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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
13章
120/215

13-2


 リーナとユキが船酔いに成ったりしたが、それ以外は特に問題なく、私達は目的の港に到着した。

 ワーリン王国の港町、ペールン。

 船を降りると入国審査が有った。

 私達は当初の予定通り、リーナがバリス公国の男爵の娘で、ユキがその友人、カレンが護衛、私が雑用係という説明をする。

 入国目的は観光だ。

 バリス公国に発行してもらった身分証を提示すると、すんなりパス出来た。

 他にも乗客は居たので流れ作業でどんどん進んでいく。

 私達に付いてくれていたデリン商会の人は商会の身分証でパスする。

 彼は船に積んできた交易品の荷揚げの監督をしなければいけないので、ここで別れる事になる。

 この先の案内は別の人がしてくれるそうだ。

 私達はその案内人に会うために聞かされた場所に向かう。

「そこそこ活気のある街じゃない?」

 街の大通りを歩きながら、カレンがそう言う。

 沢山の人達が歩いている。

 私達の様な観光客風の人もちらほら見かけた。

 私達の噂はまだここまで届いていないのか、女子四人組でも特に気にされることは無い。

「でも港町はもう見慣れたな」

 そう言いながらも、ユキは珍しそうに街並みを見回していた。

 一見お上りさんの様に見えるが、観光客を装うなら正しい演技だ。

「地面が揺れないだけで十分だわ」

 船に乗っている間中船酔いだったリーナはそう言った。

 船酔いとは無縁だった私は数日間自分で歩く必要もなく綺麗な景色を見ながら移動出来てそれなりに楽しかった。

 する事が無くて暇だったが、それもたまには良いと思えた。

 船酔いで気分が悪かったリーナとユキには申し訳ないが、そう思う。

「気分は悪かったけど、海を見るのは楽しかったから良かったよ。カレンもてんこちゃんも私の事とか気にしないでもっとはしゃいでれば良かったのに」

 リーナがそう言う。

 うーん、遠慮してたの気付かれてたか。

「船酔いの友達をほっとけないだろ」

 カレンがそう言う。

 そうこうしている内に、目的の店に着いた。

 良く在る様な食堂だった。

 港町の大通りに有る位なので、そこそこお洒落な感じだが、高級レストランと言う程でもない。

『海猫亭』

 これまた港町に有りがちな看板がかかっている。

 聞いていた名前と同じなのを確認して私達は入店する。

 昼食にはまだ早い時間なので、店内は空いている。

「いらっしゃいませ」

 カウンターの向こうから店主らしきおじさんが声を掛けてくる。

「女の子だけ四人なんだけど、個室はありますか?」

 リーナがそう聞く。

 カウンターのおじさんが店の奥を指差す。

 私達はぞろぞろとそちらへ向かう。

 幾つかある個室の内、ちょうど四人で座れるテーブルのある小さめの部屋に入る。

「みんな表情が硬いな。観光客なんだからもっと楽しそうにしなきゃ」

 疲れた感じで椅子に座る私達に、ユキがそう言った。

「いや、一応敵地なんだから、緊張するだろう」

 小声でカレンが言い返す。

「だから、あからさまに緊張して周りを警戒してたら、自分等が怪しいって大声で言ってるようなもんでしょ?」

 ユキはそう言う。

「そうだね、もう少し自然に振舞った方が良いかな。それに国同士が敵対してても、一般人はそんな事は無いと思うな。少なくとも全員はそうじゃないはずだよ」

 私もそう言う。

 それに、ベルドナの事を敵視している人が居たとしても、身元がバレなければ問題ないと思う。

 私達がテーブルに着き待っていると、個室のドアがノックされた。

 リーナとカレンが再び緊張した表情になるが、ユキは平静を装った。

 私も平静を装うが、上手く出来たかは自分では分からない。

「失礼します」

 注文を取りに男の人が入って来る。

 さっき見た店主らしき人とは別の人だった。

「ご注文はお決まりですか?」

 若めの男の人がそう聞いてくる。

「あ、ええと・・・」

 カレンが慌ててテーブルに備え付けのメニューを開くが、ユキがそれを手で制して言う。

「アップルパイを、新鮮なりんごで」

 夏真っ盛りのこの時期に新鮮なりんごは普通手に入らない。

 極早生ごくわせと呼ばれる早くに収穫できる一部の品種なら有るかもしれないが、あまり流通はしていない。

 この国でのりんごの一大産地であるアルマヴァルト地方は去年失陥しているので、尚更手には入らないだろう。

「味付けはいかがしますか?」

「シナモンたっぷりで」

「かしこまりまりました」

 ユキの注文に男の人はそう言うと、ドアを開け、厨房の方に向かって声を掛ける。

「日替わり定食四つ!!」

 ぞんざいにそう叫ぶとすぐにドアを閉め、壁に背を預ける。

「あんたらがベルドナからの工作員か?」

 私達に向かってそう聞く。

 さっきの注文は予め決めていた符丁、合言葉みたいなものだったのだ。

「ええと、工作員ていうか、まあ、この国の人にはそう思われるかもしれないって言うか・・・」

 それまでの店員然とした態度からいきなり素を出してきた彼に、リーナが少ししどろもどろにそう言う。

「呼び方はともかく、アルフレッド・ベルフォレスト卿の国外脱出の手助けの為に来ました。貴方が協力者の人?」

 ユキがそう聞く。

「そうだ」

 彼はぶっきら棒に答える。

 その態度にみんなは少しむっとする。

 仕事だけの関係だからあまり慣れ合わない様にしているのだろうか?

 私はそう思った。

「ええと、私の名前はてんこ。で、こっちが・・・」

 取り敢えず私は自己紹介をする。

「リーナです」

「カレンだ」

「ユキ」

 みんなも自己紹介をする。

「ほう、あんたがリーダーか?そっちのチッコイのじゃなくて?」

 彼が私に向かってそう言う。

 一応、私が四人のリーダーで、その名前も伝わっているはずだった。

 最初から色々話していたのがユキだから、初見では彼女がリーダーだと思われたのだろう。

「すいません、リーダーとか言うのは一応の物なんで、私達四人で一つのものと見てください」

 私はそう言う。

「うちのリーダーは普段は大人しいけどやる時はやる人なの。こう、どんと大きく構えてるところが良いでしょ」

 ユキがそう言う。

 私はユキに比べると大分背が高いが、あまり大きいとか言わないで欲しい。

 地味に気にしているのだ。

「まあ、いい、話を始めよう」

 彼がそう言った。

 彼は二十歳くらいだが、それよりも若い私達を見て任務がちゃんと出来るか不安に成っている様に見える。

 それでも、取り敢えず仕事を遂行しようとしている。

「ちょっと待ってください・・・」

 私が、話し出そうとした彼を遮る。

「なんだ?」

 不機嫌な感じでそう言う。

「ええと、貴方の名前を教えて貰っても良いですか?」

 私はそう言う。

 彼だけまだ名乗っていない。

 私達はここに協力者が居ると聞いてきたが、その名前は事前に教えてもらってはいない。

 私の問いに彼は一瞬言い淀んだ。

 ほんの一瞬で、私以外は気付かなかったかもしれない。

 私達が頼り無く見えて、不機嫌なのかとも思ったが、私は何か違うものを感じた。

 上手く言えない感じだが、ほんのちょっとした違和感と言う感じだった。

「・・・マックスだ」

 彼がそう答える。

 その後、この先の作戦の説明がなされる。

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