さくらルート23
「不味いな」
学校に来たは良いが、さっきからさくらちゃんに避けられている。
「ねえ、さくらちゃん」
「ご、ごめん! 先生に呼ばれているから!」
「ああ、じゃあまた……」
似たようなことを数回繰り返してついには放課後。
明らかに昨日のことで気まずくなっている。
「ふむ。どうしたものか」
「どうしたのさ?」
俺が席から動かないからだろう。
今から帰ろうとしていた友野が声をかけてくる。
「色々あってね。お互いに気まずいときってどうすれば良いかな?」
「神崎さんと喧嘩でもした?」
「わざと名前を言わなかったのに……。喧嘩ではないんだけど、どうしたら良いか分からなくて」
「一旦距離を置いたら?」
「え、それで仲直り出来るの?」
予想とは違う答えに俺は目を丸くする。
「忘れたの? 神崎さんの好感度は七十億だよ。それでも避けるってことは理由があるんじゃないのかな」
じゃあ帰るね、と友野は教室を出ていく。
あいつ今日発売のゲーム買うのに忙しくて適当なことを言ってないだろうな。
距離を置くか……。
そういうものなのだろうか?
じゃあ、まあ二、三日ぐらい。
俺からは話しかけないでおこう。
というわけで……
一週間経過。
「やべえ。全然さくらちゃんと話してねえ」
何のイベントもなく、あまりにもスムーズに時間が進んでしまったから気づけばこんなことになっていた。
俺は頭を抱える。
チラリとさくらちゃんを見ると、あっちは普通に過ごしている。
……おかしいな。
俺たちって恋仲になったはずじゃ。
まさか全部夢?
「なあ、友野」
「おん?」
隣でスマホゲームをする友野に声をかける。
「この前の眼鏡で好感度調べてくれないか?」
「良いけど。どうして?」
「いや、最近さくらちゃんと何ともなくて。冷めちゃったのかなって」
「恋が?」
「恋が」
「まっさか~」
ケラケラ笑う友野はさっそく秘伝の好感度眼鏡で俺とさくらちゃんを見てくれる。
「……相島さん」
「ど、どうだった?」
俺は緊張のあまりごくりと唾を呑み込む。
「今日は帰った方が良い」
「え、何で?」
「ヤバいから」
「まさか下がってる?」
「下がるどころか上がりすぎて測定不能。俺にもどうなるか分からない」
「へ?」
こちらを振り返った友野の眼鏡にヒビが入っている。
「お前、それ大丈夫か!?」
「俺のことは良いから。帰りのホームルームが終わったら逃げて」
友野の表情が固い。これはマジでヤバいのかもしれない。
そしてホームルームが何事もなく終わり、俺は静かに教室を立ち去る。
さくらちゃんはクラスメイトと話していたからバレていないだろう。
「りっちゃん」
「!?」
俺は声に跳ね上がる。
「酷いよ、先帰っちゃうなんて」
振り返るとさくらちゃんが笑っていた。ニッコリと。
「いや~。さくらちゃん、他の子に捕まってたから忙しいのかなって」
「私がりっちゃん以外の子を優先するわけないよ」
俺の苦しい言い訳も笑顔で答える。それが逆に怖い。
「私、お腹痛いからついてきてよ」
「え」
嘘だとすぐに分かった。だけどここでさくらちゃんを置いていくなんて俺は出来ない。
「それは大変だね。分かった。一緒に行こうか」
「……ありがとう」
さくらちゃんは俺の手を握って歩き出す。
トイレに行くだけだというのにヤバイ場所にでも連行されるんじゃないのかという恐怖で心臓が痛い。縄で思いっきり締め付けられているみたいだ。
「外で待ってるよ?」
「中まで行こ?」
トイレについても離れない手。
そのまま個室へ。
「さくらちゃん? 痛ッ」
個室に入るなり俺は身体を押されて蓋の閉じた便座に座らせられる。
ガチャンと鍵が閉まる。
「……さくらちゃん?」
俺は目の前に立つさくらちゃんを恐る恐る見上げる。
「もう逃げられないよ?」
俺を見下ろす、さくらちゃんの瞳は冷たかった。




