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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
12章
115/215

12-6


「この度は、本当にありがとうございました」

 村長が私達の所にやって来て、お礼を言ってきた。

「あ、ふぁい・・・」

 串に刺したイカ焼きを食べていた私は、くぐもった返事をする。

「最初は半信半疑でしたが、貴女方の作戦に従って良かった。死人が一人も出なかったのは僥倖です。流石、フラウリーゼの魔女様だ」

 村長が私の手を取って、矢継ぎ早に話す。

「え、え~と、私達は作戦を立てただけで、実際戦ったのは皆さんですし・・・」

「いえいえ、最初の魔法や、怪我人の治療は非常に有難かったです。何と言ってもあなた様のお陰で、海賊の親玉を倒すことが出来ました。感謝してもしきれないです」

 謙遜する私に村長は感謝の言葉を述べる。

「そうだよ、あんたのお陰で、僕は父さんの仇を討てた」

 アーサー君もそう言う。

「ええと、あれで本当に良かったのかな?」

 私はもう一度そう聞く。

「ああ、モモ姉が言った通り俺らはただの漁民だからな、正々堂々とか気にしちゃいられない」

 アーサー君はそう言ってくれた

「敵討ちよりも、この子が生きていてくれる方が大事です。本当に感謝しています」

 彼のお母さんも、そう言ってくれたので、私は良かったと思える。

 どうも私はその場の空気を読まないところがあるから、余計な事をしたかと気にしていたのだ。

「そうだな、この先もアーサーはお母さんを助けて暮らしていかなきゃいけないんだよ」

 モモがそう言った。

 その後も村の人達が次々やって来て、私達に感謝の言葉を述べていく。

 私は圧倒されていたが、ふと、懸念を覚えた。

「え、ええと、皆さん、今回の件ですけど、私達が手助けした事は出来ればあまり言い触らしたりしないで欲しいんですけど・・・」

 このあと私達は極秘でワーリン王国に潜入しなければいけない。

 ここは第三国だから、そんな事は無いと思うけど、噂が立って向こうに警戒されるのは避けたい。

 村の人の信頼を得る為に私達の素性を明かしたが、本当はそんな事したくなかったのだ。

「出来ればとかじゃなくて、村の外の人には絶対に言わないでください」

 ユキが私よりきつく注意する。

「噂を広めたら領主のバンズ男爵に言って罰してもらいます。ね?」

 彼女はレオ太郎に対して同意を求める。

「あ、ああ、そう言う風に言っておくよ」

 彼が頷く。

「そうですか。残念だな、彼の高名なフラウリーゼの魔女様に助けて頂いたと自慢したかったのだが・・・」

 村長さんが本当に残念そうな顔をする。

「取り敢えず一ヶ月は我慢してください。その後は大丈夫だと思いますから」

 私はそう言う。

 それ位経てば、私達の仕事も終わっているだろう。

 仕事とは別に噂になるのは恥ずかしいから、本当はずっと黙っていて欲しいのだが、いつ迄も秘密にしておくのは無理だと思う。

「分かりました。みんな聞いたな?村の恩人の頼みだ。絶対に話すなよ!」

 村長がみんなに声を掛ける。

 取り敢えずは、これで良いかな?

 人の口に戸は建てられないと言うから、まだ不安ではあるが。


 海賊の親玉ハリーの妻はナジンの家を訪ねてきた。

 思えば数年前、彼女の夫とナジン他数人ががベルデン共和国の民兵として、他国との戦争に駆り出されたのが始まりだった。

 その戦いで彼等は偶然上手くやって敵の正規兵を倒しその鎧を手に入れた。

 戦争が終わった後、それを使って海賊を始めようと言い出したのはハリーだったが、バリス公国の村を襲う事を考えたのはナジンだった。

 バリス公国とベルデン共和国は表立って対立はしていないが、かと言って、友好的でもなかった。

 公国の村を襲っても反撃される可能性は低い上に、共和国からは黙認してもらえる。

 ハリー等に比べ体格で劣るナジンは頭を使って戦場を生き抜いてきたので、そう言った事に目端が利いたのだ。

 それから、奪った金品を元手に鎧や武器を買い足しながら、幾つかの村を襲ってきた。

「邪魔するよ」

 扉を開け、中に声を掛ける。

 狭い家の中に居たナジンはビクリとして彼女の方を見た。

「な、なんだ、姉さんですかい」

 オドオドした顔でそう言う。

「手ぶらでお帰りみたいだけど、うちの人はどうしたい?」

 その言葉に、ナジンは更に挙動不審になる。

「あ、そ、それが・・・」

「逃げて来た他の連中から聞いたよ、相手の罠に嵌っておっ死んだようだね・・・」

 一瞬二人の間に沈黙が訪れる。

「あ、あれはしょうがなかったんでヤスよ。勝ち目が無くなったのに逃げ出さなかった親分が悪い・・・」

 沈黙の後、ナジンが言い訳を始める。

「そうさね、あの人が悪かったんだろうね、いや、海賊なんてするのが元から悪かったのかもね」

 彼女は、諦めた様な表情でそう言った。

 自分が責められないと分かると、ナジンは少し安心した。

 だが、一つ疑問が湧いてくる。

「ええと、じゃあ、何の用で?」

 彼がそう言うと、ハリーの妻の脇から、二人の男が家に踏み込んできた。

 ベルデン共和国の海兵の格好をしている。

「な、何でヤスか?」

 剣を突き付けられ、ナジンが動揺する。

「年貢の納め時だね、お上が海賊の取り締まりを始めるみたいだ」

「そ、そんな!今まで、お目こぼししてたじゃないでヤスか?」

「状況が変わったんだよ。ベルドナ王国の仲介で、我が国とバリス公国の間で海賊を禁じる条約が結ばれる予定だ」

 狼狽するナジンに、海兵の一人が答える。


「そう言えば、もう一つ手を打っているって言ってたけど、何だったの?」

 モモが私に聞いてきた。

「ええとね、うちの国の上層部に手紙を送ったんだ、海賊を止めさせる事は出来ないかって・・・」

 私が答える。

「いや待て、海賊はベルデン共和国から来るんだ。ベルドナ王国は関係ないだろう?」

 レオ太郎が、横から口を挿む。

「それがね、ここを含む沿岸部の4国とベルドナ王国で連合を組もうって話が有るんだよね」

 ユキがそう説明する。

「沿岸諸国はどこも小規模だから、連合を組んで集団で自衛するのが良いんだ。ワーリン王国みたいに侵略して来るとこも有るからね。そこに海の無いうちの国も絡めば、一石二鳥って訳」

「まあ、交易港を手に入れるなら、どこか小さい国を侵略・併合するのが手っ取り早いのかもしれないんだけど、うちの王様、戦争下手らしいから、得意な内政・外交で上手くやるつもりらしいよ」

「そんな訳で、うちの国が公国と共和国の仲介をしてくれるみたいだ。急な話だったから海賊の襲撃には間に合わなかったけど、そろそろ動き出してる頃じゃないかな?」

 ユキと私がモモとレオ太郎に解説した。

「だから、戦略ゲームみたいに周囲の小国を攻め取って、勢力を拡大するなんて出来ないから悪しからず」

 ユキがレオ太郎に向かって意地悪な笑みを浮かべる。


「・・・と言う訳さ」

 ベルデン共和国の海兵がナジンに向かって詳細を話した。

 彼等は今しがた本国から軍船に乗ってこの島に到着したところらしい。

 剣で脅して、ナジンの両腕に枷を嵌める。

「待ってくれ、条約が結ばれる予定だって言ってたよな。それじゃあ、まだ条約は無いんでヤスよね?なんで、俺っちが捕まらなきゃいけねえんでヤスか!?」

 力の無い彼は暴れたりはしないが、その代わり口で反論する。

「条約は今後海賊被害が有ったら互いに報告し合って対処すると言うものになる予定だが、今までの我が国の法律でも海賊行為は違法だ」

「今まで黙認していたのに悪いが、今回から厳密に適用することになる。なんせ、負けて帰って来た今なら容易く捕まえられるからな」

 海兵たちの言葉にナジンが項垂れる。

「そ、それじゃあ、そこの女も捕まえて下せえ。そいつは海賊の親分の女房だ!」

 彼はハリーの妻を指してそう言う。

「ベルドナ王国とバリス公国からは今後の海賊行為を取り締まってくれるのなら、最低限の処分で良いと言われている。素行が悪くても普段はただの漁民だからな。税を取る相手が減りすぎるのは困るんだ。親分は死んでいる様だから、他は実際に海賊に参加した主だった者二・三人を見せしめで縛り首にするくらいで良いだろう」

「なっ!」

 今度こそナジンは暴れ出そうとしたが、両脇から強く抑え込まれる。

「悪いねナジン、寛大な処分なんだ。でも、帰って来れなかった奴が十人以上いる。それでも、この村の連中は生きて行かなきゃならない。そっちの方が辛いかも知れないさね・・・」

 感情のない声で、諦めきった様に彼女はそう言った。


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