さくらルート46
さくらちゃんが何を言っているのか分からない。
「え~と。舌入れるってどういうこと?」
「キスだよ」
……………………………………………………………………………………………なぬ?
「それってベロチューってやつ、だよね?」
「うん……。友達が気持ち良いって言ってたから」
誰だ誰だ? さくらちゃんにそんなことを教えた奴は。
さくらちゃんは純粋だから疑いもせずにやろうとするじゃないかッ!!
「ねえ、ダメ?」
「そんなこと急に言われても……」
恋愛素人の俺にベロチューはハードルが高すぎると思うんだが。
「ちゅ」
「わあッ!?」
耳への柔らかい感触に俺は思わず声をあげてしまう。
「ふふふ。りっちゃん今、ビクンってなってたね」
俺にいたずらしたさくらちゃんがクスリと笑う。
「りっちゃん、したいよ。ねえ、良いでしょ?」
さくらちゃんが俺の方を向いて身体を寄せてくる。
もうダメだ。
いろいろ見えてるし、いろいろ当たってるし。
いやいや待ってくれ。
さくらちゃんは王道の清純派ヒロインのはずなのに!
相島 立花相手だと痴女り過ぎやしませんかね!
『さつかそ』で見てきた俺のさくらちゃんへのイメージが崩壊していくと同時に、さくらちゃんとあんなことやこんなことをするという妄想が湧き出してくる。
ダメだ!
さくらちゃんのことは好きだけど、今は相島 立花なんだ。
彼女に申し訳なくなる。
………………そうだ!
こういうときこそ麻衣が来てくれれば!
「麻衣ー!」
俺は扉に向かって名前を呼んだ。
「……あれ?」
反応がない。
聞こえなかったのか?
「麻衣ちゃんなら来ないよ」
振り返るとにっこり笑うさくらちゃん。
「私がお願いしたの。りっちゃんと二人っきりで話す時間が欲しいって。だから来ないよ」
まさか事前に謀っていたとは……!
麻衣も良い子だから許可したんだろう。
でも今は大ピンチだぜッ!
「りっちゃん」
さくらちゃんが俺の首に腕を回してくる。
いつの間にかに俺の足を跨いでいた。
これじゃあ逃げることも出来ない。
「さ、さくらちゃん、落ち着いて。ベロチューは私たちにはまだ早いと思うんだけど」
「そうなの……?」
「うん。ほら、付き合い始めてまだそんな経ってないし」
「でも、友達は一週間ぐらいでしたって言ってたよ?」
わかんねー。
リア充たちのキス基準がわかんねー。
何?
そんなに積極的で良いの?
相手が引いちゃうとか思わないの?
え?
俺が小心なだけ?
恋人同士はそれが普通なの?
「!?」
スーっと首筋がなぞられて肩が跳ね上がる。
「まだ、残ってるね」
「え?」
さくらちゃんが愛しげに俺の首に触れる。
「あのときはごめんね。無理やりキスしちゃって。ここも痛かったよね?」
「あのとき? ああ」
首にまだ残るキスマークのことを言っているんだと分かった。
髪を洗っているとき、麻衣につけられた歯形は消えていたが、キスマークは小さな痣みたいになっていた。
さくらちゃんが俺の鎖骨辺りに頭を乗せてくる。
「最近ね。りっちゃんが欲しくて欲しくて堪らなくなっちゃうの。そんな自分が怖い。せっかくりっちゃんとまた一緒に居られるようになったのに。また、失ったらどうしようって。それなら今のうちにりっちゃんの全部をって。あはは」
さくらちゃんが笑う。
だけど、いつもの楽しげなものではなく、まるで自分に呆れているかのような乾いたものだ。
「でも、りっちゃんが嫌ならキスとか我慢する。だから、もう少しこのままで居させて」
さくらちゃんがゆっくりと目を閉じる。
「ねえ、さくらちゃん」
「何?」
「髪まとめた方が良いよ。お湯に浸かりっぱなしだと、さくらちゃんの綺麗な髪が痛んじゃう」
俺の言葉にさくらちゃんは顔をあげると、クスリと笑う。
「もう! ムードが台無しだよ~」




