さくらルート34
映画が始まるまでの時間。
さっき決めた通りに映画館の近くの店に来たが……
「……ここに入るの?」
俺の目の前に立ち塞がったのは男子が寄りつくことを許されない聖地。
非モテだった俺にとってはまさに異界の地。
ランジェリーショップだ。
「ちょっと新しいのが欲しくて。その~少しキツくなっちゃったから」
さくらちゃんが少し恥ずかしげに笑う。
最後の方は小声だ。
というかーー
「まだでかくなるの!?」
俺の心の代弁者は麻衣だった。
うん。分かるよ。
あの素晴らしき双丘が成長途中とはビックリである。
……俺、あれ触ったんだよな。直じゃないけど。
ヤベエ。
感触とか思い出しそう。
「私は神様に見放されたのか~」
自分の胸に触れて肩を落とす麻衣。
麻衣は女の子としては十分あるように思えるので俺は気にしないが、女の子には女の子なりの悩みがあるんだろう。
それにしてもとても気まずい。
身体は女の子だが、中身はDTだ。
女性の下着に囲まれて落ち着いていられるはずがない。
「りっちゃんはどんなのが好きなの?」
「え!? あ、どうって何が?」
さくらちゃんに声をかけられて俺はパニクる。
「色とか形とか」
下着の好みなんて女子としては普通の会話なのか?
男は女子のパンツの話しはするが、自分たちのパンツの話なんてしないぞ。
「え、えーと」
女性下着なんて無心でつけられるようになったのも最近だというのに。
……自分でつけるやつか。
俺の好きなやつ。
黒とか赤とかの格好良いのとか?
いや、中身は男でも女性下着なんだからフリルのついた可愛いのとか?
女性下着って何が正解なんだ?
ボクサー一択だった俺にはどうにも分からん!
「りっちゃん?」
「あーそれとか?」
俺は困り果てた末に適当に目の前にあったものを指差す。
「これが良いの……?」
少し頬を赤くするさくらちゃん。
俺はいかにもセクシーで大人向けな黒紫のブラジャーとパンツのセットを選んでいた。
不味い。
変に思われたか?
「りっちゃんが良いなら……良いよ。あ、でも私のサイズあるかな………………あ、あったあった」
さくらちゃんは特に気にした様子はなかった。
何とか乗り越えたようだ。
……
…………
………………。
今、『私のサイズ』って言ったか?
俺のサイズじゃなくて?
え……
まさか!?
気付いたときにはさくらちゃんは俺が選んだ下着のセットを持って試着室に入ってしまった。
さくらちゃんがあのエッチな下着をつけるのか?
しかも俺が選んだやつ?
「口が開きっぱだよ、お姉ちゃん」
「は?」
「は? って。だから口! 閉じたら?」
「あ、ごめんごめん」
あまりの衝撃に放心してしまっていた。
「じゃあ私も適当に見てくるから。お姉ちゃんは?」
「私はここで待ってるよ。さくらちゃんに声をかけられるかもしれないし」
「ふーん。分かった」
麻衣は俺に疑いの眼差しを残して自分の下着を選びに行った。




