13-7
青山鋼雅、私達と一緒にこの世界に転生して来た元クラスメイトで、最初の頃は赤城翔馬、黄原駿、それとリーナと共に行動していた男子だ。
リーナと別れた後は男子三人で食い逃げをしてキハラと彼は捕まって、罰を受けた後はキハラと一緒にキャラバンの護衛の仕事をしていたが、途中で辞めてしまっていたと聞かされている。
その彼が何故こんな所に居るのだろうか?
「何でこんな所に居るの?」
私と同じことを思ったのだろう、リーナがそう聞く。
「ああ、あちこち旅をして回ってるんだ。偶然、山賊に襲われてたお前達を見かけてさ、助けに来たんだよ」
彼がそう答える。
旅をしている?
私は疑問に思う。
私達もここまで旅をしてきたから分かるが、旅行にはそれなりにお金が掛かる。
彼は食い逃げをした時点で、お金はほとんど使い果たしていたはずだ。
私達は転生した時点で、神様?から日本円にして百万円ほどのこの世界のお金を各自持たせてもらっていたが、彼等はそれを無駄使いして数か月で無くしていた。
キャラバンの仕事で幾らか貰っていただろうけど、一人で旅を続けられる程の金額を貯められていたとは思えない。
彼の姿は旅をするには少し軽装に見える。
「知り合いか?」
合流して来たマックスさんが聞く。
「あ、はい。一応知り合いです」
リーナがそう答える。
「一応とか、ひどいなあ」
コウガがそう言う。
「ええと、助けてくれてありがとう」
一応私は感謝の言葉を述べる。
「どうってことないさ。大丈夫だったか?てんこ、それにリーナ」
彼がそう言う。
そこでまた、私は違和感に気付いた。
リーナと違って、私が彼に会うのは転生後初だ。
クラスで目立たない様にしていて、しかも今は眼鏡を掛けていない私に大体の人は気付かない。
一発で気付いたのはユキだけだった。
特に親しくしていなかった元クラスメイトで、名乗る前に私の名前を言うのはおかしい。
「何でここに居る?」
カレンと一緒にやって来たユキがリーナと同じ事を聞いた。
「いや、だから旅行中で・・・」
彼は同じ答えを言おうとするが、
「この先は特に観光地でもない小さな街だぞ」
ユキがそう言う。
私達も人の事は言えないが、確かにこんな人通りの少ない街道に普通の観光客が居る訳がない。
「マックスさん、昨日私達を探していたって言う奴はこいつですか?」
ユキはマックスさんにそう聞く。
「そうだが。知り合いだから探していたのでは?・・・いや、それなら偶然を装うのは何故だ?」
彼もコウガに向かって不信の目を向ける。
確かに、最初から私達を探していたのなら、さっき偶然だと言ったのはおかしい。
「ああ、ええと・・・」
私達に懐疑的な目を向けられて、彼は急にしどろもどろになる。
「分かった。本当のことを言おう」
観念したようにコウガが話し始める。
「俺も元はベルドナ王国に居たからフラウリーゼの魔女の噂は聞いていたんだ。で、噂でそれぞれの名前も聞いて、リーナ達だと確信してた。それが、ペールンの街でお前らを見かけたもんだから、跡をつけて来たんだ」
「ストーカー?」
カレンがそう言う。
「いや、そうじゃなくて、お前らどこかの村で村長をしてるんだろ?そう言う噂も聞いた。それで、出来たら俺を雇ってくれないかな?」
そうお願いして来る。
「って言うか、今は何の仕事してるんだ?」
ユキがそう聞く。
「前まではキャラバンの護衛の仕事をしてたんだが、給料が安くて辞めた。今はこの国で何でも屋みたいなことをしてる。本当はモンスターとかを退治する冒険者みたいな仕事をしたいんだけど、大きな街の近くはモンスターは居ないし、田舎の方に行くのも面倒なんだ。移動費だけで依頼料がかなり減る」
コウガがそう答える。
私達は顔を見合わせる。
何と言うか、彼からダメ人間の匂いがした。
キャラバンの給料が安いとか言っているが、彼と一緒にやっていたキハラは問題なく暮らしていたみたいだし、モンスター退治の仕事も田舎に行くのを面倒くさがってやらないとか、我が儘な話だ。
「ああ、私達は今忙しいから、後で私達の村に来てくれ。その時に面接をしよう」
ユキが面倒くさそうにそう言う。
後で面接に来ても不採用にしそうな感じだ。
「ちょっと待ってくれ」
マックスさんが私達の間に割り込んでくる。
「君、彼女達の話を他の誰かにしたか?特にフラウリーゼの魔女の部分について」
そう聞いた。
そうだ、私達は極秘任務でこの国に居る。
私達の正体が他の人に知られるのはマズい。
「いや、一回見失って、女の四人組を見なかったかって人に聞いたことはあるけど、その名前は出していない。フラウリーゼの魔女がこの国で敵認定されてる事くらいは分かってるからな」
彼はそう答える。
それなら大丈夫かな?
コウガはリーナの顔を知っていたから私達の事が分かったが、他の人達には分からないだろう。
噂にも私達の容姿に関する詳しい事は無かったと思う。
「今忙しいって、ベルドナ王国の英雄みたいになっているお前等がこの国に居るって事は何か秘密の仕事が有るんだろう?良かったら手伝おうか?」
コウガがそう言ってくる。
「どうする?」
カレンが他の人にそう聞く。
私としてはあまり彼の事は信用できないが。
「しょうがない、一緒に連れて行こう。ここで放り出して、我々の事を言い触らされてもかなわん」
マックスさんがそう言った。




