さくらルート 結晶の世界
頭がボーッとする。
でも目覚めなくちゃならない、と俺は重たい瞼を開く。
とてもとても暗い世界。
いや、真っ黒で何も見えない闇。
ここは何処だ?
「…………?」
俺は何かを握っていた。
恐る恐る手を開いてみる。
これは……《絆の結晶》?
虹色だから相島 立花のか?
でも、どうしてこれがここに?
虹色の結晶をよく見ようと目の前に翳す。
「うわッ!」
結晶が眩しく光ったので俺は思わず顔を逸らした。
チカチカする目を何度も瞬きをして治していく。
「何だったんだ、今の? ん?」
世界が少しだけ明るくなっていた。
光源を目で追うと俺が手に持っているものと同じものが無数に足元に散らばっていた。
その先に誰かの背が見える。
あの人なら何かを知っているかもしれない、と俺は何故か思った。
だから《絆の結晶》で出来た道を進んでいく。
「あのーすみません」
俺が声をかけると相手はゆっくりと振り返った。
その顔を見て俺は目を丸くする。
「どうして……君が?」
相手は少女だった。
俺が何度も鏡で見た"相島 立花"だった。
「ああ、あなたが新しい魂か」
制服姿の相島 立花は冷めた表情で言った。
「私に何の用なの?」
「何の用って。君は相島 立花だろ? 俺は君の代わりをしてるんだよ。君の《絆の結晶》を成長させて、君がまた戻ってこれるように」
上から目線で少しムッとしたが、そこは抑える。
「あなたの言っている相島 立花は私じゃない。あなたが言っているのは私を捨てた子でしょ」
彼女が何を言っているのかまったく分からない。
相島 立花が相島 立花を捨てたってどういうことだ?
「……紛らわしかったね」
俺が難しい顔をしたからだろう。
相島 立花が一度深呼吸をする。
「私は魂に捨てられた《絆の結晶》。身体に刻まれた記録でしかない」
「記録?」
記憶ではなく彼女は"記録"と言った。
「君はここで何しているの?」
「何もしてないよ。ここで終わるのを待っているだけ」
「終わるって?」
「魂が消えたら身体は腐って朽ちるだけ。つまり私はそのうち消える」
「消えないよ。俺が居るから」
俺が相島 立花の代わりの魂らしいから、この身体は大丈夫なはずだ。
それよりも俺は気になることがあった。
「君が相島 立花の記録だというなら、三年前に相島 立花が階段から落ちたときの記録もあるの?」
「あるよ。相島 立花が見たモノ、聞いたモノ、触ったモノ、感じたモノの全て。記憶と違って記録は忘れるってことはないから。でも調べてどうするの?」
「確かめたいんだ。さくらちゃんが本当に相島 立花を突き飛ばしたのかを」
「本当にさくらちゃんがやっていたとしたら?」
どこまでも冷めた声。
俺は一度言葉に詰まったが、想いを吐き出す。
「だとしたとしても、さくらちゃんが泣いていた。その涙を拭ってあげたい。それだけじゃダメかな?」
「……そう」
相島 立花はフッと柔らかく微笑む。
だが、すぐに笑みを消す。
「なら探してみたら」
「え、何処を?」
相島 立花は下を指差す。
下を見るが無数に散らばる《絆の結晶》の破片しかない。
まさかーー
「この中から探すの?」
コクリと頷く相島 立花に俺はガックリと肩を落とした。




