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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
11章
105/215

11-2


 バンズ男爵の村に来た私達は、村人に聞いて彼のお屋敷を訪ねた。

 男爵が本拠にしている村だけあって、モモの住んでいる村よりは建物の数は多かった。

 お屋敷も私達の村の屋敷と同じくらいの大きさだ。

 応対してくれた使用人の人には、取り敢えずここまで偽装して来た某男爵令嬢とその関係者として名乗る。

 本当の身分を名乗るかはこの後の状況次第だろう。

 モモ達には本当のことを言ってしまったが、なるべく広めない方が良いのは確かだ。

 しかし、バンズ男爵は現在不在だと言われてしまう。

「申し訳ありません、男爵様は所用で外出しておりまして、今日の夕方頃には戻るのですが・・・」

 使用人の人がそう言う。

「どうしよう?」

 私が後ろのみんなにそう聞く。

「取り敢えず、中に入ってお待ちください」

 使用人の人がそう言ってくれる。

「そうさせて貰おうか」

 ユキがそう言う。

 一応リーナがお嬢様役なんだが、私達の間ではそこら辺はもうどうでも良くなっている。

 使用人の人が少し訝しそうな顔をするが、適当に誤魔化す。

「ああ、緑川・・・じゃなかった、レオンは居るかな?知り合いなんだが」

 キハラが聞く。

「はい、居ります。呼んでまいりましょう」

 使用人さんがそう言って、屋敷の奥へ行く。

 私達はメイドさんに応接室に案内された。

「領主の外出に同行して居ない所を見ると、そんなに信用されてない様だな、レオ太郎の奴」

 ソファーにドカリと座ってユキがそう言う。

 使用人であるはずの私達も全員座ったのを見て、メイドさんも訝しむ。

 それでも、深くは追求せず全員分のお茶を淹れてくれた。


「どうしたんだキハラ?急に訪ねて来るなんて、しかもどこかのお嬢さんと一緒とは・・・」

 暫くして、一人の男が応接室の扉を開けて入って来た。

 あまり特徴の無いどこにでも居そうな顔の少年。

 身長は低い。

 彼が緑川礼尾太郎なのだろうが、正直、そう言えばこんな人も居たかなあ、くらいの感想しか湧いてこなかった。

「いよう、久しぶりだな、レオ太郎」

 ソファーに座ったまま、ユキが不敵に声を掛ける。

「げえ!冬野由紀!?」

 レオ太郎が彼女を見て大げさに驚く。

 女の子の顔を見てそれは無いんじゃないかな?

「なんだ、その反応は?所在が分かった元クラスメイトを訪ねたら悪いか?それに、私以外も居るぞ」

 ユキがそう言う。

「え?ああ、夏木さんと秋元さんと、それから、ええと・・・」

 彼がリーナとカレンとそれから私を見る。

 やはり私は分からないか、こっちに来てからの初対面で分かったのはユキだけだ。

「春日部天呼です。ええと、今回はただ単に再会の為だけに来たのではなくて、この近辺に出没する海賊の件で、領主のバンズ男爵に相談が有ってきたんです」

 私は取り敢えず訪問の意図を伝える。

「そうだ、お前なんで、モモの村に援軍を出さない?」

 ユキが彼を睨む。

「い、いや、それは俺の権限ではどうにもできないって言うか・・・」

 やはり後ろめたさは有るのか、私達に視線にレオ太郎はしどろもどろになる。

「なんだ、キハラからは軍師になったとか聞いてたけど、やっぱりその程度か?」

 ユキが嘲笑する。

「うぐっ・・・、そ、それより、ベネウィッツ男爵令嬢一行って聞いたが?」

 彼は一瞬言葉を詰まらせるが、気を取り直して私達に対する疑問を口にした。

「ああ、それには事情が有るんですけど・・・」

「そこら辺はここの領主様が来たら話すよ。あんた、あんまり役に立ちそうにないから」

 私が説明を始めようとしたところで、ユキがそう言った。

 流石に彼も気を悪くする。

「ユキ、確かにここの領主様に会うのが今回の私達の目的で、レオ太郎さんに会うのはついでだけど、だからと言って無駄に悪く言う必要はないでしょう?」

 私はユキに対して苦言を呈する。

 自分にとって有益ではないからと言って、変な事を言って他人を敵にする必要も無い。

「だって、こいつモモの窮地に何もしてないんだぜ?権限が無いんなら自分一人だけでも来ればいいだろう?」

 ユキは少し不貞腐れた声でそう言った。

「いや、海賊の人数は五十人以上だ。俺も一応剣術のスキルとかは持っているけど、俺一人が加わったところでどうしようもない。だから、ここで領主に海賊退治の策を挙げているんだ。ただ、その策を領主が取り上げてくれないんだ」

 レオ太郎がそう言い訳をする。

「どうせ、現実味の無い策を言って却下されてるんだろ。これだからゲーム脳は」

 ユキが更に悪態をつく。

 確かにその通りかもしれないが、今大事なのは彼を叩くことではない。

 感情的に悪態をついて敵を増やすより、気に入らなくても領主から何とか有利な条件を引き出して、モモの村を救うのが今の私達の目的だ。

「ユキ・・・」

 私が彼女を見る。

 頭の良い彼女だから、私の言いたいことは察してくれた様で、すぐに口を閉じた。

 リーナとカレンはさっきから黙っている。

 レオ太郎とあまり親しくなかったと言うのも有るだろうが、言いたいことは大体ユキが言ってくれたと言うのも有るだろう。

 応接室に変な静寂が訪れる。

「あ、ああ、そうだ腹は減ってないか?いいものを食わせてやるよ」

 沈黙に耐えられなくなったのか、レオ太郎はそう言って部屋を出て行った。

 明らかに嫌悪感を向けるユキはともかく、それ以外のリーナやカレンの機嫌を食べ物で取ろうと言う事だろうか?


「おお、これはハンバーガーじゃないか」

 暫くして、レオ太郎が持ってきた料理を見て、キハラが驚きの声をあげる。

 確かにそれはハンバーグの様な挽き肉の塊を焼いたものを上下に切った丸いパンで挿んだものだった。

「そうだ、まだ元の世界のものには及ばないけど、作らせてみた。良かったら食べてくれ」

 レオ太郎が自慢げにそう言う。

 作らせてみたって事は、彼が自分で調理したわけではなく、ここの料理人にどういう物か教えて作って貰ったって事だろう。

 ちなみに、この世界に『ハンブルグ』と言う街は無いので、挽き肉をまとめて焼いたものは『ハンバーグ』とは言わないが、それは頭の中で『ハンバーグ』に翻訳されるし、私達も頭の中で『ハンバーグ』として思い描いた物は言葉の成り立ちとか関係なく、話すときはこの世界の『挽き肉をまとめて焼いたもの』を現す単語になる。

 つまり、ハンバーグをハンバーグと呼んでいるのは便宜上のものだと思ってもらいたい。

 サンドイッチ伯爵も居ないけど、サンドイッチはサンドイッチなのも同じだ。

 ともかく、出された料理に手を付けないのも悪いので、食べてみる。

「・・・微妙だな」

 一番にかぶり付いたキハラが、そう感想を述べる。

「いや、これはまだ研究途中でな、少しずつ元の世界の味に近付けているところなんだ・・・」

 レオ太郎が弁明する。

「いや、無理だろう」

 ユキがそう言った。

「まず、肉が悪いね。牛肉100%みたいだけど、肉用に育てた牛じゃなくて、歳を取った農耕用の牛を使ってるな。いくら挽き肉にしても筋の固さと臭みが残ってしまってる。この世界じゃ肉用に牛を育てるなんてかなりの贅沢で、大抵は廃牛しか手に入らないから、料理の段階での改善とかは無理だろう」

「あと、間に挟んでるトマトだけど、品種改良されてないからなのか酸っぱすぎるよ。無理に生のトマトを使うより味を調えたケチャップの方が良いんじゃない?」

「香辛料も元の世界のものを再現しようとして色々入れてるみたいだけど、それぞれが邪魔し合ってるみたいだ」

 みんなが口々に意見を言う。

 私達もこっちの世界に来てから、元の世界の料理を再現しようとしたことが何度かあるが、材料の違いで中々上手くいかなかった。

 手に入らない材料もあるが、同じものが有っても、肉の品質や野菜の風味とかが違っていて、単純にそれらを組み合わせても再現は難しい。

 なので、無理に元の世界の料理を忠実に再現するより、手に入るものを使って上手くアレンジしていった方が良いと思う。

 ユキが作ったうどんとかは元の世界のものとは少し違っていたが、それでも、それはそれで美味しかった。

「ええと、元の世界のハンバーガーに比べれば微妙かもだけど、こういう料理だと思えば、まあ、食べれない事も無いんじゃないかな?そうだ、海が近いんだからフィッシュ・バーガーにすれば良いんじゃない?」

 みんなの感想に落ち込んでいるレオ太郎に私がフォローの言葉をかける。

「・・・俺、魚は苦手なんだ」

 レオ太郎は更に落ち込んだ声を出す。

 海のそばに住んでいて、それは致命的じゃないか?

 まあ、海辺だからと言って魚以外の食材が手に入らない事も無いだろうけど。

「てんこちゃん、無理にフォローすることも無いよ」

 カレンがそう言う。

「そうだね、てんこちゃんは誰にでも優しくしようとするところあるけど、それってちょっと八方美人だよ」

 リーナもそう言う。

 私は反省した。

 八方美人と言えば、確かに私そう言う所があるかもしれない。

「我が屋敷にようこそ」

 その時、一人の中年男性が部屋に入って来た。

 我が屋敷と言っている所を見ると、この人がバンズ男爵だろう。

「ところで、ベネウィッツ家にお嬢さんが居るとは聞いた事が無かったのだが?」

 男爵がそう言う。


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