さくらルート42
「止めてッ!」
少女の声を遮ったのはさくらちゃんだった。
「お願い! りっちゃんだけには言わないでッ!」
さくらちゃんが少女に追い縋る。
少女は煩わしそうに手で払おうとしたが、何かを思いついてニヤリと笑みを深める。
「タダでお願いするなんて礼儀がなってないな、神崎は」
そうだそうだと取り巻きたちもさくらちゃんを囲む。
「何でも、します。だから、お願い……」
「お願い"します"だろ? 敬語も使えないんじゃあどうしようかな~」
「……お願い、します」
今にも泣き出しそうな声。
跪いて頭も床につきそうなほど下げている。
「そうだよ。神崎は中学から私のパシリだもんな! だっていうのによ。頭の良い高校に入って逃げやがってよ。でも、まあ。これからよろしく。なあ、神崎?」
「……はい」
「ふざけんな!?」
声をあげたのは麻衣。
目尻をつり上げている。
「アンタはまたお姉ちゃんを裏切るつもりなの? お姉ちゃんを苦しませ続けるの!?」
「ごめんなさい……」
「何がごめんなさいだ! この裏切り者ッ!」
麻衣の足が動いた。
その動作はさくらちゃんを狙ってる。
「クソッ!」
俺は少女の手を振り払ってさくらちゃんの前に出る。
「痛って!」
麻衣の蹴りが俺の脛に当たる。
弁慶の泣き所は本当に泣きそうなほど痛かった。
「何で? 何で、お姉ちゃんはいつもソイツを庇うのよ!?」
麻衣の瞳にも涙が溜まり出す。
それを見てしまったら脛の痛みなんて感じられない。
大好きな、大切な女の子を二人も泣かせてしまった。
男として最低だ。
恥ずべきことだ。
「あははッ! もっとやれ!」
俺たちを馬鹿にする声が聞こえる。
ウザい。
イラつく。
頭がガンガンする。
相島 立花が怒っている。
さくらちゃんと麻衣の涙を見て怒っている。
ああ、ダメだ。
暴力じゃ根本的な解決は出来ないと思っているはずなのに。
今すぐ二人を助けるために俺は怒っている。
相島 立花たちを苦しませた元凶を排除しようと身体が動いてしまう。
「てめえッ!!」
ガッと少女の胸ぐらを掴み、壁に押しつける。
「さくらちゃんに謝れ! 麻衣に謝れッ!」
「うぐッ!」
女子高生の身体とはいえ本気を出せば関係ない。
俺の手から逃れようとする少女。
爪が俺の手に食い込むがどうでも良い。
「止めて、りっちゃん。もう良いの」
さくらちゃんの苦しげな声が耳に届く。
それだけで怒りがスーっと引いていった。
「本当に苛立つな、お前らはよ! 仲良しこよしがうざってえんだよ」
ドンと身体を押されて俺はよろめく。
少女は苛立ちの混じった煩わしそうな瞳でさくらちゃんを見る。
「ああ、冷めたわ。もう良い。神崎、お前も要らないから」
俺たちは呆ける。
そしてーー
「相島、お前を階段から突き飛ばしたのは神崎だよ」
絶望の底に叩きつけられた。




