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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
14章
127/215

14-2


 アルフレッドさんから質問攻めにあった私だが、エラさんが銭湯に行くと言うのでそれについて行く事にして脱出した。

 初対面の人と二人きりになるのは人見知りの自分にはハードルが高いが、同じく初対面のお爺さんの相手よりはまだ良いかも知れない。

 夜も更けた街を二人で歩いて少し離れた所の銭湯に行く。

 アルフレッドさんとマックスさんは家でお湯とタオルで身体を拭いて済ませるそうだ。

 マックスさんはあの家にそのまま泊まるそうだが、私はみんなが泊まる宿に戻る予定だ。

 銭湯に着いた私とエラさんは、番台みたいな所でお風呂代を払い脱衣所で服を脱ぎ、浴場に入る。

「あれ、てんこちゃんもこの銭湯に来たんだ」

 中でリーナ達がお湯に浸かっていた。

 泊まった宿もお風呂無しだった様だ。

 小さな街なので銭湯もそんなに数が無くて、一緒になったみたいだ。

 私はエラさんをみんなに紹介する。

「よろしくお願いします」

 エラさんが大げさにお辞儀する。

 リーナ達は軽く手を振って答える。

「あんまり目立つとマズいよ」

 ユキが口の前で人差し指を立て、小声で注意する。

 女湯には私たち以外のお客も何人か居た。

 取り敢えず私とエラさんは洗い場で体を洗い始める。

 みんなはもう上がる所だったそうだが、話がしたかったので少し待ってもらう。

「そっちの方はどうだった?」

 他のお客も居るので詳しい話は出来ないが、ある程度ぼやかした感じで私はアルフレッドさんに会った事を話して、その後にみんなに聞く。

「まあ、普通だったかな?料理して、ご飯食べて、その後ここに来た感じ?」

 カレンがそう答える。

「青山君は?」

 私がそう聞く。

「ああ、あいつか・・・」

 ユキがそう言う。

 少し嫌な事を思い出したと言う感じだった。


 時間は少し戻る。

 てんこと別れたリーナ達は宿の炊事場に集まっていた。

「何作る?」

 てんこから預かった鍋を持って、リーナが他の人達に聞く。

「うーん、小麦が無くなったから、いつものは出来ないな。買い足したいんだけど、去年の冷害のせいでこの国で買うと高いんだよね・・・」

 ユキが今ある食材を確認してそう言う。

 その時、炊事場に一人のおばちゃんが入って来た。

「小麦は無いけど、ライ麦で良かったら買うかい?」

 途中から彼女達の話を聞いていたらしいおばちゃんがそう言う。

 どうやら、宿泊客相手に食材を売りに来ている人の様だった。

「あ、助かります」

 カレンがそう言う。

 おばちゃんは背負っていた大きめの籠を降ろす。

 三人は籠の中を覗き込み、食材を品定めし始める。

「ライ麦かよ、ぼそぼそして好きじゃないんだよな」

 女子の輪から外れた所に居たコウガがそう言った。

「贅沢言わない!」

 ユキがピシャリと言う。

 おばちゃんからライ麦粉と人数分の川魚と野菜を少々、それからアヒルの卵を買った。

「発酵させる暇はないから薄く焼いてナンみたいにするか」

 ライ麦粉に卵と水を加えて練りながらユキがそう言う。

「そうだね。お魚は野菜と一緒に煮て煮付けみたいにしよう」

 魚の内臓を取りながらリーナが答える。

 カレンは竈の火を熾している。

 女子達が料理をしている間、コウガはテーブルに着いて手持無沙汰にしている。

「なあ、あのマックスって奴、なんか感じ悪くね?」

 椅子に座り足をぶらぶらさせながら、女子達に話しかける。

「確かにぶっきら棒なところは有るけど、会ってからそんなに経ってないし、そんなもんでしょ」

 カレンがそう答える。

 そう言う彼女も彼に対してぶっきら棒な声である。

「あれ?俺なんか嫌われてる?」

 コウガが意外そうな顔でそう言う。

「女の子だけの所に後からやって来て仲間にしてくれって言っても、普通警戒されるよね」

 ユキがそう言う。

「それと、キハラにも言ったけど、リーナに何か言うことは無いの?」

 カレンもそう言った。

 彼女等がキハラに会った事は彼に伝えている。

「ええと、何だっけ?」

 コウガがそう聞き返す。

 惚けていると言うより、素で分かっていない感じだ。

 コウガ達三人が食い逃げの騒ぎを起こしたことで、リーナは住んでいた街から出る羽目になっていた。

「・・・別にもう良いよ」

 溜息をついてリーナがそう言う。

 そのまま料理を続ける。

「ところで、何であいつがリーダーなんだ?」

 無視された感じになって、少し不貞腐れたコウガが別の質問をしてくる。

「あいつって、てんこちゃんの事?」

 ユキが彼をじろりと睨んでそう言う。

「ああ、良く覚えていないけど、あいつクラスでも目立たなくて、いつも一人で居る感じだっただろ?何であんなパッとしない奴が?」

 コウガがそう言う。

 ユキの顔が更に険しくなる。

「確かにてんこちゃん、以前はそんな感じだったけどね、その人の本質って本当に大変な時に出るもんだよ。そのお陰で私達は何度も助けられてる」

 リーナがそう言った。

 具体的な事を言っていないので、コウガには良く伝わらないが、彼女としても本気で伝えようとはしていない様だった。

「そうだな、気付かなかった当時の自分が恥ずかしいな。いや、気付かなくて済む平和な世界だった方が良かったのかもしれないけど」

 カレンもそう言う。

「私は前から気付いていたけどね」

 ユキだけ、胸を張る。

「何?あいつ、見かけによらずにそんなに強いの?どんなスキルを取ってたんだ?」

 コウガが聞いてくる。

「それはまだ秘密だ」

 ユキがそう言う。

「強いと言えば強いけど、別に強さとかスキルとかでてんこちゃんをリーダーにしてる訳じゃないよ」

 カレンが火を熾した竈に鍋を掛けてそう言った。

 焦げ付かない様に軽く油をひいて、ユキがライ麦粉をこねた生地を鍋肌に張り付ける。

 小麦粉に比べて粘りが少ないので崩れやすいが、卵をつなぎにしているので何とか形を保つ。

 ライ麦の薄焼きパンが焼き上がった後、同じ鍋に水を入れ魚と野菜を煮込み始める。

 鍋が一つしかないので時間が掛かるが、夕食の準備は着々と進んで行った。


「そんな感じだったかな?」

 少しのぼせたのか、お湯から上がり浴槽のふちに腰を掛けたユキがそう言った。

「その後もコウガの奴、魚料理は好きじゃないとか言ってた。作って貰って文句を言うとか何様?って感じ」

 カレンがそう言う。

 身体を洗い終えて湯船に入った私は、少し顔を赤くしていた。

「どうしたの?」

 リーナが私に聞いてくる。

 どうしたと言うか、本人の居ない所で自分を褒められていた話とか、恥ずかしい。

「何でもない」

 私は取り敢えずそう答えた。

「なーんか、あいつ信用できないわ」

 ユキがそう言う。

 みんなから聞いた感じから、私も同意見だ。

「上手く言えないけど、マックスさんは仏頂面だったりしたけど、私達が差し出した食べ物を拒否したり文句を言ったりはしなかった。でも、コウガ君はそうじゃないのが気になるな」

 リーナもそう言う。

 え?食べ物基準?と思ったけど、私は口を挿まないでおいた。

「キハラは良い奴だったけど、レオ太郎の例も有るから完全に信用は出来ないだろ」

 カレンがそう言った。

 確かに元クラスメイトだからと言って、100%信用する事は出来ない。

「じゃあ、どうしよう?」

 私がみんなに聞く。

「何か作戦立てておいた方が良いかな?」

 リーナがそう言う。

「そうだな、念のためにそうしておいた方が良いか。ええと、エラさんも聞いてくれる?」

 ユキはそう言って、私達とエラさんを集めて内緒話を始めた。


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