13-6
翌日、朝早くに宿を出る。
全員一緒ではなく、二組に分かれてだ。
先にカレンとユキ、それにマックスさんが出発し、私とリーナが少ししてから後を追う。
お互いが見える範囲で歩いて行くが、少し離れているだけで、私達が一つのグループだとは思われないだろう。
これで、私達を探している誰かの目を眩ませられれば良い。
マックスさんはここに来るまでの間、誰からも見咎められなかったので、一緒に行動しても大丈夫だろうという判断だ。
ベルフォレスト家の使用人の何人かは当主のロナルドさんを頼って一緒に亡命したが、特に関係が深くなかった人達はこの国に残っている。
短期で雇われていた人達まで連座で罰しても無意味だし、国民から反感を買うので、この国の上層部もそんな事はしない。
なので、彼等は普通に別の所に再就職したりしているそうだ。
マックスさんはそんな人達に紛れて、ベルフォレストさんからの指令で動いているのだ。
一応念の為に髪形などを変えて変装みたいなことはしているそうだが、私達は以前の彼の姿を知らないので、変装していると言われても分からない。
私とリーナはマックスさんを含む三人組の少し後ろを、別グループを装って歩いて行く。
前を行く三人も女だけのグループより男の人が居ることでカモフラージュになっている様に見える。
観光街を抜け、道を進む。
目的の街は徒歩で一日程度で到着できるそうだ。
主要な街道からは外れるそれほど大きくない街なので、そこまで続く道は狭く、人通りも少なくなる。
前の三人との距離は曲り道の先で見えなくなるかならないか位の距離を保っている。
「人通りも少なくなってきてるし、追い付いて一緒に行っても大丈夫じゃないかな?」
隣を歩くリーナに私がそう言う。
「うーん、でも最初に決めた様にした方が良いんじゃない?」
彼女がそう答える。
確かにその通りではある。
マックスさんの話では基本的に一本道らしいので、逸れる事も無いだろう。
「分かった」
私は簡潔にそう言った。
リーナは黙って隣を歩いている。
ここのところずっと四人で居たので、急に二人になると何を話して良いのか分からない。
みんなで居ると私以外の人が何かを喋り合っていて、私はたまに相槌を打つだけで良かったので楽だったのだが。
まあ、リーナは別にそんな事は気にしていないと思う。
話題が有る時は話すし、そうでない時は無理に話しかけてきたりもしない。
そこら辺自由な彼女は、周りの景色を見ながら鼻歌を歌っていたりする。
歩いて進んでいくと、道の脇に木が増えて来て、林の様になってくる。
日陰になって涼しくて良いのだが、前を行く人達の姿が見え辛くなる。
不意に道端の茂みが音を立てた。
それも前後同時にだ。
「お嬢ちゃん達、大人しくしな!」
人相の悪い男達が、前後の道を塞ぐように現れる。
前に三人、後ろに二人だ。
「追い剥ぎ!?」
リーナが小さく叫ぶ。
どうやらその様だった。
リーナが前を向いたまま魔法の杖を構え、私は杖にしているただの棒を構えて後ろを向く。
男達はあまり手入れのされていない様に見える錆の浮いた剣を抜いていた。
「割と王都が近い場所なのに盗賊が出るなんて、この国の治安はどうなってるんだ?」
私はそう愚痴を言う。
前の三人を素通りさせてから、私達を襲ったのは単純に女二人の方が抵抗も無いと考えたからだろう。
実際、五対二では相手にするのが大変だ。
「身包み置いて行けば、命だけは取らないでやるぜ」
盗賊の一人が剣をチラつかせ、そう言う。
「カレン!ユキちゃん!」
リーナが、先行している彼女達に声を掛ける。
気付いた彼女達が、こちらに走って来る。
カレン達と合流すれば五対五なので互角に成れる。
それまで、目の前の相手にやられなければだが。
「くそ!仲間だったのか!?」
盗賊がそう言う。
彼等としては、仲間でなければ、気付いても武装した盗賊相手なら逃げ出すと思っていたのだろう。
脅しだけで金品は得られないだろうと悟った盗賊は剣を振り回して襲ってきた。
前方の盗賊三人の内一人がリーナに斬り掛かり、残りがカレン達を迎え撃とうとする。
「水流撃!!」
リーナの水魔法が向かって来た盗賊を薙ぎ払う。
高レベルの水魔法は治癒魔法に比べて普段使う事が無いが、あまり鈍ってはいない。
魔法は体を使う剣技などよりも使わなくてもレベルが下がりにくい様だ。
「疾風矢!!」
カレンの放った矢が飛んでくる。
外れても私達に当たらない様に、上空に放った後、風魔法で急降下するように軌道変更している。
「ガッ!!」
盗賊の一人に矢が突き刺さる。
革製の肩パッドの上なので、身体にはそれ程深く刺さってはいないだろう。
それでも痛みに剣を取り落とす。
前方の方は問題なさそうだ。
問題は私の方だ。
二対一である。
正規の剣術を習ったとは思えないへっぴり腰の盗賊だが、二人を一度に相手するのは難しい。
私の杖は先端に短剣を取り付けて簡易的な槍にすることが出来るが、普段そんな状態で持って歩く訳にはいかないので、今はただの棒だ。
しっかりと固定する為に紐で巻かなければいけないので、すぐに槍モードにすることは出来ない。
「うおりゃあ!」
盗賊が錆びた剣で斬り掛かって来るのをバックステップで避けて、杖を真っ直ぐに突き出す。
相手の脇腹にヒットする。
男は呻き声をあげるが、もう一人の動きにも気を配らなければいけないので、私の攻撃は浅く大したダメージを与えられない。
私は二人の盗賊相手に決定打を打てずに、手こずる。
それでも、二対一で互角なのは我ながら凄いと思う。
早く前の方の敵を片付けて、みんなにこちらを手伝ってほしいと思っていた。
「ぐわっ!!」
急に盗賊の一人が剣を落として、その場にうずくまる。
見るとその背中に一本のナイフが刺さっていた。
「え?」
私はそのナイフが飛んで来たであろう方向を見る。
「おーい!大丈夫か?」
盗賊の向こう、少し離れた場所にいつの間にか一人の男が立って居た。
何処かで見た様なそうでもない様な顔だった。
「こいつら手強い!無理だ、逃げるぞ!」
盗賊の一人がそう言うと、彼等は道の脇の藪に逃げて行く。
手負いの者も居るが、その逃げ足は結構早かった。
追い掛けても得にもならないし、面倒なだけなので、そのまま逃がす。
「よう、久しぶりだな!」
ナイフを投げて私を助けてくれた男がそう言ってくる。
久しぶりと言うからには、私達の知り合いなのだろうか?
私はイマイチ彼の名前が出て来ない。
「青山鋼雅!」
彼の顔を見たリーナがそう叫んだ。




