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その日の夕方、街道の途中にある宿場街に着いた。
そこそこ大きな街で、宿屋は複数ある。
私達は安めの宿を選んで宿泊する事にする。
実はモモの村での海賊に対する準備で私達の旅費を使っているので懐が寂しいのだ。
武器防具や魔石、それに食料を揃えるのにかなりの金額が掛かった。
大半は領主であるバンズ男爵の借金という事になったが、私達も可能な限り現金で出していたのだ。
恩着せがましくなるから、モモや村の人には言っていない。
最初は全額私達が出すつもりだった。
私達の旅費と、足りない分は私達の借金という事にしようとしていた。
別の国のだけど一応は貴族に成っているから、その信用で借りるつもりだった。
バンズ男爵が悪い人でもケチでもなかったから、彼に請求できたのは有難かった。
それでも出来る限り私達からも出してきた。
あくまで出来る限りなので、その後の活動に支障のない範囲でだが。
任務が任務だけにお金に余裕が有る方が良いと、旅費は大分潤沢に貰って来たので、結構な額を出したが、まだそれなりに余裕はある。
それでも節約できるところは節約したい。
そんな訳で、安宿なので食事が出ない。
他所で食べるか、竈を借りて自炊するかである。
私達は自炊を選んだ。
「いつもので良い?」
調理担当の私がみんなに聞く。
「良いよ」
みんなが頷く。
私は鍋に水を張り、粉にしていない粒のままの小麦をザーッと入れる。
宿の炊事場の竈に掛け、煮立たせる。
一口大に切った干し肉と宿の近くに有った露店から買って来た野菜を数種類入れた。
味付けは塩とスパイスミックス、あとはモモの村で貰って来た干し貝柱を入れた。
それぞれの器に盛り入れた後、バターを一欠けトッピングする。
いつもの麦粥だ。
野菜以外の材料はみんなで分けて携行しているものだ。
旅費が少なくなっているとは言え、時間の無い朝や昼は食堂や出来合いの物で済ますので、これを作るのは夕食だけになるだろう。
船に乗っている間は代り映えのしないメニューだったが、一応食事は出してもらえていた。
「前よりまた美味しくなってる」
一口食べたリーナがそう言う。
他の二人も美味しそうに食べ始めていた。
「そうかな?船旅中の料理に比べればそりゃマシだけど・・・」
私はそう言う。
野菜以外はいつもの材料だと思うんだけど。
手順も変えていない。
鍋にぶち込んで煮るだけの簡単なレシピだ。
手早く作れるから旅行中には重宝する。
「干し貝柱が良い出汁出してるね」
ユキがそう言う。
いつもの料理だが、その時に手に入る物で少しずつ工夫はしている。
「てんこちゃんは常にレシピを改良してってるから」
カレンもそう言う。
褒められても何も出ないんだけど。
食事が終わると、炊事場兼食堂から宿の客室に行く。
ちょうど四人部屋が有ったので、そこを選んでいる。
竈の残り火でポットにお湯を沸かしているので、それも持って行く。
ベッドに腰掛け、食後のお茶にする。
飲み過ぎると眠れなくなるので、一杯ずつだ。
「私達が連れ出す予定のアルフレッドさんって、結構な歳だよね?」
お茶を飲みながら、リーナが聞いてきた。
食堂では他の宿泊客が居たので出来なかった話だ。
ここも壁が薄いので任務の話はあまり大きな声で話せないが。
「そうだね、ベルフォレストさんの娘のマリーさんが私達と同じ年だって言ってたから、そのお爺さんの弟って事になる」
ユキが答えた。
つまり私達の祖父かそれより少し若い位の年齢と言う事になる。
私達の元の世界ではそれ位の人は幾らでも居たが、この世界ではかなりの高齢と言う事になるだろう。
そんな年寄りを連れて行って役に立つのかと言う疑問も有るかもしれないが、ベルドナ王国の上の方ではぜひ彼を欲しいらしい。
私等は下っ端だから上の方針には従うしかないのだが、思うに実は上の方ではアルフレッド氏よりロナルド・ベルフォレスト卿の方が重要なのかも知れない。
良くは分からないが、甥のベルフォレスト卿の方も軍師の才能が有る様に思える。
アルフレッド氏の方が才能や経験が有るのだろうけど、老い先短い叔父より長く仕えられる甥の方が長い目で見れば有益だろう。
その彼に憂いなく働いて貰うには、やはり身内も連れて来た方が良いと言う判断だと思う。
その為の面倒事が私達に降りかかるのは困りものだが。
「老人介護か、大変だな」
カレンがそう言う。
「ロナルドさんの話じゃ、歳の割には元気だって話だし、マックスさんとあともう一人協力者も居るらしいから、なんとかなるでしょ」
リーナがそう言う。
アルフレッド氏の健康状態に関しては実際に会ってみないと何とも言えないだろう。
「ところで、あのマックスって人どう思う?」
カレンが聞いてきた。
「悪い人ではないと思うけど・・・」
ユキがそう答える。
「そうか?なんかこっちに突っ掛かってくる感じがしてたけど?」
カレンが不服そうにそう言う。
「うーん、何て言うか、まだ私達の事信用できてない感じかなあ?」
リーナが首をかしげて、そう言う。
「そりゃあ、向こうから見たら私達なんて子供みたいなもんだからでしょ」
ユキもそう言った。
「そうかな?歳はそんなに違わないと思うけど」
カレンはまだ釈然としない感じだ。
私としてはどちらの意見も分かる。
この世界の私達位の年頃の人達は男女ともにかなりしっかりしている。
それに比べ私達の元の世界では十代なんて子供として扱われる。
私達もこっちに来てから色々大変な目に遭って成長したと思うけど、それでもまだ幼いところが有る様に見えるのかもしれない。
そこら辺が彼にイマイチ信用されない原因なのかな?
「てんこちゃんはどう思う?」
カレンが私に聞いてきた。
そう聞かれても、私もリーナやユキと同じ考えだ。
「仕事に真面目な良い人だと思うよ。その分私達に対する当たりもきついんじゃないかな?」
私はそう答える。
「うーん、そうか」
カレンは唸ったが、一応納得した様だった。
「ただ、ちょっと気になる事が・・・」
私はふとそう言った。
「え、何?」
カレンが聞き返す。
聞き返されて、私はハッとした。
「ええと、良く分かんない」
私はそう言う。
実際何かの違和感を感じていたのだが、上手く言葉にできないのだ。
「なんだよ、もう」
カレンはそう言ったが、あまり怒っている様でも無かった。
話は戻って、これからの予定などをみんなで相談する。
みんなと話をしながら、私は一人だけマックスさんの態度に感じた違和感に気を取られていた。




