12-2
海賊達は浜の手前で止まった。
「親分ちょっと待って下せえ」
ナジンが親分にに話しかける。
「なんでえ?」
ハリーがぶっきらぼうに言う。
「あいつらが、浜に陣取ってるわけが分かりヤシた。ありゃあ足場の悪い砂地に俺らを誘い込む作戦でヤス。重い鎧を着ている俺らは砂の上じゃあ不利でヤス」
ナジンがそう進言する。
この男がどうやら海賊達の軍師的役割を担っているらしい。
「じゃあ、どうすりゃあ良い?」
ハリーが聞く。
「そうでヤスね、少し遠回りして、村の方を狙いヤしょう。奴らも家を燃やされそうになったら、こっちに来るでしょう。そしたらこっちが有利な硬い地面の上で戦えヤス」
「なんだ、めんどくせえな。こっちの方が数が上なんだ、少しくらい不利でもなんとかなるんじゃねえか?」
ナジンの作戦に、親分は難色を示す。
「ダメでヤスよ。最終的に勝っても、被害が大きけりゃその分損なんでヤスよ」
ナジンが正論で、海賊達を止めようとする。
しかしその時、浜辺の村人達の方から、赤い火の玉が降って来た。
「うわ熱っちい!!何だ!魔法使いが居やがるのか?」
ハリーが叫ぶ。
「大丈夫でヤス!距離が有るから大した威力は出てないでヤス!鎧で防げる程度でヤス」
ナジンがそう言う。
実際、隙間なく金属製の鎧で身体を覆っているので、海賊達は何ともない。
「野郎!」
親分が浜の方を見る。
隊列を組んでいる村人達の向こうに櫓が一基組まれていて、魔法はその上から放たれたようだった。
櫓の上には人が二人居て、最初に魔法を放った男の次に、別の小柄な女が次の魔法を撃った。
また火魔法かと思われたが、今度は眩しい光が放たれただけで、他に何も起きない。
「なんだ?不発か?まあいい、後ろから魔法を撃たれちゃ、面倒だ!このまま叩くぞ!」
ハリーは目を血走らせて、海賊達に号令を出す。
「あ、ちょっと、親分!」
ナジンが止めようとするが、海賊達は構わずに雄叫びを上げ村人達に向かって走り出す。
「流石に気付くか」
櫓の上で、遠くの海賊達を見たユキがそう言う。
やって来たのは完全武装の海賊約七十人。
モモから聞いたのより増えているが、旨い汁を吸えることを聞いた者が加わったのだろう。
砂地で戦う事の不利に気付いて止まっている様だ。
村は元から塀で囲まれていて、出入り口も固く閉ざしてきているが、あちらに行かれると困った事になる。
「それじゃあ、打ち合わせ通りにやるよ!」
ユキは隣に立つレオ太郎にそう言う。
犬猿の仲の様な二人だが、流石にこの状況でいがみ合ってはいない。
「分かってる。行くぞ!」
彼が答える。
「火炎竜吠!!」
レオ太郎が火魔法を放つ。
長距離広範囲の火の高位魔法だ。
海賊達全体に降り注ぐが、広範囲であるために、一人当たりのダメージは小さい。
一瞬炎に覆われるが、全身鎧を着ていれば、ほぼノーダメージだ。
だが、それも最初から織り込み済みだ。
続いて、ユキが魔法を発動させる。
「鼓舞!!」
光魔法の『鼓舞』は、その光を見た者を勇気づけ、戦いに駆り立てる作用が有る。
戦争においては開戦前に自陣営に向けて使われることがあるが、時々味方が興奮しすぎて暴走することもあるので使い所が難しい魔法でもある。
なので、村人達には、あらかじめ櫓の方を見ない様に指示してある。
直接目で見なくても、光を浴びることで、ある程度の効果はある。
それを加味して、ユキは最大出力で魔法を発動させた。
手前に布陣する味方は櫓に対して背を向けているので、丁度良い効果が出るが、対峙する海賊達は直接光を見る事になるので、最大の効果が表れる。
一度、村の方に行こうとしていた海賊達がこちらに向かって攻めてくる。
精神系の魔法は、戦場では敵味方同時に作用するので使いにくいが、それを逆に利用した作戦だった。
「良し、釣れた!」
ユキがこちらに向かってくる海賊達を見て叫ぶ。
レオ太郎の火魔法で海賊達の敵意をこちらに向け、ユキの光魔法で敵の戦意を上げて、こちらに呼び込むと言う作戦だった。
海賊達を砂浜に誘い込むと言うてんこの案にレオ太郎が、敵がその誘いに乗らなかったらどうすると指摘したのに対して、ユキが考えた。
「じゃあ、下に降りるぞ」
ユキが梯子を伝って櫓から降りだす。
「ここで、このまま兵に指示を出した方が良いんじゃないか?」
レオ太郎がそう言う。
敵味方がぶつかったら、味方を巻き込むので広範囲魔法は使えなくなるが、それでも櫓からは砂浜全体が見渡せるので、戦況を見るにはもってこいの様に思える。
「残りたかったらどうぞ。ただ、海賊達には弓矢を持ってる奴もいるみたいだけど?」
ユキが冷淡に答える。
櫓と言っても即席で作ったので、矢避けの板は十分に張られている訳ではない。
「わ、分かったよ、降りるよ」
そう言って、レオ太郎も降りだした。
レオ太郎とユキの魔法で、海賊達を上手く砂浜に誘導することに成功した。
「良し」
最初の一手だが上手く行ったので、私は小さく声を出す。
お金などの村の人達の財産は、村の方には残していないが、家を壊されるとなると動揺が広がるので、こっちに来てくれるのは助かる。
とは言え、迫り来る完全武装の海賊には恐怖を覚える。
こちらの正面戦力がバンズ男爵が貸してくれた兵を含め五十人、海賊はモモから聞いた去年の数より増えて、約七十人。
これだけでも不利なのに、相手はほとんどが全身を覆うフルアーマーを装備している。
矢が飛び交い、槍や剣で戦う戦争を経験すると分かるが、鉄の鎧と言うのはものすごい安心感を着る者に与える。
鍋で頭を守るだけでも、それが実感できるのだから、全身ならなおさらだ。
だが、全身を覆えるだけの鉄製品はかなりの重さになる。
対して、こちらの大半は頭や胸などの急所を守るだけの鎧だったりする。
予算に限りがある上に、急ぎで手配しただからしょうがないのだが、逆にそれほど重くないので、足場の悪い砂浜ではこちらの方が動きやすいと言うメリットがある。
海賊と村人の前列が接触した。
こちら側はキハラやバンズ男爵の兵、それにモモも加わっている。
私は前戦からは少し下がったところで待機していた。
「まだよ、アーサー君」
隣にはアーサー君が居た。
今にも飛び出して行き戦いに加わりたいと言う顔をしているので、釘を刺す。
私と彼の出番はまだ先だ。




