12-8
私達は予定より早くバンズ男爵の村に着いた。
それでも、途中でレオ太郎達には追い付くことは出来なかった。
彼等も急いで移動していたらしい。
前の村とは違いこの村では噂は立っていないのか村人に囲まれることは無かった。
「取り敢えず、男爵の屋敷に行くか?」
キハラが聞いてくる。
「そうだね」
私が答える。
もしかしたらレオ太郎はもう別の場所に逃げているかもしれないが、私達はバンズ男爵に今回の戦闘に関して報告する必要がある。
「今回の事、本当にすまなかった!!」
屋敷に着くと、バンズ男爵がいきなり土下座して来た。
「あ、ええと・・・」
唐突な謝罪に、私達はびっくりする。
「我が領民を守ってくれた英雄に対して、その約定を違えるレオンの行動、監督責任者としてこの通り謝罪をする」
レオ太郎の行動を知って、謝っているのだろう。
男爵には私達の素性を伏せて欲しい事は、前に伝えてある。
「何で土下座?」
カレンがそう言う。
「レオンから聞いたが、君達の故郷ではこうして謝罪するのだろう?」
男爵が顔を上げてそう言う。
「そうかもしれないけど、私、土下座する人なんて初めて見るわ・・・」
「普通はそこまでする人は居ませんよ・・・、取り敢えず立ってください」
カレンとリーナがそう言う。
私が手を取って、彼を立ち上がらせる。
と言うか、もしかして、レオ太郎は今までも何かへまをして土下座したことがあるのか?
「それで、レオ太郎・・・レオンは今どこに?」
ユキが聞く。
「ああ、すまない。彼は今屋敷裏の牢に入れている。この村でも噂を広めようとしていたのだが、不審に思った他の部下達が私に知らせに来たので、すぐさま拘束させた」
立ち上がった男爵がそう言う。
すぐにこの村で噂は広めない様に注意したし、前の村にも後でお触れを出して対処してくれるそうだ。
行商人とか村の外の人に一度広まった噂はもう回収できないだろうけど、何もしないよりはまだマシかもしれない。
「彼の処分は君達に委ねようと思うが、どうだろう?どのような罰でも受けさせるが」
バンズ男爵がそう聞いてきた。
私達は顔を見合わす。
「ああ、その判断はてんこちゃんに任せるよ」
ユキがそう言った。
来る途中はどうやってとっちめてやろうかとか言ってたけど、ここで他人に任せるのか?
「私の言動で今回の件が起きた面も有るからな。正直どう言う罰が良いのか分からない。悪いけど、お願い」
そう言われても、私にもどうするのが正解とか分からない。
リーナとカレンの方を見るが、彼女達も私に任せると言う顔をしている。
困るな、こう言うの。
「牢に入れた彼の様子を見るかい?」
決めかねている私達に、バンズ男爵はそう聞いてくる。
「いえ、そんな姿を見られるのは彼にとっては屈辱でしょう」
私はそう言った。
そう言った事で、私は方針を決めた。
「彼に屈辱を与えない、つまり寛容に対処するという事かね?」
バンズ男爵が聞く。
「そうですね、二・三日牢に入れるだけで、後は解放してください。そして出来れば今後も彼を雇ってもらいたいのですが」
男爵にそうお願いする。
「それは随分寛大な処置だな」
それはそうだが、一度敵対した相手だとしても、必要以上に追い詰めるのは良くないと今回の事で分かった。
皮肉だが、正に彼にそれを教えてもらったのだから、その恩くらい返しておこうと思う。
「あと、彼のせいで今後の私達の旅が危険に成った事は、ちゃんと言っておいてください。直接的な罰よりも彼の良心に訴えた方が罰になると思うんです」
私はそう言った。
嫉妬心なのかこんな頭の悪い事をしたけど、少し冷静になれば彼も反省してくれると思う。
「分かった、君達が良いのなら、そうしよう」
バンズ男爵がそう言う。
「改めて、今回の海賊に対する働きに感謝する。我が領の財政では大した謝礼は出来ないが、私が出来ることなら何でもしよう」
続けて礼を述べた。
「ええと、それなら、前に言った様にあの村に私達の知り合いが居るので、彼女の事を気に掛けてやってください」
そう言って、私達はバンズ男爵の屋敷をあとにした。
「あれで良かったのか?」
街道を馬車で進みながら、キハラが聞いてきた。
バンズ男爵の村まで急いで進んできたお陰で、夕暮れまでにもう一つ先の宿場まで行けそうだったので、食事を振舞うと言う男爵の申し出を断って、進んでいる。
一応、旅用の保存食を幾らか分けて貰った。
「うーん、分かんない」
私は曖昧に答える。
「良いんじゃない?てんこちゃんがリーダーだもの」
カレンがそう言った。
だから、そのリーダーってのはあくまで形式上のものだからね。
私はそう思ったが、口には出さない。
何と言うか、私は他人に無関心な所がある。
直接自分に害意が無いのなら、どうでも良いと思ってしまう。
レオ太郎の場合、私達の不利益になる事を悪意を持ってしたけど、今はそれが出来ない状態になっているから、それで良いと思う。
彼の事は、好きか嫌いかで言えば、嫌い寄りだけど、それで仕返しをしたいとは思わない。
「・・・そうだな、春日部がリーダーで良かったのかもしれない」
キハラが唐突にそう言った。
「え?」
「俺達がリーナにひどい事したのに、こうやって俺を一緒に居させてくれるのは、春日部のそう言う終わった事を気にしない性格のお陰かもな」
そう言う。
「前に言ったかもしれないけど、単にあんたに興味が無いからよ」
ユキがそう言った。
その発言、正鵠を射ているが。
「ユキ・・・」
私が彼女の方を見る。
「ゴメン。また、言い過ぎたかも」
ユキが謝る。
「いや、良いんだ。ハッキリ言ってもらうと助かる」
そう言った、キハラは何か吹っ切れたような顔で、道の先を見る。
今回の件では、彼には色々と手伝ってもらったから、それなりに感謝している。
好きか嫌いかで言えば、好き寄りだけど、それはあくまで友達としてだ。
何か感謝の言葉を伝えたいが、また変に誤解させても困るので、上手い言葉が出て来ない。
「それはそうと、緑川君、このままバンズ男爵の所に居られるかな?」
リーナがそう言った。
「そうだな、無罪放免されたとしても、男爵の顔に泥を塗った事にはかわりないんだし、居辛くなるよな」
カレンもそう言う。
「大丈夫じゃないかな?なんだかんだ言ってあの男爵、レオ太郎の知識を評価していたみたいだし」
ユキがそう言った。
私もそう思う。
技術レベルが違い過ぎて実用化が難しかったり、この世界の需要に合っていないものが多いが、それでも元の世界の物の内、幾つかは再現出来て有用だったりするかもしれない。
私が彼を許すと言った時、バンズ男爵は小さく安堵した様に見えた気がした。
「だから、あいつのこと逃がさないと思うし、暫くはあの男爵の下で飼い殺しにされるだろうね」
ユキがそう続ける。
「それで食っていけるなら、十分じゃないか?」
キハラがそう言った。
食い逃げした事のある彼が言うと、説得力がある。
その点、爵位と領地まで貰った私達は恵まれているのかもしれない。
その分、厄介な仕事をしなければいけないと言うのも有るのだが。
馬車がガタゴトと進んで行く。
海風が吹く街道は夕暮れに染まろうとしていた。




