さくらルート49
「ほら、ここに座って」
俺はベットに座り、隣をポンポン叩く。
さくらちゃんは大人しく座った。
そして俺の肩に頭を預けてくる。
二人だけの部屋。
電気を点けていないから身体を寄せあってる俺たちの境界線が曖昧になる。
「あんなこと、言うつもりじゃなかった」
ポツリとさくらちゃんが呟く。
「お母さんと久し振りに話したの。なのに胸に込み上げてきたのが、あんな言葉だった」
「さくらちゃんは悪い子だね」
「ごめんなさい……」
俺は素直に謝るさくらちゃんの頭を優しく撫でる。
「寂しかったんだよね。だからつい怒っちゃった。本当はお母さんのこと嫌いじゃないでしょ?」
「うん……」
「なら、仲直り出来るよ」
さくらちゃんが安らぐように自分の腕で身体を包んでやる。
「りっちゃん」
「何?」
「りっちゃんはどうして優しくしてくれるの?」
「誰だって好きな子には優しくするよ」
「優しくしないで」
さくらちゃんが手で俺を突き放す。
「私は最低な女だから。汚い女だからりっちゃんにたくさん秘密にしてるし、騙してる」
俺だって自分の正体を隠している。
誰だって語れないことがある。
だからこそ大事なことはーー
「でもちゃんと後悔してるんでしょ?」
罪悪感の有無。
「だけど、りっちゃんに優しくされる資格なんてないよ……」
「優しくするのに資格とか要らないよ」
「じゃあ嫌いになってよ」
さくらちゃんが俺を見つめる。
彼女の瞳にはハートのマーク。
心臓の鼓動が速くなる。
「私はこの力で男の子を取っ替え引っ替えしてた。この目があれば、皆が私を好きになってくれる。りっちゃんだってそうだよ」
俺はなすすべもなく、さくらちゃんに押し倒される。
「手を繋ぐのだって初めてじゃない。デートも、キスだって。それに私をいじめてた人たちが言ってたのは本当だよ? 階段から落ちたりっちゃんが記憶喪失になってくれたから私は何の罪にも問われない。ラッキーとさえ思った」
さくらちゃんは俺に抱きつき、耳許に唇を寄せる。
「それでも嫌いにならないなんて無理でしょ?」
ハートマークの瞳はいわゆる『魅了』の力なのかもしれない。
だけど残念だ。
俺はそんなものがなくても、さくらちゃんが好きだ。
だって君とゲームの画面で出会ったあのときから俺は恋い焦がれていたんだから。
「そっか。私は初めての恋人じゃないのか~」
俺はわざとらしく声をあげる。
「何人ぐらいと付き合ったの?」
「さあ。覚えてないよ。皆、一ヶ月も付き合わなかったし」
「何で?」
「好きじゃなかったから、かな」
「好きじゃなくなったら、私のことも捨てるの?」
俺を抱き締めるさくらちゃんの腕が強張る。
「そんなこと言わないでよ……」
はい、でもーーいいえ、でもない答え。
今のさくらちゃんには意地悪な質問だったかもしれない。
「ねえ、さくらちゃん」
「………………」
「さくらちゃんって処女? 痛ててて!」
思いっきり頬をつねられる。
「りっちゃん、最低」
身体を起こしたさくらちゃんはムスッとしていた。
良かった。
さくらちゃんの涙は拭えたようだ。
「誰にもあげてないよ」
「え?」
さくらちゃんが頬を染めて目を逸らす。
冗談っぽく訊いたつもりだったのだが……
「初めては好きな人にって、決めてたから」
「お、おう」
まっすぐに言われると、何か俺の方が気恥ずかしくなった。




