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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
11章
104/215

11-1


「予定を変更して、桃山さんを助けることにしたけど、良かったのかな?」

 私は馬車の中で、みんなにそう聞いた。

 私達は今、バンズ男爵の本拠の村に向かって進んでいるところだ。

 無駄かもしれないが、一応援助を頼みに行くつもりだ。

 キハラにはそのままバリス公国の首都に行って、武器と防具の調達をしてもらう。

 ベルドナ王国諜報部の連絡員さんにも事情を説明して到着が遅れることを伝えてもらう役目も頼んでいる。

 モモは村に残って村人達だけで出来る準備をしてもらっている。

「良いんじゃない?お金だけ渡してサヨナラって言う訳にもいかなかったでしょ」

 カレンがそう言う。

「てんこちゃんがリーダーなんだから、その決定には従うよ」

 リーナもそう言った。

 みんな私の事、モモの為に方針を決めたと思ってくれてるみたいだけど、良いのかな?そのお金だけ渡してサヨナラって言うの、真っ先に考えたんだが。

 私って、みんなが思ってるより冷酷な人間だと思うんだけど・・・

 それが他の人の目が有ると、つい、良い格好をしてしまう。

 私って、みんなが思っている程、信念とか無いんだけど。

 こんなのがリーダーで良いんだろうか。

「それより、レオ太郎だよ、モモが居るの知ってるのに何で助けを出さない?」

 ユキが怒っている。

 緑川礼尾太郎、モモと同じくこの近辺に転生して来て、一時期は彼女と一緒に行動していた事も有るそうだが、なんやかんや有って今はバンズ男爵の配下になっているらしい。

「その海賊ってかなりの規模みたいだし、戦力をいたら本拠の村も襲われかねないから仕方ないと思うよ」

 私はそう言う。

 緑川君の事はあまりよく知らないから、一応はフォローをしておく。

「そうかな?軍師とか自称してるみたいだけど、実はそんなに権限が無いんじゃないの?」

 割りと辛辣な事をリーナが言う。

「そうだな、あいつ昔から口だけな所があった」

 以前から彼を知っているユキも同じく辛辣な事を言う。

 う~む、彼の事はあまり覚えていないのだが、会う前から良くないイメージが着いてしまう。

 一応は味方側の人間だし、これから援軍を頼む訳だから変に悪く思うのもどうかと思うのだが。


「ですから、ここは先手を取るのが大事なのです!」

 緑川礼尾太郎、いや本人が言う所のレオンが、そう熱弁を振るっていた。

「いつ来るか、何処へ来るか分からない海賊を待つのは愚策です。こちらから撃って出て海賊の本拠を叩くべきです!」

「そんな事は分かっているのだよ。だが、海賊はベルデン共和国の島から来ているのだ、そこに兵を送るとか、国際問題になるだろう」

 彼の意見に反対しているのは三十歳くらいの中肉中背の男、ノエル・バンズ男爵。

 ここは彼の屋敷の中だ。

「そこ、そこですよ・・・」

 レオンが身を乗り出して話す。

「ベルデン共和国は沿岸諸国の中でも比較的小さな国だ。ここは海賊を口実に攻め込んで我が国に併合した方が良い。そうしないと最近力を付けて来ているベルドナ王国に沿岸諸国は軒並み併合されかねない!あそこは食料生産を増やして今国力が上がって来ている。そうすると海がないあの国が次に狙うのは直接海外と貿易するための港です。俺だったらそうする」

 彼がそうまくしたてるが、男爵はうるさそうに手を振る。

「なるほど、君の戦略眼は大したものだ。だが、一男爵にそこまでする権限は無いのだよ」

「うぐっ、だったら、俺を公国のもっと上の方に紹介してくださいよ・・・」

「それも無理だな、君には実績がない。大きな事を言う前に、今は与えられたもので出来ることをするべきだな」

 他に用事が有るのだろう、この話はここまでとして、バンズ男爵は席を立った。

「くそ、スタート直後は近場の小さな勢力を食っていくのが戦略ゲーのセオリーだろう」

 男爵が部屋を出て行くのを見て、彼は悔しそうに呟く。


「くそ、上手く結べねえな・・・」

 日焼けした髭面の大男が悪態をついている。

 彼の手元のには魚を捕まえる為の網が有った。

 不器用な手で漁網の補修をしている。

 大男故の不器用さもあるのだろうが、彼の左目の所に大きな傷が有るのも上手く補修が出来ない原因のようだ。

 瞼に傷は有るが眼球は辛うじて無事らしい。

 刃物か何かで傷を受けた後、治癒魔法で治したように見える。

 ただ、治癒魔法のレベルが低かったのか、完全には治らず視力の低下を招いている様だ。

「あんた、私が代わりにやるよ」

 男の奥さんらしい女性が、交代を申し出る。

「おう、悪いな」

 男が補修途中の網を渡す。

「今年の『出稼ぎ』で稼いだら、良い治癒術師にこの目も完璧に直してもらうからよ、それまで辛抱だ」

「あんた、今年もまた行くのかい?その目の怪我も去年の『出稼ぎ』が原因だろうさ」

 女がそう言う。

「うるせえ!誰のおかげで良い暮らしが出来てると思ってやがる!」

 この村の村長で海賊の親玉でもある男、ハリーが叫ぶ。

「それによう、この傷を付けてくれたあの女、仕返ししてやらなきゃ気がすまねえ!去年は領主の兵が来やがったから退散しなきゃならなかったが、今年はそうはいかねえぞ!」

 ここは大陸南岸バリス公国の沖にある島。

 しかし領土的にはベルデン共和国のものであるために公国からは簡単に手出しできない。

 それをいい事に、一部の漁民が『出稼ぎ』と称して海賊行為を行っているのである。


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