せると言って、儂の話を聞かず攻めなかった。逆に去年の侵攻は儂は反対した。地力を付けた彼の国には勝てないと踏んだからだ。実際、緒戦は勝てたがその後反撃にあってしまっている。もちろん君等の活躍もあったからだがな」

 アルフレッドさんは肉野菜炒めを食べながらそう言う。

「その戦いには私は居なかったけどね。でも、その話だと、お爺ちゃんの策はあんまり採用されてないみたいだけど?」

 ユキがそう言う。

「そうだな、儂の策は半分も採用されなかった。だが、後になって儂の正しさは証明される事になっている。人が集まると意見の対立は良く在る事だ。儂はそう言った主流意見と対立する者達に持ち上げられたせいで賢者なんて称号を貰ってしまったのだよ。実際はそんなに大した者ではない」

 謙遜なのかアルフレッドさんはそう言って、エールの注がれたグラスをあおる。

「だから、無理をして儂を連れて行くことも無いぞ」

 今更そんな事を言う。

 その言葉にエラさんが、アルフレッドさんと私達を交互に見て、おろおろし始める。

「だが、儂はともかく、この娘と兄は連れて行ってくれ。老い先短い儂なんかより、二人の方がロナルドの役に立つだろう」

 エラさんを指して彼はそう言った。

 エラさんは更に悲しそうな顔をする。

「ええと、実はですね・・・」

 ここで私が口を挿む。

「今回の作戦、私達そんなに無理をしないでも良いって言われてるんです。作戦の成否に関わらずに報酬は貰ってしまっているんで」

 少し口籠って、そう言う。

「なるほど、それは良い。そう言う訳だ、エラ。お前も危なくなったらさっさと儂を見限れ」

 達観した口調でアルフレッドさんが言う。

「で、でも・・・」

 エラさんが何かを言いたそうにする。

「いえ、そうではなくてですね。全部私達に頼り切らないで、助かりたかったら、自分で考えて自分で動いてくださいって事です」

 私はそう言った。

「ほう、この老骨に鞭打てと言うか」

「そうだな、それくらいの気概の無い奴は連れてっても役に立たないってあの国の上の連中は考えてるかもな」

 ユキがそう言う。

 それを聞いて、アルフレッドさんは笑いだす。

「はっはっは!会った事は無いが確かにあの王の考えそうなことだ。良いだろう、彼の王に会いたくなった」

 彼は飲み干したエールのグラスを机に置いて、そう言った。


 その夜は、女子と男性陣に分かれて部屋を取った。

 四人部屋を二つ取ったが、ベッドを一つ運んでもらって、五人と三人にする。

 就寝前に良く在る女子会的なおしゃべりが始まった。

 いつもの仲間に新しく一人加わる事になるので、当然、話題の中心はエラさんになる。

「エラさんは昔からアルフレッドさんの所に勤めてたの?」

 リーナが彼女に聞く。

「いえ、元々はベルフォレスト家の領地の方のお屋敷で働いていました。今回の件で国外に脱出するマリー様達と別れて、私達兄妹だけでアルフレッド様をお匿いしてお世話をする事になったんです」

 エラさんがそう答える。

「へえ、大変だったね。そこまでするって事はベルフォレスト家には長く勤めてるの?って言うか私達と同じくらいの歳だよね?」

 カレンがそう聞く。

「はい、子供のころから兄と共に勤めています。私達兄妹は身寄りの無い身だったところをロナルド様に拾われて育てて頂いたのです」

「それで恩義に感じて、こんな危ない役目をしてると?」

 ユキがそう言う。

「はい、兄は特に義理堅い人なので、自分から望んで引き受けました」

「それなら、マックスさんだけに任せれば良かったんじゃない?」

 ユキが続けてそう聞く。

「ええと、兄も私を危険な目に合わせたくなかったのか、自分だけで行くと言いました。でも、私としては兄の事が心配だったので無理を言ってついて来たんです」

 エラさんはそう言った。

「なるほど、エラさんとしてはアルフレッドさんよりお兄さんの方が大事な訳か・・・」

 カレンがそう言う。

「いえ、そんな、もちろんアルフレッド様の事も大事です」

 少し慌てた感じでエラさんがそう言う。

 その時、部屋のドアがノックされた。

「今良いかね?」

 扉の外からアルフレッドさんの声が聞こえる。

「こんな時間にどうしました?」

 私は鍵を外して彼を招き入れる。

「マズい事になった。どうやら王都の衛兵がこの宿に押し寄せて来たらしい」

 部屋の中に入って来たアルフレッドさんがいきなりそう言いだした。

 急に宿の外から騒ぎが起きている音が聞こえてくる。

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