さくらルート29
俺はリビングのテーブルで身を縮ませていた。
何故なら母さんと麻衣にジーっと見られているからだ。
麻衣の方に至っては半ば睨んできている。
「お姉ちゃん、その首のキスマークはどういうことですか?」
冷めた怒りの声が麻衣から発せられる。
「これは、ぶつけて痣になっただけで……」
「言い訳しないの! どっからどう見てもキスマークじゃん!?」
普段優しい麻衣に怒られると結構辛い。
「ねえ、立花。立花が別に誰と交際しててもお母さんは責めたりしないわ。だけど、まだ高校生だし、そういうのは早いと思うのよ。ね?」
キスマークがあるからそういうことをしたと思われている。
まあ、直前までいったので何も言えないが。
「さっき学校で寝てたって嘘だったってこと?」
麻衣が眉間に皺を寄せて詰問してくる。
「それは嘘じゃないよ」
「じゃあ何? 保健室にでも行ってどっかの男としてたの?」
「いや、寝てたってそういう意味じゃあ……」
ていうか、意外とマセてるな。
麻衣ぐらいの年齢なら当たり前か?
「相手は誰? 学校の奴?」
麻衣は相当ご立腹のようだ。
ここでさくらちゃんの名前を出して良いものか迷う。
「お母さんも立花の交遊関係とか気になるの。教えてくれないかしら」
母さんの方は相島 立花という少女を信頼しているからだろう。懇願に近い言葉だった。
「分かったよ。怒らないで訊いてね?」
俺は一度深呼吸をして覚悟を決める。
「さくらちゃんと少しあっただけだよ。一応言っておくけど一線は越えてないから」
「なななッ!?」
「あら」
俺の言葉に麻衣は顔を真っ赤にし、母さんは目を丸くする。
「さくらちゃんって、あのさくらちゃんよね。立花たちと昔遊んでた?」
「そう。この前来たさくらちゃん」
「ちょっとどういうことお姉ちゃん!? まさかアイツとそんなことしてたの!? なんで!?」
「落ち着いて」
テーブルから身を乗り出さんばかりの麻衣
俺はドウドウと興奮した馬を扱うように宥める。
「何でって言われても……。何かそういう感じになっちゃって」
「アイツのところに行ってくる!」
「ちょっ!?」
麻衣の唐突な行動に俺の反応が遅れた。
麻衣がドアノブに手をかける。
「麻衣、座りなさい」
リビングから飛び出そうとしていた麻衣だが、母さんの一声で握っていたドアノブから手を離す。
振り返った顔はムスッとしていて不機嫌さを表すようにわざと音を発てて席に戻る。
「それで、二人は恋仲なの?」
母さんが柔らかい声で訊いてくる。
「まあ、そういう感じ。やっぱりおかしいかな?」
「そんなのおかしいにーー」
「麻衣」
声を荒げる麻衣を母さんが諌める。麻衣も反駁せずに口を閉ざす。
「立花はさくらちゃんが好きなの?」
「うん。好きだよ」
「そう」
母さんは目を閉じ、俺の言葉を咀嚼してゆっくり何かを確認するように考える。
「なら良いんじゃないかしら。危ない人と関わっているわけじゃなさそうだしね」
母さんはあっさりとそう言った。




