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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
12章
112/215

12-3


 海賊との戦闘が始まった。

 相手は海賊であるが、完全に陸上戦闘である。

 海賊達の武器は統一されていなくて、剣や槍など色々あるが、多数を占めるのが斧だった。

 戦闘用のバトルアックスを持っている者も居るが、普通の木こり用の斧もある。

 海賊らしい武器であるが、これには理由がある。

 去年までのこの村や他に襲われた村とかもだが、みんな村を塀で囲んで防衛戦をしていた。

 その塀を壊したり、家々の扉をこじ開けて財産を奪うのに斧は便利な道具だ。

 そして、戦闘に於いても一撃必殺の武器と成り得る。

 当たればの話だが。

「当たらなければ、どうと言う事はない!」

 キハラが大振りな斧の一撃を避け、槍を繰り出す。

 全身を覆う金属鎧だが、全てを金属にすると動けなくなるので、関節部分には隙間がある。

 二つのパーツが上手く重なり合って、なるべく隙間が生まれないように造ってはいるが、それでも完璧ではない。

 動く事で隙間が大きくなったりする。

 キハラの狙いすました槍が、腕の関節部に刺さる。

「ぐわー!」

 海賊の一人が悲鳴を上げる。

 関節の隙間は革などで防御されているが、金属ではないので、良く研がれた槍の穂先で貫通することが出来る。

 キハラは槍術のスキルを高レベルで取っていたので、かなりの戦力になっている。

 致命傷ではないが、腕を負傷した海賊は戦意を失って、後退する。

 キハラは無理に追わず、別の海賊と対峙した。

 モモも魚を捕る銛を改造した槍で戦っていた。

 彼女は槍術のスキルは低レベルでしか取ってはいなかったが、漁師の銛を使うスキルの恩恵でそれなりに戦えていた。

「こんな簡単な事だったのか?」

 モモが手に持つ槍に驚嘆する。

 元の銛は先端が三つに分かれた物だったが、今は真ん中の一つの穂先以外は取り外されている。

 三又の銛は魚を捕るとき、少し狙いが外れてもどれかの穂先が当たることがあるので便利だが、鎧を着た相手には不利になる。

 隙間を狙って突き出しても、他の穂先が金属鎧に当たって深く刺さらない事があるのだ。

 だが、穂先が一本なら邪魔にならず突き刺すことが出来る。

 モモはまず相手の顔面を狙う。

 視界を得る為にはどうしても目の部分は開いていないといけないので、そこが弱点になる。

 兜の目の所をスリット状にして、ある程度の防御力はある様になっているが、突き刺すような攻撃は脅威になる。

 人は目に向けて尖った物を突き出されると本能的に恐怖を感じてしまう。

 その為に防御をするので、簡単には当たらないのだが、牽制にはなる。

 顔面攻撃とみせて、胸と腹のアーマーの隙間に槍をねじ込む。

 深くは刺さらなかったが、激痛を与え、戦闘力を削いでいく。

 他の村人達も善戦していた。

 数で劣るが、砂地で動きの鈍い海賊達に対して、有利に立ち回っている。

 斧などの大きな武器を上手くかわしている。

 この数日、砂地での訓練を続けてきた事の成果だった。


 援軍の情報をわざと流し、相手の動きを誘導したのは、戦略。

 この村の人達も日々の生活があるので、いつまでも砂浜で敵を待ち構えることは出来ない。

 食料や金銭を得る為に漁に出なければいけないので、そうなると戦力になる男の人達が少ない時に襲われる可能性も有った。

 そうならない様に、私達のお金で小麦粉などを買って来て、食料調達で村人達がバラバラにならない様にしてきた。

 食料が尽きる前に海賊が到着したのは、狙い通りである。

 こちらの有利な砂浜に敵を誘い込んだのは、戦術。

 双方少人数で、複雑な隊列を組んだりはできないから、この位の戦術で良い。

 そして一番大事なのが、現場での工夫である。

 動きやすい軽装鎧にした事、三又の銛をただの槍に改造した事、そう言った小さな工夫がこの小さな戦場で生きている。

 『彼を知り己を知れば百戦危うからず』と言う言葉が有るが、もちろん知るだけでは駄目で、知ったうえで対策をしなければいけない。

 敵の有利な部分、自分達の不利な部分を分析して、どんな小さな事でも良いからその差を埋めていく工夫が大事なのだ。

 戦略、戦術、工夫、全てが嚙み合えば、負ける事は無い。

 では、負ける事が無いとなると、次は自分達の被害をどれだけ減らせるかが重要になる。

 海賊に勝ったら終わりではなく、この村の人達はその後も生活していかなければならないのだ。


 動きにくい砂地、重い鎧と武器で海賊の攻撃は当たり難くなっているが、それでも、まぐれなのか、油断なのか、攻撃を受けてしまう事も有る。

「ぐわっ!やられたっ!!」

 村人の一人が、肩に斧の一撃を受けた。

 革の鎧を付けていたが、防御力は十分ではなかった様だ。

 血を噴き出して倒れる。

「行くよ!アーサー君!」

 私は彼に声を掛け走り出す。

 倒れた村人に海賊が追撃を掛けようとするが、左右の仲間の村人が牽制することで助ける。

 自分の正面の敵にも対応しなければいけないので、一気に負担が増える。

 それでも少しの間だけ踏ん張ってくれればいい。

 その間に、私達が負傷した村人の隙間を埋める。

 私とアーサー君が海賊目がけて槍を繰り出す。

 鎧の隙間を狙うなどの繊細な攻撃ではなく、取り敢えず当たり易い胸や胴に向かって突き出す。

 私の槍はいつもの短剣を棒に括り付けた即席槍だ。

 短剣と言ってもそれなりに太い剣なので鎧の隙間に突き刺すのは難しい。

 なので、走って来た勢いそのままで胸のプレートアーマーを刺すと言うより押すと言った感じで当てる。

 体重を乗せた一撃に、海賊は後ろに吹き飛ばされた。

 胸の鎧はへこんだが、刃は通っていない。

 それでも衝撃で、少しの間は起き上がれないだろう。

 その隙に、私は怪我をした村の人に治癒魔法を掛ける。

 レベルが低いから少ししか治らないが、取り敢えずの応急処置だ。

 そのまま、私とアーサー君で怪我人の両脇を掴み、砂浜を引きずって前線から後退する。

 そして、後方で待機していた村の女の人達に引き渡す。

 彼女達はその人を担架に乗せて、これまで寝起きしていたテントまで運ぶ。

 複数張られているテントは私達の本陣の様になっていて、戦えない子供や老人達が纏まっている。

 カレンが弓を持ってこの本陣兼救護所を守っていた。

「後は任せて!」

 そこで待っていたリーナが、運び込まれた怪我人に高レベルな治癒魔法を使用する。

 村人の傷は見る間に消えていく。

 この世界に来てから得た治癒魔法のスキルだが、何度かの実践で彼女のそれは達人のレベルに達していた。

 それでも深手を負ったのなら、治ったとしても暫くは安静にしていなければならない。

 だが、今はそんな事を言っている暇はない。

鼓舞エンカレッジ!」

 ユキが光魔法で村人の戦意を無理矢理上げて、前線に送り返す。

 所謂いわゆるゾンビ・アタックと言うやつだ。

 大分無理をして貰う事に成るが、数の劣勢を補う為に必要な方法だ。

 その為にこの数日、スタミナを付ける為、みんなには十分な食事を取って貰っている。

 更には鎧や武器を買うお金をある程度ケチって、食料やリーナとユキの使う魔石に充てていた。

「即死以外は何とかするから、すぐに連れて来て!」

 リーナがそう言う。

 私とアーサー君は怪我人を救助するために走り回った。

 足場の悪い砂浜を怪我人を抱えて移動するのはものすごく疲れるが、アーサー君は文句も言わず歯を食いしばって、あたしに付いて来る。


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