さくらルート21
麻衣が言うには廊下を歩いていると言い争う声が聞こえたらしい。
何事かと思って声の方に向かうと目の前に誰かが転がってきた。
その誰かが麻衣の姉の相島 立花だったらしい。
「お姉ちゃんは頭を強く打ったみたいで血も出たんだよ。救急車で運ばれて手術までしたし」
「その言い争ってった相手って?」
「それは分からない。私がお姉ちゃんを助けようとしたときには周りに誰も居なかったから」
「……そうか」
そのときの相手に話を訊けば原因が分かるかと思っていたが残念だ。
「でも急にどうしたの? 私たちが中学のときだからもう三年も前の話だよ?」
「あーいや。少し気になっただけ。そのときにも記憶喪失になったみたいだし、今回の記憶喪失と関係があるのかなって」
「なるほどね。でも前の記憶喪失は階段から落ちた前後の記憶が無くなっただけだからね。今回みたいにまるまる忘れたわけじゃないし」
つまり三年前は頭を強く打ったショックで本当に記憶喪失になったということか。
分かったのはそれだけ。
……あとはさくらちゃんに話を訊くしかない。
だが、せっかく仲直り出来たのに過去のことを訊いて関係が悪くならないだろうか。
だけど相島 立花に何かあったのだとしたら三年前のことだと思った。
彼女がどうして俺に代わりを求めたのかが知りたい。
昨日の神様は理由を知らないと言っていたが相島 立花の最後を知っているのは恐らく彼女だろう。
ここに神様が居れば。
「呼びましたか?」
「おわっと!?」
突然神様が現れた。
「驚かさないでよ! ていうか呼べば来てくれるの?」
「あなたが勝手に驚いただけです。それに何か異常があれば来ますよ。あなたは貴重なサンプル。常に観察しているので」
神様が淡々と答えるので俺もすぐに落ち着けた。
そこで初めて気付いた。
世界が止まっている。
隣の麻衣も遠くの車も散歩中の飼い主と犬も音も動きもなくなっていた。
「神様って凄いんだな」
「それで何を訊きたいのですか?」
「ああ、うん。契約したときの相島 立花はどんな様子だった?」
「……さあ?」
「え、話したんだよね?」
俺は神様に思わず呆ける。
「昨日も言いましたが契約以外はどうでも良かったので」
「何かないの? 怒ってたとか、泣いていたとか」
「人間が表現する感情は興味ありませんので」
俺は嘆息する。
この神様は本当に人間を実験体にしか思ってない。
「ですがひとつだけ」
神様が言葉を続ける。
「相島 立花。彼女の《絆の結晶》が粉々に砕けていました」




