さくらルート48
「どう、少しは落ち着いた?」
「あ、ありがとう」
さくらちゃんのお母さんにはリビングのソファーで休んでもらった。今は母さんが一緒に看てくれている。
「久し振りね。最後に会ったのは立花たちの高校入学の時だったかしら」
「そ、そうね」
どうやら二人はママ友というやつらしい。
「あのー、さくらは?」
「お風呂で髪乾かしてますよ」
「そう。あの子の髪長いからね」
さくらちゃんのお母さんは口を手で隠して微笑む。
こうして改めて見ると、柔らかい雰囲気とかがさくらちゃんと同じだ。
やっぱり親子なんだ。
「それで今日はどうしたの? 電話まで掛けてきて」
「さくらのことが心配で」
心配?
何かあったのか?
「あの子、中学三年生ぐらいから男の子と遊ぶことが増えてね。今のところ何もなかったのだけど。今日はお泊まりっていうから。ほら、やっぱり恋人のお泊まりって言ったら、ね?」
なるほど。
大事な一人娘が男の家で一晩過ごすと思ったら親としては気が気ではなかったのだろう。
しっかりとしたお付き合いならまだしも、高校生というのは過ちを犯し易いものだ。
…………ていうか。
さくらちゃん、男子と遊ぶことが多いの?
「でも、良かった。立花ちゃんなら安心ね。付き合っているのが立花ちゃんって聞いたときは驚いたけど」
「良いんですか? 私、一応女の子ですよ?」
中身は男だけど。
でも、世間的には認められないことだろう。
百合と言えば聞こえは良いが、過激的な考えを持つ人からはレズとか言われるのだろうか。
「そう、ね。言いたいことがないわけじゃないんだけど」
さくらちゃんのお母さんはクスリと笑う。
「どうしてかしらね。昔からさくらと立花ちゃんは一緒に居たから違和感がないのよ。でしょ?」
「ふふ。そうね」
さくらちゃんのお母さんの言葉に母さんも微笑む。
「あれ、お母さん?」
声に振り返ると、さくらちゃんが居た。
「何かあったの?」
「ううん。大丈夫よ。あなたのことが心配で様子を見に来ただけだから」
「私の、心配?」
さくらちゃんの瞳がつりあがる。
「今までほったらかしにしてたのに? どうして今さら!」
まるで噛みつくような言い方。
「そんなことないわ。さくらのことはずっとーー」
「嘘吐きッ!」
さくらちゃんの声がビリリとリビングの空気を震わせた。
「なら、どうして私はいじめに苦しんでたの? お母さんたちが何もしてくれなかったからじゃん。私を助けてくれたのは、いつもりっちゃんだけだった!」
さくらちゃんの言葉の刃は、さくらちゃんのお母さんに突き刺さった。
自分に非があると黙ってしまう。
さくらちゃんの思いを受け止めようとしているのだろう。
「どうして何も言わないの?」
だが、さくらちゃんはそれが逆に気に食わなかった。
「もう良いよ。お母さんなんて嫌い」
さくらちゃんがリビングを出ていってしまう。
俺は一瞬呆けてしまうが、すぐに後を追う。
「さくらちゃん、どこ行くの?」
玄関で靴を履き始めていたさくらちゃん。
「少し、散歩でもしてくる」
「外は寒いよ? 湯冷めしちゃう」
「大丈夫だよ」
「なら、何で泣いてるの?」
「……泣いてないよ?」
「鼻声になってるよ?」
ちょっとの沈黙。
さくらちゃんは涙を拭う。
「……鋭いりっちゃんは嫌い」
「ふふ。嫌われちゃった」
俺は冗談混じりに笑う。
「私の部屋に行こうよ。そこなら二人っきりになれるから」
「……うん」
俺はさくらちゃんの手を引いた。




