かぐやルート19
俺とさくらちゃん、そして麻衣と金剛の四人で集まって談笑しながら登校する朝のこと。
「あら、奇遇ね」
わざとらしく声をかけてきたのは、かぐや。
彼女に気付き、さくらちゃんが俺から手を離す。
まだ気恥ずかしいのだろう。
それより、
「ん? 八重橋さん、今日も歩き?」
「え? そ、そうなのよ! 今日も体調が悪いらしくて。というか当分は悪いらしくて歩きなのよ!」
俺の質問にかぐやは早口で答える。
何か様子がおかしい。
「え、じゃあ運転手の人、入院でもしてるの?」
「してないわよ? 私の家で車を磨くって言ってたわ」
「……体調悪いんだよね」
「あっ」
墓穴を掘ったことに気付いたのか、かぐやの目が泳ぐ。
「そ、そうだ。思い出したわ! 毎日、車を磨かないとお腹が痛くなる病気なのよ!」
………………思い出した。
この子、嘘がヘタっぴなんだった。
まあ、裏表のない性格がファンから好評だったからな。
後はツンツンせずに素直にさえなってくれれば良いのだが。
「ねえ、りっちゃん」
さくらちゃんの視線の先に俺も気付いていた。
明らかに場違いな黒服の人たちが電柱や曲がり角の陰から見えない圧を発してこちらを見ている。
絶対にかぐやの保護者たちだろう。
「一人なの?」
「ん? ええ、そうよ。高校生なんだから学校ぐらい一人で行けるわよ」
あー、つまり黒服の人たちは呼ばれたわけではなく、かぐやが心配だからついてきてるのか。
まあ、今まで車で送迎されていたお嬢様が一人で登校するなどヒヤヒヤものだろう。
で、コソコソしているのはかぐやにはバレたくないからと。
仕方ない。
黒服の人たちに睨まれ続けるのも落ち着かないしな。
「じゃあこれからは一緒に行こうか。人数多い方が防犯にもなるだろうし」
俺の提案にかぐやは目を丸くする。
「し、仕方ないわね。どうしてもって言うならそれでも良いわよ」
はい出ましたテンプレ。
ここで意地悪したら面倒臭そうだ。
黒服の皆さん安心してください。
この子は責任持って送りますので。
「どうしてもだよ」
「じゃあ一緒に行ってあげる!」
かぐやが嬉しそうに俺の手を取った。
その瞬間、
「!?」
バチン! と繋がったはずの俺たちの手が叩かれた。
かぐやは唐突のことで呆けるが、俺は薄々分かった。
「さく姉?」
「え?」
麻衣の声にさくらちゃんが虚ろな瞳で返す。
そして自分の手を見て気付いたのだろう。
叩いたのは自分であることに。
「ご、ごめんなさい!? 痛くなかった?」
俺とかぐやに必死に謝ってくる。
「だ、大丈夫よ。少し驚いたけど」
未だに状況を分かっていないかぐや。
酷く困惑している。
不味いな……。
さくらちゃんが嫉妬のあまり手を出してきたなんて言えるわけない。
「ほら、早く行こう! 遅刻しちゃうよ?」
重たい空気を破ってくれたのは麻衣だ。
微笑みで暗いものが流れていく。
出来た妹を持ったもんだよ、本当に。
「そうね。遅刻なんて八重橋家の名折れだわ!」
ついてきなさい! と先頭を歩き出すかぐやに俺は苦笑する。
なんだかんだ言って明るいな、あの子は。
「さくらちゃん」
自分がしてしまったことに身体を強張らせている彼女の手を取る。
「行こっか」
「……うん」
俯いたままの返事。
彼女の耳に唇を寄せる。
「嫉妬してくれたの? 可愛い、ね」
あ、耳が紅くなった。
本当に可愛いな、俺の彼女。




