さくらルート11
「ん。ん……んあ?」
俺は目覚める。
「あれ? 俺寝てたのか?」
ボーッとする頭を振り、記憶をゆっくりと引き戻す。
「そうだ。さくらちゃんのお見舞いに来て、それでーー」
辺りを見渡すが、リビングには誰も居ない。俺だけがソファーの上でポツリと存在しているだけだ。
と、いうか。リビングは薄暗くてカーテンを開けた先の窓は夜になっていた。
今は何時だろうか?
俺はポケットに入れていたスマホを取り出して電源を入れる。
「七時前か。がっつり寝ちまってたな。うッ!?」
急に世界が眩しくなる。
思わず俺は腕で顔を覆った。
「あ、ごめんね。起きてた?」
視力が戻り、目を凝らすと声の主はさくらちゃんだった。
「ううん。大丈夫だよ。それより体調はどう?」
「ふふ。おかげさまです」
柔らかく微笑むさくらちゃん。表情に辛さはなく熱も落ち着いていそうだ。
「なら良かった。じゃあ私は帰るね。みんな心配してるだろうし」
「……うん」
俺はそのときのさくらちゃんの表情を見逃せなかった。
「両親はいつ帰ってくるの?」
「共働きでいつも遅いよ。九時とか十時ぐらい。小さい頃からそうだから慣れっこだよ」
「……そうか」
俺はスマホを手に取る。
「あ、もしもし。ごめんね、遅くなって。うん、さくらちゃんは大丈夫だよ。あと、ご飯はこっちで済ませるから。うん、九時過ぎにはちゃんと帰るから心配しないで。それじゃ」
家に一報を入れて俺は一息吐く。
「さくらちゃん、何が食べたい?」
「え、どうして?」
「私がさくらちゃんともう少し居たいからだよ」
「りっちゃん……!」
さくらちゃんの瞳から滴が溢れる。
「ああ、もう。泣かないで。ほら、出前でもとろう」
「りっちゃん、大好き!」
スマホで店を検索しようとした俺だが、さくらちゃんに抱き締められた。
「りっちゃん、りっちゃん」
「はいはい。ここに居るよ」
甘えるように俺の胸に顔を寄せるさくらちゃん。相島 立花にはやはり甘えん坊らしい
ああ、これ良いかも。ハマりそうだ。
さくらちゃんの桃色の髪に触れる。
やはり美少女の髪は艶があってサラサラで肌触りが良い。
「りっちゃんは私の髪が好き?」
ずっと触っていたからか。ふと、さくらちゃんが訊いてきた。
「好きだよ。さくらちゃんに合ってる」
「ありがとう。お母さんと一緒なんだ~」
照れたように笑うと、さくらちゃんは俺の膝の上に跨がった。そして手を伸ばし、俺の黒髪に触れる。
「私もりっちゃんの髪好きだよ。ううん。りっちゃんのものなら何でも好き」
手は俺の髪から頬へ、そして親指が俺の唇へ。
「りっちゃんは私のこと好き?」
「好きだよ」
さくらちゃん相手にこの気持ちを偽れるわけない。
「私も好きだよ、りっちゃん……んっ」
さくらちゃんの唇が俺のと重なった。
俺は驚いたが、身体は受け入れていた。
だが、両想いだというのに俺の心は満たされなかった。
きっと感情が瞳から溢れ落ちているからだ。




