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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
12章
116/215

12-7


 次の日の朝、私達は村をあとにすることにした。

 慌ただしい移動だが、本来の仕事が有るのだから仕方ない。

 余裕を持っていた日程もかなり後ろ倒しになってしまっている。

「他に仕事が有ったのに、私達の為に色々してくれてありがとう」

 別れに際して、モモが私達に礼を言う。

「いいよ、困ってたらお互い様だしね」

 リーナが、そう言う。

「ところでさ、モモも私達の村に来るつもりは無い?うちの村じゃなくても。リンちゃんやクロイが住んでる村も有るし、近場に住んでればお互い助け合えるじゃん?」

 カレンが、急に勧誘を始めた。

「ああ、悪いけど、私はこの村が気に入ってるんだ。みんなのお陰で、海賊の心配も無くなって安心して暮らせるようになったしね」

 モモは少しの迷いもなく、そう答えた。

 一緒に見送りに来ているアーサー君が、一瞬慌てた表情になるが、彼女の言葉に安堵した様だった。

 私達の視線に気づいた彼は、すぐに明後日の方を向く。

 見ていて微笑ましい。

「そうか、無理には言わないよ。仕事が終わって落ち着いたら、交易の馬車に手紙を持たせるから、モモも返事をくれ」

 元々、そんなに本気では無かったのか、カレンはすぐに引き下がった。

「それじゃあ!」

 あまり長く話しても別れづらくなるだけなので、簡単に切り上げて私達は出発した。


「ところで、レオ太郎は?」

 キハラの馬車に乗って進みだしたところで、ユキが口を開いた。

 彼はバンズ男爵の本拠に戻る必要があるので、途中までは私達と同じ道のはずだ。

「ああ、朝早くに先に出発したみたいだぜ。兵士の人達と一緒に」

 キハラが、御者台から答える。

「ふーん、一緒に居ると嫌味を言われるとか思ったかな?」

 ユキがそう呟く。

「そう思うんなら、嫌味言わなきゃ良いじゃないか」

 カレンがそう言う。

「でも、戦いが終わった後はあんまり言わなくなったんじゃない?」

 リーナが言った。

「そりゃあ、トンチキな作戦を立てられて、邪魔されちゃ大変だからね、それくらい言うさ。でも、終わった後に何か言ってもしょうがないでしょ。最後少し失敗したけど、大体は上手く行ったんだしさ」

 ユキがそう言う。

 今になって思うと、ユキのきつい言葉もそう言う考えが有ってのものだったと思われる。

 別に彼の事をそんなに嫌ってはいなかったのだろう。

「私がきつい事を言っても、八方美人なてんこがフォローしてくれると思ったからね」

 うわ、この女、そこまで考えてたのか?


 バンズ男爵の領有する三つの村は、一番東に本拠の大きな村、西にモモの住んでる村が有り、中間にもう一つ村が有る。

 昼頃、真ん中の村に着いたら、私達の馬車がいきなり村の人達に囲まれた。

「な、何だ?」

 御者台に座ったキハラとカレンが驚く。

 人の群れは別に私達を害そうとしている訳ではなく、何か珍しいものを見つけた野次馬の様に私達に視線を向けている。

「おお、あれがフラウリーゼの魔女様」「海賊を倒して、西の村を救ったと言う」「本当に若い娘さん達なんだな」

 口々にそんな事を言っている。

「ちょっと、口止めしてたのに、何でこんなにすぐ話が広がってるんだ?」

 馬車の幌の中から周囲を見て、ユキがそう言う。

「良くいらっしゃいました。私がこの村の村長でございます」

 一人の男の人が私達の馬車に近づいて来る。

「海賊には私達の村も苦しめられていました。それを撃退して頂いたとか、本当に感謝の念に堪えません。是非、私共の屋敷でお食事をして行ってください」

 村長さんが揉み手をして、そう言ってくる。

 何と言うか、本当に嬉しそうな顔だ。

 悪気は無いのだろうが、困っている私達にはイラっと来る。

「ええと、私達の事は誰に聞きましたか?」

 苛立つみんなが何か言う前に、私が先んじて聞く。

「はい、少し前に領主様の部下の人達が来て、大々的に話していきましたが・・・」

 村長が答える。

 多分と言うか、確実にそれはレオ太郎達だろう。

「あ、あいつ~!何考えてるんだ!?」

 ユキが叫ぶ。

「キハラ、馬車を出して!急いで追い付いて文句を言わなきゃ!」

 御者の彼に命令する。

「すみません。食事を取ってる暇はないみたいで、ちょっと進路を開けてください」

 私が、村の人達にそう言う。

 ゆっくり動き出した馬車に、前方の人達が避けてくれる。

 村の人達は残念そうな顔だったり、ユキの剣幕に驚いたような顔だったりをしている。

 人混みを抜けてから、キハラは馬車の速度を上げた。

 あまり速いと馬がバテるので、速足くらいの速度だ。

「でも、何で彼はこんな事をしたのかな?」

 馬車の中で、私はそう言った。

 彼にも私達の事は秘密にしてもらう様に言っていたはずだ。

「分かんない。別に私達の手柄を横取りしようとしてる訳でもないし、あいつに何のメリットも無いし。単なる嫌がらせにしかなってないのに・・・」

 爪を噛みながらユキが考え込む。

 むしろ、今回の功績を全部彼のものにしてもらっても、私達は困らないどころかかえって有難いのだが。

「つまりは単なる嫌がらせなんじゃないかな?」

 カレンがそう言った。

「え?」

「だからさ、ユキちゃん・・・だけじゃなく私等が彼に色々言った事で、怒ったんじゃないかな?」

「そんな、何の得にもならないのにこんな事する?」

「するんじゃないかな?みんながみんなユキちゃんみたいに理性的に動いてる訳じゃないと思うし」

 リーナもそう言う風に言う。

 私としてもユキと同じように、こんな事をするレオ太郎の考えは分からないが、多分変なプライドを拗らせたのかと思う。

 彼の利益を考えるなら、今回の戦いの功績を全部自分のものにしようとするのだろうけど、それをしないのは彼のプライドのせいなのかもしれない。

 それで、表向き私達を褒めるようでいて、その実、困る事をしているのか。

「はあ~!」

 ユキが大きな溜息をつく。

「みんなゴメン、人の気持ちを考えられなかった私のミスだ」

 私達に謝る。

「それを言ったら、私たち全員の責任だな」

「うーん、てんこちゃんはフォローしてたみたいだから私ら三人の責任じゃない?」

 カレンとリーナがそう言う。

 そう言ってくれるけど、私も彼へのフォローはほぼ打算でしていたから、それが伝わっていたことも考えられる。

 人の気持ちって良く分からない。

「それはともかく!私達に幾らか非が有ったかもしれないけど、あいつはとっ捕まえて、やった事の報いは受けさせる!」

 ユキは拳を握り締めて、そう言った。

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