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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
10章
102/215

10-7


 モモが蟹を茹でて、私達は人参とジャガイモのシチューを作った。

 野菜はモモの家にあった物を使わせてもらい、小麦粉は私達の持っていたものを使った。

 隠し味にチーズと港町で買って来た干し貝柱を入れている。

「みんなには蟹とか珍しいだろうけど、ここら辺じゃ魚介類は飽きるだけ食べれるんだ、逆に私には穀物が嬉しいな。お腹にたまって良い」

 無心で蟹の殻を割って身を取り出しては食べる私達をよそに、シチューを食べながらモモがそう言う。

「この辺じゃ麦類は作られてないの?」

 リーナが聞く。

「そうだな、公国内でも内陸の方に行くと作ってるところもあるけど、この辺は塩害で上手く出来ないみたいだ。だから魚とかと交換している。聞いた話じゃ、ベルドナが最近小麦を量産して輸出してるって話だな」

 モモが答える。

 なるほど、うちの国で開発した寒さに強い小麦のお陰で天候にあまり左右されずに安定した収量が確保できて、よその国まで出回ってるのか、その対価に干し魚とか海外の香辛料とかを輸入しているんだな。

「干し魚も良いんだけど、もう少し新鮮な魚介類が入って来ないもんかな?」

 カレンがそう言う。

「現状じゃ難しいかな。冷蔵庫を馬車に積むにしても、その分貨物の量が減るから、運べる量が少なくて、単価がバカ高くなっちゃうだろ」

「そうだね、馬車のスピードじゃ時間が掛かるから、冷蔵のコストも上がるし」

 ユキと私がそう分析する。

「自動車か鉄道でも発明されない限り無理だな」

 そうなると、産業革命クラスの事が起きないといけない。

 エンジンは無理だが、蒸気機関位なら私達の知識で何とかなるかもしれない。

 でも、それだって相当の研究が必要で、実現まで何十年も掛かるかもしれないし、そんな開発資金もない。

「まあ、不便な事も有るけど、こののんびりした世界も好きなんだよね、変に近代化させる必要も無いだろ」

 蟹の身をむさぼりながら、ユキがそう言った。

「それより、この干し貝柱、良いね。これなら軽いし日持ちもするし、少量で良い出汁が出るから私達の所でも欲しいな」

 シチューを一口飲んで私が言う。

「それなら、うちの村でも作ってる人が居るよ。欲しかったら売ってもらえるかも」

 モモがそう言った。

 蟹を食べる時はみんな無言になると言うが、それでも久しぶりに会ったクラスメイトとの会話をしながら夕食の時間は過ぎていく。

「そう言えば、キハラ君はさっきから静かだね?」

 モモがテーブルの端っこで一人蟹を食べていた彼に言った。

「あ、ああ、女子の話に混じっても碌な事にならないって、学習したんで・・・、気にしないでくれ。寝る時も馬車で寝るから」

 そう言って、食事に戻る。

 ううむ、みんな彼に辛く当たり過ぎじゃないか?

 まあ、私もあんまりフォロー出来てはいないけど。

「部屋なら有るから、中で寝ても良いよ?」

 モモがそう言うが、彼は遠慮すると言った感じで手を振った。

 確かにこの家、独りで暮らすには広いし部屋数も多い。

 六人が一緒に食事できる食堂がある位だ。

 そこら辺聞いた方が良いのだろうか?

 そう思うが、自分からは聞きにくかった。


 次の日、私達は村の前の砂浜で海水浴をすることにした。

 ちょっとした湾になっている浜は砂浜に船を乗り上げて泊める感じの港だった。

 一人か二人くらいで乗る小さな漁船ばかりなので、それで十分らしい。

 船の泊まらない辺りをモモに聞いて、そこで水遊びをする。

 水着とかは持っていないので、余っていた布を胸と腰に巻いて隠している。

 ちょっと頼りないけど、女子しか居ないからポロリしても多分大丈夫だろう。

 キハラには悪いけど、彼にはモモの家で馬車の見張りとかしてもらっている。

 村の人が船に乗って漁に出るために行き来しているが、少し遠い場所だから大丈夫だと思う。

 ビーチボールとかは無いけど、波打際をバシャバシャ走るだけでも楽しい。

 熱い砂と足を濡らす波の感触は久しぶりだ。

 ユキは砂でなんか作っている。

 カレンは少し深い所まで行ってガチ泳ぎしだす。

 リーナはモモと一緒に彼女が所有する船に乗って、釣りを始めた。

 みんながそれぞれ海を満喫した。

 今日は一日この村で遊ぶことにしている。

 ここからバリス公国の首都まで馬車で一日程度、乗る予定の船は三日後に出港すると聞いているので、旅の日程には余裕が有るのだ。

 予定の船に乗れなくても次の便があるので問題はない。


 昼頃、釣りをしていたリーナとカレンが戻って来た。

 リーナは少し大きめの鰺のような魚が数匹釣れたようだ。

 モモは素潜りで蟹や貝を捕っている。

 十分遊んだ私達も、モモの家に戻る。

「お留守番ご苦労様」

 馬に飼葉と水を与えていたキハラにリーナが声を掛ける。

 飼葉は隣の家のアーサー君に頼んで用意してもらったらしい。

「ああ、お帰り・・・」

 キハラは振り返って私達を見る。

 モモの家の中しか着替える場所が無いので、私達は即席水着姿のままだ。

 彼は急に顔を赤くした。

「何見てんだよ」

 ユキが冗談交じりに彼を蹴った。

「ああ、悪い・・・」

 キハラが私達から視線を外す。

「て言うか、ユキは見て無かったよね」

「そうだね、主にてんこちゃんを見てたな」

 リーナとカレンがそう言う。

「万死に値する!」

 ユキがさらにキハラを蹴った。

 私は思わず胸を押さえた。

 無駄に背が高いと変に目立つから嫌だ。

「痛てえよ、いい加減にしてくれ!」

 キハラがユキの頭を上から押さえて、そう言う。

「それより、さっきアーサー君から気になる話を聞いたんだが・・・」

 彼のその言葉に、モモの表情が硬くなった。


「実はみんなに頼みが有るんだけど・・・」

 昼食の席で、モモがそう切り出した。

 その顔にはこれまで何度か見た暗い色が見られた。

「お金を貸してほしい」

 モモのその言葉に私達は顔を見合わせる。

 友達をなくしたくないならお金の貸し借りはしない方が良いと言うのは、良く言われることだ。

 モモの表情からすると、その額はお小遣い程度の少額では無いであろうことは察せられる。

「何に使うのかによるかな」

 リーナがそう言う。

「鎧と武器を買う必要が有るんだ」

 モモが真剣な顔で答えた。

「アーサー君から聞いたが、海賊が来るからか?」

 キハラが問う。

 モモはゆっくりと頷いた。


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