10-8
「海賊たちは数年前から定期的にこの近辺の村を襲いに来ているんだ」
モモが話し出した。
「この家はアーサーの伯父さんの家だったんだけど、四年前の襲撃で一家全員殺されてしまったって話だ」
その言葉に私達は息を飲む。
四年前なら私達もモモもまだこの世界に来ていなかった頃だ。
それで、住む人の居なくなった家を譲って貰ったのか。
熊のモンスターに襲われて死んだジムお爺さんの山小屋を譲って貰った私と同じだ。
「そして去年にはアーサーのお父さんも死んだ。今彼はお母さんと二人暮らしなんだ」
この場の雰囲気がさらに暗くなった。
去年ならモモもその襲撃に立ち会っているはずだ。
彼女も戦ったのだろうか。
「それで、海賊に対抗するために武器が要るって事?」
カレンが聞く。
「そうだ、奴らは奪った金で鎧や武器を買い揃えて年を追う毎に強くなってるらしい。撃退するにはこの村の人も武装する必要がある」
「待って、みんなで逃げるって言う選択肢は無いのか?」
ユキがそう聞く。
「内陸の方に伝手がある人はそっちに行ったけど、そうじゃない人はどうしようもないんだ。海辺の近所の村はどこも襲われる可能性がある。それに、みんな海での仕事しかしたことの無い人達だから・・・」
この村が家の数に比べて人が少ないのは海賊の襲撃で亡くなったり、他所に逃げて行って、それでも、何処にも行けない人達だけが残っているという事か。
「みんなにも仕事や生活が有るのは分かっている。でも、可能な限りで良い、お金を貸してほしい。必ず返すから」
モモが、懇願する。
リーナ、カレン、ユキが私の方を見た。
え~、何だろうな、ここでもまた私の判断を仰ぐのか?
もし、ここに来たのが私一人だったら、自分に必要なお金を残して、それ以外全部を貸すと言うか、あげてしまって、危険な目に遭わないうちに逃げ出すところだけど・・・
気のせいかも知れないが、みんなの目はそれ以上を望んでいる様に見える。
いや、多分、完全に私の考え過ぎなんだと思うんだけど・・・
私は口を開いた。
「分かった。貸せる限りのお金を全部貸します。ただし・・・」
そこで、一旦区切る。
「私達も一緒に戦います」
私の言葉にモモが驚く。
「待ってくれ、そこまでして貰う訳にはいかないよ。それに、みんなはワーリン王国に行く仕事が有るんだろう?」
モモがそう言う。
確かにそうなんだが。
「第一に、もし桃山さん達が海賊にやられちゃったら、貸したお金が返って来なくなるんで。貴女がお金を持って逃げるとは思ってないけど、個人の信用とは別にお金が返って来ない可能性はなるべく低くしたいです」
自分の身の危険を考慮するなら、本当はお金なんてどうでも良いのだが、今はそう言う事にしておく。
取り敢えず、みんなも頷いた。
「第二に、元の仕事の方は最悪一週間くらいなら延ばしても何とかなるはず・・・だと思う」
これはあまり確証はない。
作戦の開始は私達がワーリン王国に着いてからだから、少しくらい遅れても問題は無いと思う。
一応、連絡は入れておいた方が良いとは思うが。
「でも、海賊が来るのが何時になるかなんて分からないし・・・」
モモがそう言う。
確かにそうではあるが、何らかの方法で海賊の襲撃を誘導できないだろうか。
「そこは何か策を考えよう。まずは詳しい相手の情報を教えてもらってからだな」
ユキがそう言う。
そうだな、私一人では考え付かなくても、みんなで考えれば何か良いアイデアが出ると思う。
その為には、敵とそれから味方の情報を詳しく知る事が大事だと思う。
取り敢えず、基本方針はこれでいいだろう。
「みんな、ありがとう・・・」
モモが涙ぐんで礼を言う。
「ああ、ちょっと聞きたいんだが・・・」
キハラが横から口を挿んで来た。
「なに?」
ユキが聞く。
「ええと、なんで春日部がリーダーみたいになってるんだ?今までそんな感じは無かったと思うんだが」
キハラがそう聞く。
ああ、確かに普段みんなと話すときはそんな感じは無いんだけど、こういう重要な何かを決定するときは一応私が主導することになる。
「それはもちろん、てんこちゃんが・・・」
リーナがそこまで言って口籠る。
モモとキハラには大雑把な事は話したが、私がリーダーで男爵に成ったって事までは話してはいない。
普段の私は積極的に話の輪に入って行く方ではないので、傍から見てリーダーとは思われないだろう。
私自身もそんなつもりは無いのだが、何故かこういう時になると、みんな私を頼って来る。
今もまた、詳細な事を話すべきか迷ったリーナが私の方を見る。
しょうがない、モモの事情に全面的にかかわると決めたのだから、こちらも全部本当のことを言おう。
「ええと、この世界に来てからなんか色々あって、今の私はベルドナ王国アルマヴァルト領カスカベ村の領主で男爵と言う事になってます」
私がそう答える。
「え?ウソ?」
「どう言う事だ?」
案の定、モモとキハラが驚きの声をあげる。
「まあ、それこそ色々有ったんだよ」
カレンがそう言う。
「まあ、そんな訳で、男爵カスカベ・テンコとして、キハラ君の所属するデリン商会に協力を要請をします」
私は彼に向かってそう言った。
「あ、ああ、分かった」
こうなったら、使える権力は何でも使うつもりだ。
デリン商会の上層部には私達に協力する様に王国から要請が行っている。
本来の仕事とは海賊の件は完全に別件だが、そこは無理を通させてもらう。
別件で有るから、費用は私が個人で持つことにするつもりだ。
自分達の村に戻ればお金はそれなりにある。
今、手持ちのお金は個人旅行としては潤沢にあるが、村一つ分の武装をそろえるには足りないだろう。
だから、商会から借りる。
いや、直接武器とかを商会に用意してもらった方が良いだろう。
「それで、海賊の人数はどれくらいなの?」
ユキがモモに聞く。
「去年は五・六十人は居たと思う」
かなりの数だ。
「村の人数は百五十人くらいだけど、戦える人となると五十人に満たない」
私達が加わっても厳しいな、更に敵の方が武装が充実しているとなると、何か工夫が居る。
「そう言えば、ここの領主ってどうしてるの?自分の領地が襲われてるのに何もしない訳?」
ふと思い付いたように、カレンが聞いた。
「ここはバンズ男爵って人の領地なんだけど、男爵はこの村を含めて三つの村を持ってる。それで、自分の本拠の村が襲われない様に兵を集めてて、海賊が来たら兵を出してくれるんだけど、すぐには救援に来れないからその間に略奪に遭ってしまうんだ」
モモがそう答えた。
難しい問題だ。
兵を分散しておくと、大人数の海賊に対抗できないが、まとめて置いて襲われたところに送り出すのでは間に合わない。
「バンズ男爵?ここの二つ隣の村のバンズ男爵か?」
急にキハラが聞いてきた。
「そうだけど」
モモが答える。
「ああ、そうなのか、この村もバンズ男爵の領地だとは知らなかった・・・」
小規模な村とは言え三つも領有しているとなると、そこそこ大きな男爵家だ。
「知ってるか?そのバンズ男爵の所に元クラスメイトの緑川が居るって」
キハラがそう言う。
「・・・知ってる。軍師とか言って、偉そうにしてたわ」
モモはうんざりした感じで、そう言った。
何か有ったのか?




