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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
12章
114/215

12-5


「ゴメン、余計な事しちゃったかな?」

 逃げていく海賊達を見ながら、私はモモとアーサー君にそう言った。

 特にアーサー君はもっと正々堂々とお父さんの仇を討ちたかったのかと思う。

「ううん。助かったよ。私達は別に騎士とかじゃないし、目的が達成できればそれで良い」

 モモがそう答える。

 アーサー君は何か言いたそうだったが、モモが先に言ったので、それに合わせて軽く頷くだけだった。

 取り敢えず、この戦いは私達の勝ちだ。

 砂浜に倒れている海賊の死体は、親玉を含めて十体ほど。

 逃げていく敵を村人達が追撃しているが、無理に深追いはしない様に予め言ってある。

 あと数人倒せればいいところか。

 全体の二割も減らせれば、来年以降もうこの村を襲おうとは思わないだろう。

 そんな中、向こうの方で再び雄叫びが上がる。

 逃げて行く海賊の進路を遮るように、数人の兵士が立ち塞がった。

 バンズ男爵から借りた兵士達の内三人程だ。

 見るとレオ太郎が指揮を執っている。

「あちゃあ、何バカな事してんだ!?」

 ユキ達に比べて比較的彼を擁護していた私だけど、流石にこの行動には悪態をついた。

 海賊の親玉とモモ達が睨み合っていたその間に、片翼に配置していた兵士を連れて、敵の退路を断つように動いていた様だ。

 私が一騎打ちでどちらが勝っても海賊は撤退に移ると考えたように、彼も同じ予測を立てて、敵を挟み撃ちにしようとしたらしい。

 とは言え、彼自身を合わせても、四人では少なすぎる。

 兵士達は村人達より訓練されていて、レオ太郎も剣と魔法のスキルを持っていたとしてもだ。

 追って来る村人達と力を合わせることで何とかなると考えたのかもしれないが、それは考えが浅い。

 逃げてくる海賊の先頭に、レオ太郎が火魔法を放つ。

 最初に彼が放った魔法とは違い、威力を広範囲に拡散させていないので、先頭の一人を火達磨にして倒す。

 だが、海賊達は怯まなかった。

 いや、怯まなかったと言うより、逃げている時点ですでに怯んでいる。

 村人達に襲い掛かっている時よりも、今の方が自分達の命が危機に瀕していると言う自覚がある分、必死になっている。

 彼等にとっては前方の少人数より、後方から追って来る村人達の方が数が多い分、恐怖に感じている。

 だから、がむしゃらに前に進む。

 レオ太郎も魔法の連射は出来ない。

 迫る海賊に剣を抜く。

 火達磨になった海賊の次にやって来た海賊も剣を持った奴だった。

 一合打ち合った後、レオ太郎の剣が鎧の隙間から海賊の腕を斬る。

 彼は戦略・戦術やその他現代日本の知識でこの世界で生きていくつもりだったらしいが、この世界の偉い人に取り入る為にある程度の剣術のスキルは取っている。

 それは、そこらの海賊より上だ。

 しかし、浅い。

 海賊は痛みに構わず、レオ太郎に向かって体当たりをした。

 ウエイトの軽い彼は、吹き飛ばされる。

 地面に倒れてしまうが、海賊は追撃はせずにその横を通り過ぎて行く。

 他の兵士の人達も、必死な海賊の勢いに押されて苦戦していた。

「モモ、追撃止めた方が良いかも」

 私が彼女に声を掛ける。

「分かった。みんな!戻って!」

 モモの号令で、海賊を追いかけていた村人達が止まる。

 部外者の私より、彼女の命令の方がみんな聞くだろう。

 追撃が無くなったことで、逃げる海賊の必死さが減った。

 手痛い反撃を食らっていたレオ太郎達も、海賊の退路から外れて難を逃れる。

 追撃での海賊を討つ数は減るが、レオ太郎達を失うよりはましだろう。

 彼等はこの村の人ではないが、バンズ男爵の領民と言う括りでは同じだ。

 やられてしまっては、バンズ男爵に申し訳ない。

 私は胸を撫で下ろした。

 それはそれとして、勝手な事をした件で後でユキ達に怒られるだろう。


 その日の晩は、砂浜で祝勝会が行われた。

 もう村に戻っても良いのだが、テントの撤収などまだやることはあるので、もう一晩だけここに留まる事にしたのだ。

 倒した海賊の死体は、少し離れた所にまとめてある。

 彼等の埋葬も明日以降にすることにしたそうだ。

 一応弔うが、鎧や武器はこれまでの迷惑料として引っぺがしている。

 こちら側に死者は居ない。

 怪我人もリーナとユキが全員治療してしまっている。

 最後の患者はレオ太郎達だった。

 敵の退路を断とうとして、逆に必死になった海賊にボコボコにされてしまったのだ。

 追撃の中止をしなければ、死人が出ていてもおかしくはなかった。

 窮鼠猫を噛むの諺通り、必要以上に敵を追い詰めるのは良くないと言う事が分かったのは、一応の収穫だろう。

 治療が終わったレオ太郎は、砂浜に座ってうなだれていた。

 私はなんて声を掛けていいか、迷う。

 彼としては少しでも多く活躍して、バンズ男爵にアピールしたかったのだろうが、空回ってしまった感じだ。

 私達としては、最初に海賊を誘導する為に魔法を撃ってくれただけで、十分役目を果たしてくれたと思うのだが。

 彼が居なければ、私が火球魔法ファイアーボール連打マシンガンで、その役目をしていただろうが、その後、救護班の仕事も有ったので、両方やるのはきつかったと思う。

 その意味では感謝している。

 私が掛ける言葉を探して逡巡していると、ユキが彼の元に近付いた。

 イケない、また辛辣な事を言う・・・、と思ったけど、

「まあ、しょうがないんじゃない?発想は悪くなかったよ。ただ手持ちの駒が少な過ぎただけだと思うな」

 ユキが、険の無い口調で彼にそう声を掛ける。

 あれ?ツンデレ?

 レオ太郎はまだうつむいている。

「追撃での戦果は減ったけど、気にしないで。他にもまだ手は打ってあるから」

 私も近寄って、そう言う。

「ほら、村のみんながご馳走作ってくれてるから、行くぞ」

「奮発して家畜を一匹絞めてくれるみたいだよ。お魚ダメでも、お肉ならいいでしょ」

 ユキと私はそう言って、彼を励ます。

「あ、ああ・・・」

 少しは気を取り直したのか、彼はゆっくりと立ち上がった。


「ちょっと、これ美味しいよ」

 先に食べ始めていたカレンが、やって来た私達に、ヤギのアバラ肉を差し出して、そう言う。

「あ、なんか美味そうな匂いがする」

 受け取ったユキが匂いを嗅いで、そう言う。

 お肉には何かのソースが掛かっていて、それが焼けた香ばしい香りが漂ってきている。

「もしかして、これお醤油?」

 一口食べてみた私は、そう口にした。

「いや、少し違うな、もっと旨味が強いし、少し生臭みが有る・・・」

 ユキがそう分析する。

「それは、魚醤だよ。魚を発酵させた調味料だ。ちゃんと濾してあるから、生臭ささはあんまりないと思うんだけど」

 モモが説明してくれた。

 なるほど、お醤油とは違うけど、これはこれで美味しい。

「ねえ、これも交易品にすれば良いんじゃない?」

 カレンの隣でリーナがそう言う。

「そうだな。これ気に入った」

 ユキが答える。

 実は、今回の戦闘で必要だった武器防具や魔石などを買ったの費用の補填の為に、この村と私達の村で交易を行う約束をしている。

 この村の作っている干し貝柱などと、うちの村の特産品であるりんごを交換するのだ。

 りんごは長距離の船旅をする人達にはビタミン源として重宝するので、その人達に売っても良いし、モモ達が食べても良い。

 私達は普段食べられない海産物が手に入るので、Win-Winだ。

 男爵に成って領地も手に入ったのだから、それくらいの贅沢をしても良いと思う。

 輸送はデリン商会にお願いするつもりだ。

 今回の物資の費用もデリン商会に肩代わりしてもらっているが、今後、バンズ男爵が税収などから少しずつ返していく事になるだろう。

 その税金は、モモ達が交易で稼いだ中から払われる訳だ。

「これ、焼きモロコシに塗っても美味いぜ」

 キハラが村の人からトウモロコシを貰ってきて、そう言う。

 やはり、干し貝柱の他にもこの魚醤も送って貰う事にしようと思う。

 それは、秋になってりんごが収穫出来てからになる。

 だが、その前にやる事はいっぱい有る。

 ここ数日で見慣れた海に浮かぶ月を見て、私はそう思った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >敵の退路を断とうとして、逆に必死になった海賊にボコボコにされてしまったのだ。 無能な働き者ムーヴに、大草原不可避。 逃げ道は塞ぐんじゃないんだよ、退路に罠(スネアトラップやマキビシなど…
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