さくらルート バッドエンド
「さくらちゃんが、突き飛ばした……?」
少女の言葉を繰り返すが、まったく頭に入ってこない。
いや、思考することを拒絶している。
「アンタが、お姉ちゃんを?」
麻衣も怒りを通り越して動けない。
「お姉ちゃん、怪我をしたんだよ? 死ぬかもしれなかったんだよ?」
「……………………」
絞り出される麻衣の声。でも、さくらちゃんは俯いたまま何も答えない。
「最低だよな? 殺しかけたのに相島が記憶喪失になったからラッキー! って黙ってたんだ」
少女の言葉からは嘘を感じられない。
ただ自分の知っている過去をそのまま話しているようだった。
じゃあ本当に……
「さくらちゃんが、私を階段から突き飛ばしたの?」
「……………………」
「黙ってちゃ何も分からないよ?」
「……私は」
さくらちゃんがゆっくりと口を開く。
「私は、りっちゃんを助けたかった。でも、ダメだった……。全部」
さくらちゃんが顔をあげる。
「全部、あなたたちのせいだッ!」
さくらちゃんの瞳にハートのマークが刻まれる。
ゾワリと背筋が凍った。
まるで得体の知れないものがそばを通ったような感覚だ。
「どうしたの!?」
声に振り返ると、少女が蹲っていた。取り巻きたちが訳も分からず彼女を介抱する。
少女は胸を押さえて苦しんでいる。
呼吸が明らかにおかしい。
空気を求めて口をパクパクさせているが、身体が痙攣していて顔が赤から白くなっていく。
何が起こっているのか分からない。だけどさくらちゃんがこの事態を起こしているのは分かる。
そしてそれが良くないことだということも。
「さくらちゃん止めてッ!! このままだとこの子が死んじゃう!」
「私たちの邪魔をする人は皆、死んじゃえば良いんだ!」
よほど興奮しているんだろう。
俺の言葉が届かない。
どうすれば良いんだ!?
さくらちゃんを止めるためには何をすれば!?
「りっちゃん、ごめんね」
さくらちゃんが悲しげに笑う。
涙も溢れ落ちている。
瞳を細めると再び少女を見た。
「私が、終わらせるから……」
「さくらちゃん!?」
ハートのマークの色が赤黒くなった。
さくらちゃんは少女を殺す気だ!
俺は二人の間に飛び出す。
「りっちゃん、ダメッ!」
さくらちゃんと俺の視線が重なる。
ドクン
ドクンドクン
ドクドクドク
ドクドクドクドクドクドク
ドクドクドクドクドクドクドクドクドク
ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
鼓動が速い。
心臓が痛い。
何度も握り潰されているみたいだ。
「うぐっ」
息が苦しくなっていく。
ふらついて立っていられなくなる。
「あれ……?」
つうーっと口元を何かが流れる。
手の甲で拭うと、真っ赤になる。
「何、で?」
血が止まらない。
頤から床へと落ちていく。
胸が熱くなる。
肺から込み上げてくるもの。
「ごほっ、がはっ」
咳き込むとびちゃっと血が飛び散る。
「さくら、ちゃん」
そこで俺の意識は途絶えた。




